司法書士の過去問
平成30年度
午前の部 問7

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問題

平成30年度 司法書士試験 午前の部 問7 (訂正依頼・報告はこちら)

物権的請求権に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

ア  Aの所有する甲土地の上にBが無権原で自己所有の乙建物を建てた後、乙建物につきBの妻であるCの承諾を得てC名義で所有権の保存の登記がされたときは、Aは、Cに対し、甲土地の所有権に基づき、建物収去土地明渡しを請求することができない。

イ  Aの所有する甲土地の上にBが無権原で自己所有の乙建物を建てた後、その所有権の保存の登記をしないまま、Cに乙建物を譲渡した場合において、乙建物につき、Aの申立てにより処分禁止の仮処分命令がされ、裁判所書記官の嘱託によるB名義の所有権の保存の登記がされたときは、Aは、Bに対し、甲土地の所有権に基づき、建物収去土地明渡しを請求することができる。

ウ  Aが、Bの所有する甲建物を無権原で占有し、甲建物に増築をした場合には、当該増築部分が甲建物の構成部分になったときであっても、Bは、Aに対し、甲建物の所有権に基づき、当該増築部分の撤去を請求することができる。

エ  Aの所有する甲土地から、Bの所有する乙土地に土砂が流れ込むおそれがある場合には、Aが自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にあっても、Bは、Aに対し、乙土地の所有権に基づき、予防措置を請求することができる。

オ  Aが、Bとの間で、Aの所有する甲土地につき譲渡担保を設定し、所有権の移転の登記がされた場合において、Cが甲土地上に無権原で乙建物を建てて甲土地を占有しているときは、Aは、Cに対し、甲土地の所有権に基づき、建物収去土地明渡しを請求することができない。
  • アイ
  • アエ
  • イウ
  • ウオ
  • エオ

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この過去問の解説 (3件)

01

正しい肢はアとエで【正解は2】です。

ア ○ 判例(最判昭47.12.7)は、「建物の所有権を有しない者は、たとえ、所有者との合意により、建物につき自己のための所有権保存登記をしていたとしても、建物を収去する権能を有しないから、建物の敷地所有権者の所有権に基づく請求に対し、建物収去義務を負うものではない」としています。

イ × 判例(最判昭35.6.17)は、「土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明け渡しを請求するには、現実に建物を所有することによって、その土地を占拠し、土地所有権を侵害しているものを相手方とするべきである」としています。この場合の相手方はCです。

ウ × 判例(最判昭38.5.31)は、「増築部分が従来の建物の構成部分となっている場合には、その増築部分は民法242条(不動産の付合)により建物の所有者に帰属する」としています。この場合は、Bの所有になっているのでAに撤去の請求はできません。

エ ○ 物権的妨害排除請求権の相手方は、現に妨害状態を生じさせている者またはその妨害状態を除去することのできる地位にある者です。相手方に責任能力があるかどうかは要件にはなりません。これは妨害予防請求権においても同様です。

オ × 判例(最判昭57.9.28)は、「正当な権原なく目的物件を占有する者がある場合には、特段の事情のない限り、譲渡担保設定者は譲渡担保の趣旨及び効力に鑑み、占有者に対してその返還を請求することができる」としています。

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02

正解は2です。物権的請求権には①物権的返還請求権、②物権的妨害排除請求権、③物権的妨害予防請求権、があります。物権的請求権の行使には、故意・過失の有無は必要とされません。

ア…正しいです。物権的請求権にもとづく建物収去・土地明渡の請求相手は、実質的な所有者です。つまり、「現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者」であることが必要です(最判昭35・6・17)。「実際には建物を所有したことがなく、単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない者」や「未登記建物の所有者で、未登記のまま〔建物を〕第三者に譲渡した者」(最判平6・2・8)は物権的請求権の相手方に該当しません。よって、本問のCに対してAは物権的請求権の行使ができません。

イ…誤りです。実質的所有者でない限り、建物収去・土地明渡の請求の相手方とはなりませんが、例外として、他人の土地に建物を無断で建て、当該建物の登記を自分名義にしていながら、第三者に譲渡してしまった者は、登記が自分名義である限り、当該第三者への譲渡を理由に、建物収去・土地明渡の義務を免れることはできません。ただし、これには「自らの意思に基づいて建物の所有権取得の登記を経由していること」が要件です(最判平6・2・8、H14過去問)。したがって本問のBは自らの意思で登記したのではないので、Aは建物収去・土地明渡の請求ができません。

ウ…誤りです。建物を不法に占拠している者が増築をした場合に、当該増築部分が建物の構成部分となっている場合には、建物の所有者は、不法占拠者に対し、所有権に基づき増築部分を元に戻すように請求することはできません(H14過去問)。

エ…正しいです。物権的妨害予防請求権の要件としては、①侵害(本問では隣地への土砂の流入)が本当に予防されるべきものであること、②侵害が違法と評価されること、が必要とされています。その侵害が、請求の相手方自身の行為であるか否かは問題とされません(大判昭12・11・19)。よって、自己の行為に対する責任の有無が問題になることもないので、妨害予防請求の相手方となることができると考えられます。損害賠償請求権とは異なりますので注意が必要です。

オ…誤りです。所有権以外の、担保物権に基づく物権的請求もできます(H5過去問)。そして、正当な権限なく目的物を占有する者がある場合には、譲渡担保の設定者(本問のA)は、担保権者が換価処分を完結するまでは所有権の回復をできる可能性があるとし、占有者(本問のC)に対してその明渡を請求できる権利があります(最判昭57・9・28)。なお、担保権者(本問のB)にも、目的不動産の処分権の行使による換価手続きの一環として、明渡請求を認めた判例があります(高判昭59・10・16)。

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03

正解 2

ア 正しい
判例(最判昭和47年12月7日)は、本肢と同様の事案において、「建物の所有名義人が実際には建物を所有したことがなく、単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない場合も、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を負わないものというべきである。」としています。

イ 誤り
判例(最判平成6年2月8日)は、「甲所有地上の建物を取得し、自らの意思に基づいてその旨の登記を経由した乙は、たとい右建物を丙に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、甲に対し、建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。」としています。
判例の立場によれば、所有権登記の経由が自らの意思に基づくものでなければ、建物収去土地明渡しの義務を免れることになります。
したがって、本肢の場合、Aは、Cに対し、建物収去土地明渡しを請求することになります。

ウ 誤り
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得します(民法242条)。
本肢のように、増築部分が建物の構成部分になったときは、不動産に従として付合した物として、建物の所有者が付合した物の所有権を取得するため、BがAに対し、甲建物の所有権に基づき、当該増築部分の撤去を請求することはできません。

エ 正しい
物権的請求権としての妨害予防請求権は、権利侵害を受けるおそれがあれば、相手方に責任能力がなくとも行使することが可能です。

オ 誤り
判例(最判昭和57年9月28日)は、本肢と同様の事案において、「譲渡担保の設定者は、正当な権原なく目的物件を占有する者に対し、その返還を請求することができる。」としています。

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