司法書士の過去問
令和2年度
午前の部 問8
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問題
令和2年度 司法書士試験 午前の部 問8 (訂正依頼・報告はこちら)
占有に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、どれか。
ア A所有の甲土地上にあるB所有の乙建物をCがBから賃借して占有している場合において、Bが甲土地の占有権原を失ったときは、Aは、Cに対し、乙建物からの退去及び甲土地の明渡しを請求することができる。
イ A所有の甲建物をBがAから賃借して居住し、CがBの身の回りの世話をする使用人として甲建物でBと同居している場合において、AB間の賃貸借契約が解除されたときは、Aは、Cに対し、甲建物の明渡しを請求することができない。
ウ A所有の甲建物を、代金を約定期限までに支払わないときには契約が当然に解除されたものとする旨の解除条件付きで、BがAから購入して占有を始めた場合において、その解除条件が成就して売買契約が失効したときは、Bの占有は所有の意思をもってする占有ではなくなる。
エ 亡Aの遺産をB及びCが相続した場合には、Bが、その相続の時から、Aの遺産に属する財産について単独所有者としての所有の意思をもってする占有を取得することはない。
オ Aが、Bの所有する甲建物を自己の所有と偽って、事情を知らないCに賃貸している場合において、占有者Cがその責めに帰すべき事由によって甲建物を損傷させたときは、Cは、Bに対し、その損害の全部の賠償をしなければならない。
ア A所有の甲土地上にあるB所有の乙建物をCがBから賃借して占有している場合において、Bが甲土地の占有権原を失ったときは、Aは、Cに対し、乙建物からの退去及び甲土地の明渡しを請求することができる。
イ A所有の甲建物をBがAから賃借して居住し、CがBの身の回りの世話をする使用人として甲建物でBと同居している場合において、AB間の賃貸借契約が解除されたときは、Aは、Cに対し、甲建物の明渡しを請求することができない。
ウ A所有の甲建物を、代金を約定期限までに支払わないときには契約が当然に解除されたものとする旨の解除条件付きで、BがAから購入して占有を始めた場合において、その解除条件が成就して売買契約が失効したときは、Bの占有は所有の意思をもってする占有ではなくなる。
エ 亡Aの遺産をB及びCが相続した場合には、Bが、その相続の時から、Aの遺産に属する財産について単独所有者としての所有の意思をもってする占有を取得することはない。
オ Aが、Bの所有する甲建物を自己の所有と偽って、事情を知らないCに賃貸している場合において、占有者Cがその責めに帰すべき事由によって甲建物を損傷させたときは、Cは、Bに対し、その損害の全部の賠償をしなければならない。
- アイ
- アオ
- イエ
- ウエ
- ウオ
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この過去問の解説 (3件)
01
ア 〇 判例は、建物はその敷地を離れて存在しえないのであるから、建物を占有使用する者はこれを通じてその敷地をも占有するものと解すべきであるとして、建物を賃借して占有している者について、敷地に関する物権的返還請求の被告適格を認めている。(最判昭和34.4.15)
空中に浮いた建物は存在しませんよね。必ず土地の上に建物が建っています。
つまり、土地の上に何らかの権限をもって建物が建っているということです。
本肢は土地の上に建物が立っていますがBが土地の占有権限を失っているので無権利者になったことになります。
無権利者から賃借していた者もまた無権利者となりますから、土地に対してCは不法占有となるわけです。
よってAは不法占有者であるCに退去及び土地の明け渡しを請求することができます。
イ 〇 他人の使用人として家屋に居住するにすぎない者については、特段の事情のない限り、その不法占有を理由として家屋の明渡しを請求することはできません(最判昭35・4・7)
賃貸借関係は「あなただから貸した」という信頼関係に基づいてます。
AはBを信頼して貸した訳ですが、Cに建物を貸した訳ではありません。
しかし、Cは建物に居住したくてBと同居いるわけではなく使用人として建物に居住しているのです。
つまり、Cを家政婦として想像していただければおわかりいただけると思います。
家政婦は仕事として同居しているのでありますから不法占有に該当しません。
ウ × 売買契約に基づいて開始された自主占有は、当該売買契約が解除条件の成就により執行しても、それだけでは、他主占有に変わるものではない(最判昭60・3・28)。
つまり、売買契約が失効しただけで買主は他人のために占有するという意思に変わることなく、未だ物は自分の物だという意志に基づいて占有しているということです。
エ × 共同相続人の一人が、単独で相続したものと信じて疑わず、相続の開始とともに相続財産を現実に占有し、公租公課もその負担において納入し、これについて他の相続人が何ら関心をもたず、意義を述べた事実もなかった場合には、当該共同相続人の一人は、その相続の時から、相続財産について単独所有者としての自主占有を取得する(最判昭和47.9.8)
つまり、音信不通の兄弟姉妹や、失踪した兄弟姉妹、はたまた自分に兄弟姉妹がいるのかが分からない者も実務では多数存在します。
よって、相続人は自分しかいないと思い込んでいる場合、単独所有者として所有の意志をもってする自主占有を取得することができます。
オ 〇 本肢を一言でまとめると、Cは他主占有者だから善意であってもBに損害の全部を賠償しなければなりません。
なぜなら、所有の意思のない占有者は、善意であっても、全部の賠償をしなければならないと民法191条但書きがあるからです。
つまり、Cは賃借人ですから所有の意思のない占有者に当たります。
よって、損害の全部を賠償しなければなりません。
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02
ア 正しい
判例(最判昭和34年4月15日)は、本肢と同様の事案において、「建物は、その敷地を離れて存在し得ないのであるから、建物を占有使用する者は、おのづからこれを通じてその敷地をも占有するものと解すべきである。」としています。
判例の立場によれば、土地の賃借人において占有権原を失ったときは、同土地上の建物の賃借人は同土地の使用権を喪失することになります。
イ 正しい
判例(最判昭和35年4月7日)は、本肢と同様の事案において、「使用人が雇主と対等の地位において、共同してその居住家屋を占有しているものというのには、他に特段の事情があることを要し、ただ単に使用人としてその家屋に居住するに過ぎない場合においては、その占有は雇主の占有の範囲内で行われているものと解するのが相当である。」としています。
ウ 誤り
判例(最判昭和60年3月28日)は、本肢と同様の事案において、「売買契約に基づいて開始される占有は、当該売買契約に、残代金を約定期限までに支払わないときは契約は当然に解除されたものとする旨の解除条件が附されている場合であっても、民法162条にいう所有の意思をもってする占有であるというを妨げず、かつ、現に右の解除条件が成就して当該売買契約が失効しても、それだけでは、右の占有が同条にいう所有の意思をもってする占有でなくなるというものではないと解するのが相当である。」としています。
エ 誤り
判例(最判昭和47年9月8日)は、本肢と同様の事案において、「共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、もとより異議を述べた事実もなかつたような場合には、前記相続人はその相続のときから自主占有を取得したものと解するの
が相当である。」としています。
オ 正しい
占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合、善意の占有者はその回復者に対し、その損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負いますが、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければなりません(民法191条)。
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03
ア…正しいです。建物を占有使用する者は、その土地も占有するものと解され、建物所有者が土地の使用権を失った際には、建物占有者のする占有は不法占有になるため、土地の所有者は、建物占有者に対し建物収去・土地明渡請求ができます(最判昭34・4・15)。
イ…正しいです。他人の使用人として家屋に居住するにすぎない者については、特段の事情のない限り、その不法占有を理由として家屋の明渡しを請求することはできません(最判昭35・4・7)。原則として、使用人として建物に居住するに過ぎない者については、当該建物につき雇主との共同占有の関係にはなく、その占有は雇主の占有の範囲内で行われると解されます。
ウ…誤りです。売買契約に基づく占有は、残代金が期日までに支払われないときは、当該売買契約は自然に解除されたものとする条件が付された場合であっても、自主占有であるということを妨げず、また解除条件が成就して契約が失効した場合でも、当然に他主占有に変わるものではないとされます(最判昭60・3・28)。
エ…誤りです。共同相続人の一人が、被相続人の遺産に属する財産について、現実に占有し、管理・使用を専行して、収益を独占し、公租公課も自己の名で納付し、これについて他の相続人が何らの異議も述べなかったという事実関係の下では、当該相続人は当該財産につき、相続のときから、単独所有者としての自主占有を取得した者というべきとされています(最判昭47・9・8)。
オ…正しいです。善意の占有者は、滅失または損傷により現に利益を受ける限度において賠償責任を負うものとされていますが、自己の意思に基づかない占有(=他主占有)の場合は、損害全部の賠償責任を負います(191条)。また、占有における所有の意思の効力の有無は、占有取得の原因たる事実によって外形的客観的に定められるべきものであるので、賃貸借が法律上効果を生じないものであっても、賃貸借により取得した占有は他主占有というべきであるとされています(最判昭45・6・18)。よってCは全額について賠償責任があります。
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