司法書士の過去問
令和2年度
午前の部 問7

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問題

令和2年度 司法書士試験 午前の部 問7 (訂正依頼・報告はこちら)

不動産の物権変動に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、どれか。

ア  Aがその所有する甲土地をBに売却したものの、その旨の登記がされない間に、Bが甲土地をCに売却したときは、Cは、Aに対し、甲土地の所有権の取得を対抗することができる。

イ  成年被後見人であるAがその所有する甲土地をBに売却してその旨の登記がされ、Bが、Aが成年被後見人であることを知らないCに甲土地を売却してその旨の登記がされた後、AがBとの間の売買契約を取り消したときは、Aは、Cに対し、甲土地の所有権のAへの復帰を対抗することができない。

ウ  Aがその所有する甲土地をBに売却したが、CがBを害する目的でAから甲土地を購入してその旨の登記がされた後、事情を知らないDがCから甲土地を購入してその旨の登記がされたときは、Bは、Dに対し、甲土地の所有権の取得を対抗することができない。

エ  甲土地を所有するAが死亡し、その相続人が子B及びCである場合において、Bの債権者Dが、B及びCが甲土地を共同相続したものとして代位による所有権の移転の登記をした上で、Bの持分を差し押さえてその旨の登記がされた後、Bが相続の放棄をしたときは、Cは、Dに対し、単独での甲土地の所有権の取得を対抗することができない。

オ  Aがその所有する甲土地をBの詐欺によりBに売却してその旨の登記がされ、Bが詐欺の事実について善意無過失のCに甲土地を売却してその旨の登記がされた後、AがBとの間の売買契約を取り消したときは、Aは、Cに対し、甲土地の所有権のAへの復帰を対抗することができない。
  • アウ
  • アオ
  • イウ
  • イエ
  • エオ

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この過去問の解説 (3件)

01

ア 〇 本肢の考え方は、AとBは当事者の関係、AとCも当事者の関係と考えると理解しやすいです。

そもそも、Aは177条の第三者に当たりません。

第三者とは当事者以外の人物で登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者です。

Aは当事者ですし、登記の欠缺を主張する正当の利益はありません。

ただ移転登記する義務をサボっているだけです。

よって、CはAに登記なくして対抗できます。

イ × 制限行為能力を理由とする取消の場合は第三者保護規定はない。

ちなみに、強迫も第三者保護規定はありません。

併せて押さえておきましょう。

なぜなら、社会的弱者である制限行為能力者を守るため、制限行為能力の規定が民法に定められたのです。

つまり、第三者保護規定があると制限行為能力者を法律で守ることはできません。

よって、善意のCに対してもAは対抗できます。

ついでに詐欺取消の96条3項の条文もこのタイミングで読んでおきましょう。

ウ 〇 本肢を一言でまとめると、背信的悪意者との関係は相対効ということです。

つまり、CはBとの関係で背信的悪意者と読み取ることができます。(害する目的でAから購入してますから。)

しかし、DとBとの関係ではDは背信的悪意者ではありません。

よって、BとDは民法177条の関係によりBは登記を備えたDには対抗できません。

エ × 本肢を一言でまとめると、相続放棄は絶対効ということです。

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。(民法939)(みなされる、という文言には強力なパワーがあります。)

つまり、当該相続放棄の効力は、登記等の有無を問わず何人に対してもその効力を生じます。

よってCはDに対抗できます。

オ 〇 詐欺による意思表示の取消は、善意かつ過失のない第三者に対抗することができない。(民法96Ⅲ)

本肢は取消前の事例です。取消後なら177条の問題です。

つまり、取消前なのでAは善意無過失のCに対抗できません。

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02

正解は4です。

ア…正しいです。不動産物権変動において、民法177条にいう「第三者」とされるためには、係争土地に対して何らかの権利を有することが必要ですが、なんら正当の権利を有せず、単に当該土地を譲渡した前所有者は、登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する者ではないとされています(最判昭39・2・13)。よって、本問の土地所有を主張するCは、登記がなくても、前主Aに甲土地の所有権を対抗できます。

イ…誤りです。強迫や制限行為能力を理由とする取消については、取消前に不動産を取得した第三者の保護規定がありませんので、民法121条が適用され、登記なくして第三者に自己の所有権を対抗できます(最判昭4・2・20)。よって本問のCは、登記があってもAに甲土地の所有権を対抗できません。

ウ…正しいです。本問のように目的の土地に対して買主Bと買主Cがおり、さらにCからの転得者Dがあるとき、CがBに対して背信的悪意者であっても、DがBとの関係において背信的悪意者と評価されるのでない限り、DはBに所有権取得を主張できます(最判平8・10・29)。よって登記が対抗要件となりますので、甲土地につき、自らへの所有権移転登記のないBは、登記を済ませたDに対抗できません。

エ…誤りです。遺産分割における場合(最判昭46・1・26)と異なり、相続放棄における第三者の保護規定はありません。判例では、相続放棄は相続の開始時にさかのぼって相続人でなかったことになり、登記の有無を問わず何人にもその効力が有効であるため、相続の放棄をした相続人の債権者が、相続の放棄後に、相続財産たる未登記の不動産について、当該相続人も共同相続したものとして、代位による所有権保存登記をしたうえ、持分に対する仮差押登記を経由しても、その仮差押登記は無効であるとされています(最判昭42・1・20)。本問では相続放棄と仮差押の順序が逆ですが、どちらも相続開始後の行為であることから、相続放棄の遡及効の観点からは判例と同じであると考えられます。よって、本問のCは相続開始時に甲土地を単独相続していたことになり、登記なくして甲土地の取得を対抗できます(最判昭38・2・22)。

オ…正しいです。詐欺を理由とする取消については、取消前に不動産を取得した第三者の保護規定があり、善意無過失の第三者に対抗することができません(96条3項)。本問のCは善意無過失のため、Cへの所有権移転の登記がされたかどうかにかかわらず、Aは甲土地の所有権を対抗できません。

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03

正解 4

ア 正しい
民法177条の「第三者」とは、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいうとするのが判例(大連判明治41年12月15日)です。
売主の前主は、売主から買主への所有権の移転を否定することによって、有効に取得することになる権利を有していないため、177条の第三者にあたらないと解されています。

イ 誤り
制限行為能力者による取消しは、善意の第三者に対しても対抗することができます。
したがって、本肢の場合、Aは、Cに対し、甲土地の所有権のAへの復帰を対抗することができます。

ウ 正しい
判例(最判平成8年10月29日)は、本肢と同様の事案において、「所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。」としています。
その理由として、「背信的悪意者が正当な利益を有する第三者に当たらないとして民法177条の「第三者」から排除される所以は、第一譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し登記を経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄であるからである。」という点を挙げています。

エ 誤り
相続放棄の効力は絶対的であり、何人に対しても登記の有無を問わず、その効力を生ずると解すべきであって、放棄した相続人の債権者が相続財産たる不動産について、右相続人も共同相続したものとして代位による所有権保存登記をしたうえで持分に対する仮差押登記をしても、これらは無効となります(最判昭和42年1月20日)。
したがって、Bの相続放棄によって甲土地の単独所有権を取得したCは、相続放棄をしたBの債権者で、その共同相続人の持分について差押えをしたDに対して、登記なくして所有権の取得を対抗することができます。

オ 正しい
詐欺による意思表示の取消しは、取消前の善意無過失の第三者に対抗することができません(民法96条3項)。
したがって、本肢では、Aは、Cに対し、甲土地の所有権のAへの復帰を対抗することができません。

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