司法書士 過去問
令和5年度
問9 (午前の部 問9)

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問題

司法書士試験 令和5年度 問9(午前の部 問9) (訂正依頼・報告はこちら)

次の対話は、所有権の取得に関する教授と学生との対話である。教授の質問に対する次のアからオまでの学生の解答のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せはどれか。

教授: 所有権の取得の形態には、承継取得と原始取得の2つがありますね。民法には、付合、混和及び加工の規定がありますが、これらの規定による取得は承継取得と原始取得のどちらに当たりますか。
学生:ア  原始取得に当たります。
教授: Aの所有する甲動産とBの所有する乙動産とが、付合により、損傷しなければ分離することができなくなった場合において、甲動産の方が主たる動産であるときは、その合成物の所有権は誰に帰属しますか。
学生:イ  Aに帰属します。
教授: 請負人が自ら材料を提供して建物の建築を始めたが、独立の不動産になっていない建前の状態で工事を中止した後、第三者がその建前に自ら材料を提供して工事を続行して建物を建築した場合には、その建物の所有権の帰属はどの規定により決定されるでしょうか。
学生:ウ  動産の付合の規定により決定されます。
教授: 他人の動産に、自らは他に材料を提供しないで工作を加えた者が加工物の所有権を取得するのはどのような場合ですか。
学生:エ  工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときです。
教授: Aの所有する甲液体とBの所有する乙液体とが混和して識別することができなくなった場合には、その合成物の所有権は誰に帰属しますか。
学生:オ  甲液体と乙液体について主従の区別が可能かどうかにかかわらず、混和の時における価格の割合に応じて、AとBとが共有することになります。
  • アイ
  • アエ
  • イオ
  • ウエ
  • ウオ

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この過去問の解説 (3件)

01

民法(所有権の所得)に関する問題です。所有権は、物権の中心となる権利ですので、司法書士試験でも非常に頻出の分野となっています。

選択肢5. ウオ

(ア)所有権の取得方法には、前主の所有権とは無関係に所有権を取得する原始取得と、前主の所有権に基づき後主が所有権を取得する承継取得の2つがあります。付合、混和、加工は、一定の要件を満たした場合には当然に所有権が取得できる制度ですので、前主の所有権とは無関係に所有権を取得する原始取得に該当します。よって、本肢は正しいです。

(イ)所有者を異にする数個の動産が、付合により損傷しなければ分離することができなくなった場合には、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属します(民法243条)。従って、本肢は正しいです。

(ウ)建築途中の未だ独立した不動産に至らない建造物(建前)は、組み立てられた建築材料であり、動産です(大審院大正15年2月22日判決)。これが第三者が材料を提供して工事を施し、独立の建物に仕上げた場合の所有権の帰属に関しては、動産の付合の規定ではなく、動産の加工の規定によって決定すべきものとなります(最高裁昭和54年1月25日判決)。これは、材料に施される工作が特段の価値を有し、仕上げられた建物の価額が原材料の価額より相当程度増加するからです。従って、本肢は誤りです。

(エ)他人の動産に工作を加えたものがあるときは、その工作物の所有権は、材料の所有者に帰属します。ただし、工作によって生じた価値が材料の価額を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得します(民法246条)。従って、本肢は正しいです。

(オ)所有者を異にする数個の動産が混和して識別できなくなった場合、その混和物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属します(民法245条で準用する民法243条)。ただし、混和した動産について主従の区別がつかないときは、各動産の所有者は、その混和の時におけ価格の割合に応じて混和物を共有します(民法245条で準用する民法244条)。本肢は、「主従の区別が可能であるかどうかにかかわらず」としているため、誤りです。

まとめ

この問題は、文章がやや長いので、読み解くのが難しく、やや難しい問題です。聞いていることは基本的な事項ですが、文章が長いと、読解に気をとられて、間違ってしまうケースが増えます。

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02

物権から、所有権の付合や混和の論点です。付合や混和の結果、主従の区別がつくかどうかで結果が変わってくることがポイントです。

選択肢5. ウオ

ア 付合、混和及び加工は、法定された一定の要件を満たした場合に、当然に所有権が取得されるため、時効で所有権を取得した場合と同様と考えられます。よって、原始取得に該当するため、本肢は正解となります。
 

イ 243条により、所有者を異にする数個の動産が、付合により損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属するとあるので、甲動産が主たる動産の場合は、合成物は甲の所有者であるAの所有権となります。よって、本肢は正解となります。
 

ウ いわゆる、建前が不動産のか、動産なのかが問題となりますが、判例(大審院大正15.2.22)によると、建築途中の未だ独立した不動産に至らない建造物は、動産となると判示されているので、動産の付合や加工の規定が適用されます。

次に第三者が材料を提供して工事を施し、独立の建物に仕上げた場合、所有権の帰属がどうなるかが問題となります。この場合は、判例(最判昭54.1.25)は請負で建築することによって、完成物の原材料の価値が著しく上昇することから、付合の規定ではなく、加工の規定によって決定されるとしました。よって本肢は不正解となります。
 

エ 246条により、他人の動産に工作を加えた者があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属します。ただし、工作によって生じた価値が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得するとあるので、本肢は正解となります。
 

オ 245条(243条、244条の準用)により、所有者を異にする数個の動産が混和して識別できなくなった場合、その混和物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。ただし、混和した動産について主従の区別がつかないときは、各動産の所有者は、その混和の時におけ価格の割合に応じて混和物を共有するとあり、本肢の主従の区別が可能かどうかにかかわらずという条件と異なるため、不正解となります。
 
 

解法のポイント

よくある対話文による問題です。このパターンの解法としては、まず、求められているのが、正しいものの組み合わせなのか、誤っているものの組み合わせなのか、基本的なことをしっかり、チェックして解いていくことが肝心です。ここで間違うと、せっかく、各肢では正解していても、回答としては不正解になるからです。つい、対話文を追っていくことに夢中になり、基本的な問いをうっかり、誤認識してしまう、ケアレスミスが発生する可能性があるので、問題文が長いものには要注意です。

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03

所有権の取得に関する規定の中から、添付(付合、混和、加工)について条文及び関連判例の理解を問うものです。

選択肢5. ウオ

ア 正しい

所有権の取得の形態は、①前主の所有権を承継するもの(承継取得)と②前主の所有権とは無関係の新規の所有権を取得するもの(原始取得)に区別できます。

民法に規定される付合(民法242~244条)、混和(同245条)及び加工(同246条)の規定は、一定の要件を満たす場合に当然に所有権を取得できるとする制度であり、これによる所有権の取得は新規の所有権を取得するもの、すなわち原始取得です。


 

イ 正しい

所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属します(民法243条本文)。


 

本肢では、主たる動産は甲動産ですので、その所有者Aに合成物の所有権が帰属します。したがって、本肢は正しいです。


 

ウ 誤り

判例(大判大正15年2月22日)によると、いまだ独立の不動産に至っていない建造物(建前)の状態は、不動産ではなく動産として扱います。

そして、建築途中の未だ独立の不動産に至らない建前に、第三者が材料を供して工事を施し、独立の不動産である建物に仕上げた場合の建物の所有権の帰属について、判例(最判昭和54年1月25日)は、民法246条2項(加工)の規定に基づいて決定すべきと判示しています。動産と動産を単純に付合させるだけでそこに施される工作の価値を無視してもよい場合とは異なり、建物の建築の場合は、材料に対して施される工作が特段の価値を有し、仕上げられた建物の価格が原材料のそれよりも相当程度増加するためです。


 

したがって、動産の付合の規定によるとする本肢の学生の発言は誤りです。


 

なお、関連する論点として、どの段階で材料(動産)が建物(不動産)となったと言えるかが問題となる場合があります。

「建築過程中、建物と認められる時期につき、木材を組み立て、屋根を葺いただけではまだ建物とはいえない(大判大正15年2月22日)」が、「屋根が葺かれ、周壁として荒壁が塗られた程度に至れば建物になる(大判昭和10年10月1日)」という表現がよく用いられますので、記憶に留めておきましょう。


 

エ 正しい

他人の動産に工作を加えた者(加工者)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属します(民法246条1項)。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得します(同但書)。


 

したがって、本肢の学生の発言は正しいです。


 

オ 誤り

所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は主たる動産の所有者に帰属します(民法243条)。

ただし、付合した動産について、主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有します(民法244条)。

そして、この2つの付合に関する規定が、所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合において準用されています(民法245条)。


 

本肢では、主従の区別が可能かどうかを問わないと述べており、その点で誤っています。

まとめ

一問を除いては条文知識のみで正誤を判断することができます。

添付の分野について頻出の判例ですが、理由から辿れば違和感のない結論の判旨ですので、全て丸暗記しようとせず、論理構造を押さえておきましょう。

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