司法書士 過去問
令和6年度
問25 (午前の部 問25)

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問題

司法書士試験 令和6年度 問25(午前の部 問25) (訂正依頼・報告はこちら)

傷害の罪に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

ア  Aは、狭い四畳半の室内でBを脅かすために日本刀の抜き身を数回振り回した。この場合、Aの行為は暴行罪における暴行に該当する。
イ  Aは、Bの頭部を多数回殴打する暴行を加え、意識消失状態に陥らせたBを放置したまま立ち去ったところ、Bは死亡した。Aの暴行によりBの死因となった傷害が形成されたが、Aが暴行を加えてからBが死亡するまでの間に、何者かがBの頭部を殴打する暴行を加え、当該暴行はBの死期を早める影響を与えるものであった。この場合、Aには傷害致死罪は成立しない。
ウ  Aは、Bに対し、はさみを用いてその頭髪を根元から切断した。この場合、Aには傷害罪は成立せず、暴行罪が成立する。
エ  Aは、隣家に居住するBに向けて、精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら、連日連夜にわたりラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続け、Bに精神的ストレスを与え、慢性頭痛症、睡眠障害及び耳鳴り症の傷害を負わせた。この場合、Aには傷害罪が成立する。
オ  Aは、Bの身体を圧迫する暴行を加え、その結果、Bを死亡させたが、暴行を加えた当時、Bが死亡することは予見していなかった。この場合、Aには傷害致死罪は成立しない。
  • アエ
  • アオ
  • イウ
  • イオ
  • ウエ

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この過去問の解説 (2件)

01

この問題のポイントは、暴行罪と傷害罪の区別です。

 

暴行罪は、人の身体にする有形力の行使です。実際に人の身体に触れることまでは要しませんが、人の身体に影響を及ぼすことがあれば成立が肯定されます。

 

傷害罪は、人の完全性や生理的機能を害することで成立します。電話を何度もかけるなどしてノイローゼやPTSDにさせる場合などがあります。また、暴行罪の結果的加重犯との側面も持ち合わせており、暴行の故意であったとしても人を傷害した場合には、本罪が成立します。

 

各選択肢については、以下の通りです。

選択肢1. アエ

ア: 本選択肢は、暴行罪の成立が認められた非常に有名な判例です。必ず覚えておきましょう。

 

エ: ラジオやアラーム音を大音量で流し続け頭痛や睡眠障害を起こしていることから、生理的機能を傷害しているということが出来ます。

また、障害を生じさせると認識しながら大音量で流し続けており、「未必の故意」があることからも傷害罪の成立は肯定できます。

 

一般的に刑罰を科すためには加害者に「故意(又は未必の故意)」が存在する必要があり、過失のみを以て処罰されるのは特別の規定が置かれている場合に限られます(過失致死傷罪や過失運転致死傷罪など)。もっともオの解説の通り結果的加重犯については、基本となる犯罪の構成要件に該当すれば成立し、予見可能性や故意は不要である点に注意が必要です。

選択肢2. アオ

オ: 暴行罪の結果的加重犯は傷害罪であり、傷害罪の結果的加重犯は傷害致死罪に該当します。したがって暴行の意図や傷害の意図がありその結果として死亡させた場合には、傷害致死罪が成立します。

選択肢3. イウ

イ: 2人以上の者が意思の連絡なしに、それぞれ被害者に暴行を加えた結果その者に傷害を生じさせたが、誰がどの程度傷害を負わせたが判別(立証)することが出来ないときは、例外的に共犯の例によります。(同時傷害の特則 207条)

 

そして、加害者のいずれかの暴行と死亡との間に因果関係が肯定される場合であっても上記特則は適用されることとなるため、傷害の結果として生じた死亡についても責任を負い、傷害致死罪は成立します。ただし自己の関与した暴行が傷害を生じさせていないことを立証した場合には責任を免れます。

 

ウ: 髪の毛を本人の同意を得ることなく切る行為は暴行罪に該当します。

選択肢4. イオ

解説は他選択肢に記載しておりますので、そちらを参照してください。

選択肢5. ウエ

解説は他選択肢に記載しておりますので、そちらを参照してください。

まとめ

本問題は、合格を狙うためには決して落とすことが出来ない問題です。間違えた方は暴行と傷害の相違をしっかりと復習しましょう。

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02

傷害の罪に関する問題です。

傷害の罪については、刑法第204条~第208条の2に規定されています。

何が傷害や暴行に当たるのかを考えながら、判例を覚えていきましょう。

選択肢4. イオ

Aは、狭い四畳半の室内でBを脅かすために日本刀の抜き身を数回振り回した。この場合、Aの行為は暴行罪における暴行に該当する。

 

判例(最決昭39.1.28)のとおりです。

実際に危険性のある行為(=有形力の行使)をしていると判断できるため、暴行に当たります

よって、本肢は正しいです。

 

 

Aは、Bの頭部を多数回殴打する暴行を加え、意識消失状態に陥らせたBを放置したまま立ち去ったところ、Bは死亡した。Aの暴行によりBの死因となった傷害が形成されたが、Aが暴行を加えてからBが死亡するまでの間に、何者かがBの頭部を殴打する暴行を加え、当該暴行はBの死期を早める影響を与えるものであった。この場合、Aには傷害致死罪は成立しない。

 

Aの行為とBの死亡に因果関係があるかを問う事例です。

判例では、「(何者かによる)その暴行が…略…幾分か死期を早めたとしても、被告人の暴行と被害者の死亡との間には因果関係がある。」としています(最決平2.11.20)。

よって、本肢は誤りです。

 

 

Aは、Bに対し、はさみを用いてその頭髪を根元から切断した。この場合、Aには傷害罪は成立せず、暴行罪が成立する。

 

判例は、「人の毛髪を不法に裁断する行為は、暴行に当たる。」としています(大判明45.6.20)。

つまり、暴行を加えたものの傷害には至らなかったと判断されたわけです。

よって、本肢は正しいです。

 

 

Aは、隣家に居住するBに向けて、精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら、連日連夜にわたりラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続け、Bに精神的ストレスを与え、慢性頭痛症、睡眠障害及び耳鳴り症の傷害を負わせた。この場合、Aには傷害罪が成立する。

 

判例(最決平17.3.29)のとおりです。

よって、本肢は正しいです。

 

 

Aは、Bの身体を圧迫する暴行を加え、その結果、Bを死亡させたが、暴行を加えた当時、Bが死亡することは予見していなかった。この場合、Aには傷害致死罪は成立しない。

 

判例は、「傷害致死罪の成立には、致死の結果を予見することが可能であったことは、その要件ではない。」としています(最判昭26.9.20)。

よって、本肢は誤りです。

まとめ

暴行を加えた結果によって適用される罪が異なるイメージで捉えましょう。

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