司法書士 過去問
令和6年度
問24 (午前の部 問24)

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問題

司法書士試験 令和6年度 問24(午前の部 問24) (訂正依頼・報告はこちら)

刑法における違法性阻却事由に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

ア  他人に対し権利を有する者がその権利を実行する行為は、その権利の範囲内であり、又はその方法が社会通念上一般に許容されるものと認められる程度を超えない場合には、違法の問題を生ずることはない。
イ  行為者が、単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、侵害の急迫性の要件を充たさず、正当防衛は成立し得ない。
ウ  急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為と認められる限り、その行為は、同時に侵害者に対する攻撃的な意思に出たものであっても、正当防衛が成立し得る。
エ  過失による事故であるかのように装い保険金を騙し取る目的をもって、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせた場合には、被害者の承諾が保険金を騙し取るという目的に利用するために得られたものであっても、その承諾が真意に基づく以上、当該傷害行為の違法性は阻却される。
オ  いわゆる喧嘩闘争については、闘争のある瞬間においては闘争者の一方がもっぱら防御に終始し、正当防衛を行う観を呈することがあっても、闘争の全般からみて防衛行為とみることはできず、正当防衛は成立し得ない。
  • アイ
  • アエ
  • イウ
  • ウオ
  • エオ

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この過去問の解説 (3件)

01

違法性阻却事由とは、形式上は犯罪行為に当たるとしても、特別の事情がある場合には違法性を否定して刑に問わないことを言います。

代表的なものとして、正当防衛と緊急避難があります。それぞれの要件について以下で確認してください。

 

正当防衛は4要件を満たした場合に限り成立します。

⑴急迫不正の侵害であること

⑵防衛行為に正当性があること

⑶防衛行為に相当性があること

⑷防衛の意思があること

 

緊急避難は

⑴危難があること

⑵避難の意思があること

⑶やむを得ずにした行為であること(=補充性)

⑷法益の権衡があること

 

上記、それぞれ4要件を充足する場合には違法性が阻却され、罰せられないこととなります。

 

各選択肢については、以下の通りです。

選択肢1. アイ

ア: 一般に「他人に対し権利を有する者がその権利を実行する行為」を自救行為と言います。自救行為について刑法には特段の規定はなく、解釈によって社会通念上相当と認められる範囲において、許容されるものです。したがって状況次第では違法とされる余地はあります。

 

イ: 「防衛の意思」について防衛の意思と攻撃の意思が併存する場合においても正当防衛の成立は肯定されます。ただし防衛の名を借りて積極的な加害行為に出たときは、防衛の意思があるとは言えず、正当防衛は成立しません。

 

本選択肢では、「その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだ」とあることから、防衛の意思は認められず正当防衛は成立しません。

選択肢2. アエ

エ: 被害者の同意が違法性を阻却するためには以下の要件があります。

⑴個人法益に関するものであること

⑵同意能力のある者の自由かつ真意によるものであること

⑶同意が実行行為の時に存在すること

⑷同意に基づいてされる行為が社会的に是認されること

 

上記要件から考えると、傷害を負わせるだけであれば違法性の阻却が認められる可能性はありますが、保険金詐欺という違法目的が被害者の承諾を以て社会的に是認されることはありません。

選択肢3. イウ

ウ: イの解説の通り、防衛の意思と攻撃の意思が併存していても、正当防衛の成立は肯定されます。

選択肢4. ウオ

オ: 喧嘩闘争の場合、原則として正当防衛は適用されません。ただし喧嘩状態にあれば常に成立しないという訳ではありません。素手で喧嘩をしていたにも関わらず相手が刃物を持ち出した場合などには正当防衛が成立する余地はあります。本選択肢では「もっぱら防御に終始し、正当防衛を行う観を呈」している訳ですから、正当防衛は成立します。

選択肢5. エオ

解説は他選択肢に記載しておりますので、そちらを参照してください。

まとめ

違法性阻却事由は、刑法における最頻出分野です。正当防衛と緊急避難の区別は非常に重要ですので、必ずマスターしてください。

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02

正当防衛を含む違法性阻却事由に関する問題です。

 

正当防衛については刑法第36条に規定されており、その要件をまとめると以下のとおりです。

急迫不正の侵害に対して

自己又は他人の権利を防衛するため

やむを得ずに

 

基本的にはこの3つの要件を満たしているかを確認しつつ、過去問に登場するような判例は覚えておきましょう。

選択肢3. イウ

他人に対し権利を有する者がその権利を実行する行為は、その権利の範囲内であり、又はその方法が社会通念上一般に許容されるものと認められる程度を超えない場合には、違法の問題を生ずることはない。

 

判例は、一定の行為について、その行為が権利の範囲内であるor社会通念上一般に許容される場合であっても、その違法性を判断しています(例:最決昭53.5.31)。

よって、「違法性の問題を生ずることはない」と断定することはできないので、本肢は誤りです。

 

 

行為者が、単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、侵害の急迫性の要件を充たさず、正当防衛は成立し得ない。

 

判例(最決昭52.7.21)の通りです。

相手の侵害を利用して加害行為をする意思をもって侵害に臨んだ場合、急迫性があるとはいえず、正当防衛は成立しません

よって、本肢は正しいです。

 

 

急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為と認められる限り、その行為は、同時に侵害者に対する攻撃的な意思に出たものであっても、正当防衛が成立し得る。

 

判例は、「防衛に名を借りて侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為は、防衛の意思を欠く結果、正当防衛を認めることができないが、防衛の意思と攻撃の意思が併存している場合の行為は、防衛の意思を欠くものではないから、正当防衛を認めることができる。」としています(最判昭50.11.28)。

よって、本肢は正しいです。

 

 

過失による事故であるかのように装い保険金を騙し取る目的をもって、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせた場合には、被害者の承諾が保険金を騙し取るという目的に利用するために得られたものであっても、その承諾が真意に基づく以上、当該傷害行為の違法性は阻却される。

 

判例は、「被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべきである。」としており、本肢と同様の事例では、「違法性は阻却されない」と判断しています(最決昭55.11.13)。

よって、本肢は誤りです。

 

 

いわゆる喧嘩闘争については、闘争のある瞬間においては闘争者の一方がもっぱら防御に終始し、正当防衛を行う観を呈することがあっても、闘争の全般からみて防衛行為とみることはできず、正当防衛は成立し得ない。

 

判例は、「闘争行為中のある瞬間において一方がもっぱら防御に終始し、正当防衛を行う観を呈することがあっても闘争行為の全体からみて正当防衛の観念をいれる余地がない場合もある。」としています(最判昭32.1.22)。

よって、「正当防衛は成立し得ない」と断定することはできないため、本肢は誤りです。

まとめ

登場した判例について、理屈で理解しながら結論を覚えるようにしておきましょう。

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03

犯罪の成立要件①構成要件該当性②違法性③有責性のうち、②違法性の有無の論点である違法性阻却事由に関する問題です。刑法第36条(正当防衛)、第37条(緊急避難)について、判例の趣旨を押さえておきましょう。

選択肢3. イウ

他人に対し権利を有する者がその権利を実行する行為は、その権利の範囲内であり、又はその方法が社会通念上一般に許容されるものと認められる程度を超えない場合には、違法の問題を生ずることはない。

✕誤った選択肢です。

最高裁判例は、「他人に対し権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲内であつて、且つその方法が社会通念上一般に、忍容すべきものと認められる程度を越えないかぎり、なんら違法の問題を生じない・・・」としています(最判昭和27.5.20)。

「権利の実行が権利の範囲内であること」と「方法が社会通念上相当であること」は、いずれか一方のみでは違法性阻却事由に該当しません。よって本肢は誤りです。


 

行為者が、単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、侵害の急迫性の要件を充たさず、正当防衛は成立し得ない。

◯正しい選択肢です。

最高裁判例は、「刑法三六条における侵害の急迫性は、当然又はほとんど確実に侵害が予期されただけで失われるものではないが、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは失われることになる。」としています(最判昭和52.7.21)。

よって本肢は正しい選択肢です。


 

急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為と認められる限り、その行為は、同時に侵害者に対する攻撃的な意思に出たものであっても、正当防衛が成立し得る。

◯正しい選択肢です。

最高裁判例は、「急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為であるかぎり、同時に侵害者に対する攻撃的な意思に出たものであつても、刑法三六条の防衛行為にあたる。」としています(最判昭和50.11.28)。よって本肢は正しい選択肢です。


 

過失による事故であるかのように装い保険金を騙し取る目的をもって、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせた場合には、被害者の承諾が保険金を騙し取るという目的に利用するために得られたものであっても、その承諾が真意に基づく以上、当該傷害行為の違法性は阻却される。

✕誤った選択肢です。

最高裁判例は、「被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきである。」とし、さらに、「過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的で、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせた場合には、右承諾は、当該傷害行為の違法性を阻却するものではない。」としています(最判昭和55.11.13)。

被害者の承諾があったとしても、その承諾が社会的に相当でない目的のもとに行われている場合、違法性は阻却されません。よって本肢は誤りです。

 

 

いわゆる喧嘩闘争については、闘争のある瞬間においては闘争者の一方がもっぱら防御に終始し、正当防衛を行う観を呈することがあっても、闘争の全般からみて防衛行為とみることはできず、正当防衛は成立し得ない。

✕誤った選択肢です。

最高裁判例は、「 喧嘩闘争において正当防衛が成立するかどうかを判断するに当つては喧嘩闘争を全般的に観察することを要し、闘争行為中の瞬間的な部分の攻防の態様のみによつてはならない。」としています(最判昭和32.1.22)。判例は、喧嘩闘争においても正当防衛が成立する余地があることを示唆しています。よって本肢は誤りです。

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