賃貸不動産経営管理士の過去問
令和5年度(2023年)
問7

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問題

賃貸不動産経営管理士試験 令和5年度(2023年) 問7 (訂正依頼・報告はこちら)

次の記述のうち、居住用賃貸借契約に定める約定として不適切なものはいくつあるか。

ア  賃借人が支払を怠った賃料の合計額が賃料3か月分以上に達したとき、賃貸人は無催告にて賃貸借契約を解除し、賃借人の残置物がある場合はこれを任意に処分することができる。
イ  賃借人が支払を怠った賃料の合計額が賃料3か月分以上に達したとき、連帯保証人は、無催告にて賃貸借契約を解除し、賃借人の残置物がある場合はこれを任意に処分することができる。
ウ  賃借人が契約期間満了日に貸室を明け渡さなかった場合、賃借人は契約期間満了日の翌日から明渡しが完了するまでの間、賃料相当額の損害金を賃貸人に支払うものとする。
エ  賃借人が契約期間満了日に貸室を明け渡さなかった場合、賃借人は契約期間満了日の翌日から明渡しが完了するまでの間、賃料の2倍相当額の使用損害金を賃貸人に支払うものとする。

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この過去問の解説 (2件)

01

不適切なものはア、イの2つです。

 

【不適切】

賃借人が支払を怠った賃料の合計額が賃料3か月分以上に達したとき、賃貸人は無催告にて賃貸借契約を解除することができる旨の約定は原則有効でありますが、賃借人の残置物がある場合はこれを任意に処分することができる旨の約定は不適切です。
 

【不適切】

賃料不払が続いたとしても、連帯保証人が賃貸借契約を解除することはできません。

賃借人の残置物も任意に処分することはできませんので不適切です。
 

【適切】

賃借人が契約期間満了日に貸室を明け渡さなかった場合、賃借人は契約期間満了日の翌日から明渡しが完了するまでの間、賃料相当額の損害金を賃貸人に支払うものとする旨の約定は有効であり、適切です。


【適切】

明渡し義務の不履行に対する賃料の2倍相当額の使用損害金の定めは不相当に高額とはいえず、有効とした判例があります。

したがって、賃借人が契約期間満了日に貸室を明け渡さなかった場合、賃借人は契約期間満了日の翌日から明渡しが完了するまでの間、賃料の2倍相当額の使用損害金を賃貸人に支払うものとする旨の約定は有効であり、適切です。

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02

この問題は、居住用賃貸借契約における約定の妥当性を問うものです。

 

賃貸借契約は、当事者の合意に基づいて自由に契約内容を定めることができます(民法第601条)。しかし、賃貸借契約においては、賃借人を保護するために、借家借地法をはじめとする法律や判例によって、定めることができない事項や、定めても無効となる条項があります。特に、賃料の不払いによる契約解除や、契約終了後の明渡しに関する条項は、賃借人にとって不利な内容になりやすく、注意が必要です。本問では、それぞれの選択肢について、法律や判例に照らして、一方の当事者に著しく不利益な条項は無効となる可能性があるため、契約内容として認められるものかどうかを判断する必要があります。

 

特に注意すべき点は以下の通りです:
・契約解除の条件と手続き
・残置物の処分に関する権利
・契約期間満了後の明渡し遅延に対する損害金
 

これらの点について、各選択肢が法律や判例に照らして適切かどうかを判断する必要があります。

 

(参考文献)
民法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
消費者契約法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000061
裁判例検索
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1

選択肢2. 2つ

ア【不適切です】

この選択肢は、「賃料3か月分以上の滞納に対した場合、賃貸人が無催告解除と残置物の任意処分できるか」がポイントです。

 

この問題は、無催告解除と残置物の任意処分に関する約定です。


まず、無催告解除については、
賃料3か月分以上の滞納は重大な契約違反ですが、契約解除するためには、「賃貸人と賃借人の信頼関係の破壊」状態であることを賃貸人が証明しなければなりません(改正民法541条の催告解除の原則)。更に、無催告解除については、改正民法542条で、次の5つの場合と規定されています。
①債務の全部の履行が不能であるとき
②債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
③債務の一部の履行が不能である場合または債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき
④定期行為の時期を経過したとき
⑤催告をしても契約の目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかなとき


次に、残置物の任意処分については、たとえ賃貸借契約が終了していたとしても、部屋に残された残置物は、賃借人の所有物で、所有権は依然として賃借人にあるため、賃貸人は勝手に処分できません。残置物の処分は、裁判所の強制執行によらなければならず、裁判所指定の保管場所で1ヶ月ほど保管された後、賃借人が荷物を引き取らない時に、廃棄処分または競売できます。なお、強制執行の費用は原則として賃貸人の負担となります。

 

このことから、
無催告解除は、改正民法541条の催告解除の原則が満たされ、かつ、改正民法542条に適合が条件となります。
また、
残置物の任意処分は、原則できません。

 

したがって、この選択肢は不適切です。

 

ここで、賃料滞納に対する賃貸人が契約解除と残留物の処分に至るストーリーをイメージしておくことで、試験のみならず実務に役立てられるでしょう。

 

(賃料滞納から強制退去(立ち退き)までの流れ)
1)賃借人への連絡(通知)
 ・賃貸人や管理会社から賃借人へ滞納通知と状況確認の連絡と督促する
2)連帯保証人への連絡(通知)
 ・督促の期日までに賃貸人の支払いがない場合は、賃貸人や管理会社は連帯保証人にも賃料の支払いを督促する
 ・連帯保証人の代わりに保証会社を利用するケースでは、保証会社が代わりに賃料を支払った場合、賃借人の支払い状況が個人信用情報(通称:ブラックリスト)に載る
3)督促状・内容証明の送付(督促)
 ・保証会社を利用していない場合は、賃貸人は、賃借人と連帯保証人宛てに督促状が内容証明郵便で送付する
 一方、賃料滞納後の5年間に賃貸人から何の督促もしなかった場合は時効が成立する
4)賃貸借契約解除通知(3ヶ月以上経過した場合)
 ・「3ヶ月以上賃料を滞納している」「賃借人に支払いの意思がない」「賃貸人と賃借人の信頼関係が壊れている」という条件が揃ったと判断されるため、賃貸人は、賃貸借契約解除通知を賃借人宛に内容証明郵便で送付する。
 ・併せて、期限を決めて明渡しを請求する。
5)明渡し請求(訴訟)
 ・賃貸借契約解除通知後、賃借人が期限までに退去しない場合は、賃貸人から明渡し訴訟が提訴される
6)強制退去(強制執行)
 ・判決で賃借人の明渡しが決まった後も居座り続けると、裁判所の執行官が強制執行を行い、強制退去させられる。この場合、強制執行の費用は原則として賃貸人の負担となる。
 ・賃貸人の残置物がある場合、裁判所指定の保管場所で1ヶ月ほど保管される。
 ・賃借人が荷物を引き取らない時は、廃棄処分または競売で売却され、競売での利益は強制執行の費用に充てられ、費用を出した賃貸人の負担を軽減するために使われる。
 ・強制執行が行われると賃借人の預貯金に加えて給与も差し押さえの対象になり、勤務先に自宅の強制執行を知られてしまうことになる。

 

このように、賃料滞納に対する契約解除と残留物の処分の手続きは煩雑になります。したがって、賃貸借契約を締結する前の賃借人の支払い能力の確認が重要です。

 

 

イ【不適切です】

この選択肢は、「連帯保証人の責任は、賃借人の債務と同じ債務になる」ことがポイントです。

 

連帯保証人の責任は、賃貸人に対する賃借人の債務を担保するため賃借人と同等の返済義務を負います。賃貸借契約では、同様の趣旨から敷金の差入も行われますが、担保として当然差し入れられた敷金の額までしか機能しないため、さらなる債務に備えて連帯保証人を立てることは有効とされます。連帯保証は、保証契約の一種ですが、通常の保証契約と異なり、催告の抗弁権(民法452条)と検索の抗弁権(民法453条)がないことが特徴です(民法455条)。催告の抗弁権とは、保証債務の履行を請求する前に、主たる債務者へ催告を求めることのできる権利であり、検索の抗弁権とは、原則として主たる債務者の財産に対し、先に執行するように請求するる権利です。つまり、連帯保証人は、弁済を先に賃借人に求める要求ができないことを意味し、このため、賃借人と同等の返済義務を負うことになります。つまり、連帯保証人は、債務の保証のみを行うものです。

 

一方で、契約解除権や残置物処分権の権利は賃貸人に帰属するものです。このため、連帯保証人は、賃借人の同意なく賃借人に代わって、賃貸借契約を解除し、賃借人の残置物を処分することができません。

 

このことから、連帯保証人は、賃貸人と賃借人の賃貸借契約に対して賃借人の債務を保証するためだけなので、賃借人に対して債務履行を請求や実施ができません。

 

したがって、この約定は不適切です。

 

なお、貸借人側が注意しなければならない点があります。
賃借人の債務が増大している場合に、賃貸人は、連帯保証人に対してその旨を通知する等、連帯保証人に不測の不利益が生じないような措置を講じなければ、権利濫用とされる判例(東京高裁判例 H25.04.24)があります。
このため、貸借人は、賃料滞納に対して賃貸借契約解除通知や明渡し請求の前の段階で、賃料を滞納していることを通知し、賃料の支払いを督促する必要があります。

 

 

ウ【適切です】

この選択肢は、「賃料相当額の損害金の損害金の請求金額が、一般的で合理的である」ことがポイントです。

 

居住用賃貸借契約では、契約期間満了後の明渡し遅延に対して、賃料相当額の損害金を請求することを約定できます。賃貸人は、賃借人が契約期間満了日までに貸室を明け渡さなかった場合、明渡しが完了するまで不利益を被るため、その分の賃料相当額の損害金を定めることは、一般的で合理的な約定であり、法的に問題ありません。

 

したがって、この約定は適切です。

 

 

エ【適切です】
この選択肢は、「賃料の2倍相当の損害金の請求金額が、平均的な損害額を超えていない」ことがポイントです。

 

居住用賃貸借契約では、契約期間満了日に賃借人が貸室を明け渡さない場合(明渡しの遅延)に対して、賃貸人は賃借人に損害金を約定できます。ただし、この損害金が、賃借人に平均的な損害額を超える金額(消費者契約法9条第1項1号)や年14.6パーセントを超える(同2号)場合は、無効の対象となります。しかし、判例では、賃料の2倍相当の損害金の請求金額の約定(倍額賠償予定条項)は、無効の対象にならないと判断されています(東京高判H25.3.28、大阪高判H25.10.17など)

 

従って、この選択肢は適切な記述と言えます。

 

なお、消費者契約法は、令和4年度の改正で、契約解除に伴う損害賠償の額を予定し、違約金の請求を定める場合に、消費者から説明を求められた際には、これらの金額の算定根拠を説明する努力義務が新設されています(同法第9条2項)。

まとめ

この問題では、居住用賃貸借契約における約定の適切性について、民法や判例に基づいて判断する必要があります。

 

重要なポイントは以下の通りです:
・無催告解除や残置物の任意処分は、民法に抵触する可能性があるため注意が必要です。
・連帯保証人の権限は債務の保証に限定され、契約解除権や残置物処分権は有しません。
・契約期間満了後の明渡し遅延に対する損害金は、賃料相当額程度が一般的で適切です。
・賃料の2倍相当額の損害金は、平均的な損害額を超えているとはいえません。

 

賃貸借契約やその他の契約の約定を検討する際は、常に関連法規や判例を参照し、両当事者の利益バランスを考慮することが重要です。

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