大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和4年度(2022年度)追・再試験
問1 (第1問(評論) 問1)

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問題

大学入学共通テスト(国語)試験 令和4年度(2022年度)追・再試験 問1(第1問(評論) 問1) (訂正依頼・報告はこちら)

次の文章は、二十世紀末までのメディア環境について述べたもので、言葉の生産と流通をめぐる社会的諸関係を「言葉のエコノミー」と規定した後に続く部分である。これを読んで、後の問いに答えよ。

言葉のエコノミーの空間に文字が持ち込んだ重要なことの一つは、言葉が声以外の表現媒体を持つことによって、言葉の一次的な媒体であった「声」と二次的な媒体である「文字」との間に時間的・空間的な「へだたり」が持ち込まれたということである。
文字に書かれることで、言葉は「声」と「文字」とに分裂する。この時、声の方はしばしば言葉を発する身体に直接属する「内的」なものとして位置づけられ、他方、文字の方はそのような「内面」から距離化された「表層」に位置づけられる。だが、ここで注意したいのは、A 声としての言葉もすでに、その内部に文字と同じようなへだたりをもっていたということだ。
このことは、「声」と「音」との区別を考えてみると分かりやすい。
「音声」という言葉があるように、普通言う意味での人間の声は音である。では、声である音と声でない音とはどう違うのか。音声学的な音の特性によって区別することも可能である。たとえば、楽器の音の音波形には完全な周期性が見られるが、人間の声にはそのような完全な周期性は見られない。ヴィブラートによる声のソウショクは、人間の声のこの特性を利用している。だが、さしあたりそのような音声学的な特性とは別に考えるとすれば、私たちは普通、人間のような生物の、心のような内的なものにかかわる意味をともなって発せられる音を「声」と呼んで、物や体が擦れ合ったりぶつかったりして出る「音」から区別しているのだと言うことができる。
もう少し抽象的な言い方をすれば、声には「内部(内面)」があるが、音には「内部(内面)」がない。「声としての音」の背後には、声としての音にはカンゲンされない「何か」が存在しており、声はその「何か」を表現する音であることで「言葉」になる。音としての声が表現するこの「何か」は、しばしば言葉を発する人間の身体の内部や心の内部にあるものと考えられる。この時、身体に発する音は、身体や心の内部にあるものを表現するメディアであることで「声」になる。あるいは物理学者ホーキング(注1)の音声合成装置から発する「声」のように、人の身体から直接発したのではない音でも、人に発する意志や意味を表現することによって声になるのである。
声は言葉のメディア(あるいは意味のメディア)であることによって、ただの音とは異なる内的なへだたりを自らの内に孕(はら)む。声の向こう側にある「何か」は、必ずしも近代的な意味での「主体」や「自我」である必要はない。人間の歴史のなかで、人は時に神やセンの言葉を語り、部族や身分の言葉を語ってきた。このような場合、人は私たちが知るような「内面」として語っているのではない。人は自らを媒介として「誰か」の言葉を語る。B 「私」とは、その「誰か」が取りうる一つの位相に過ぎない。このことは、声やそれを発する身体もまた、語られる言葉にとっては一つのメディアであることを意味している。
話される言葉の向こうに居る者が誰であるのかは、言葉のエコノミーの構造を決定する重要な条件である。近代の社会はこの「誰か」を、もっぱら語る身体の内部にある「私」へと帰属させるようにして、言葉のエコノミーの空間を組織してきた。
声を電気的に複製し、再生し、転送するメディアが現(あら)われるのは、言葉、とりわけ声を人々の内部へとつなぎとめるこの近代という時代の、十九世紀も後半になってからのことである。電話やレコードのように音声を電気的に再生し、伝達し、蓄積する一群の技術が発明・開発されると、これらの技術を利用した複製メディアの中に、肉体から切り離されて複製された「声」が現われる。
電気的なメディアによる声の再生、蓄積、転送は、声としての言葉とそれを発話する人間の身体とを時間的・空間的に切り離す。電話やラジオの場合、話される言葉は、話されるとほぼ同時に、話す身体とは遠く離れた場所で再生される。この時、電話やラジオは、話す身体と話される言葉を空間的に切り離している。他方、レコード(注2)やテープ、CDの場合、声としての言葉はそれを発する身体から時間的にも切り離され、任意の時間に任意の場所で、話し手や歌い手の意思にかかわりなく再生される。そこでは声は、ちょうど文字のように、それを発する身体から空間的にも時間的にも切り離されて生産され、流通し、消費される。
電気的な複製メディアの初期の発明者たちは、これらのメディアが言葉のエコノミーにもたらすこの時間的・空間的なへだたりを、直観的に理解していたように思われる。電話を意味する「telephone」は、「遠い」teleと「音」phoneが結びつくところに成立している。また、初期のレコードの発明者たちが彼らの発明に与えたフォノグラフやグラフォフォン、グラモフォン等の名は、「音」phoneと「文字(書)」graph, gramを組み合わせて造語されている。これらの名は、声を身体から遠く引き離し、かつて文字がそうしたように、声としての言葉を蓄積し、転送し、再現することを可能にするという、これらのメディアの原理的なあり方を表現している。
電気的な複製メディアの中の声は「書かれた声」、「遠い声」である。それらは、その所記性(注3)や遠隔性によって、文字が言葉のエコノミーに持ち込んだ声と言葉の間のへだたりと同じようなへだたりを、複製される声とその声を発した身体の間に持ち込むのである。
電気的なメディアの中の「書かれた声」「遠い声」は、言葉のエコノミーの空間に何をもたらしているのだろうか。
かつて文字というメディアは、「声でない言葉」をつくり出すことで、言葉から声を引き剥がし、やがてそれを人びとの内部(内面)に帰属させていった。電気的な複製メディアは、声としての言葉を語り・歌う身体から切り離し、引き剥がすことによって、声が身体にとって外在的な位相をとることを可能にする。
すでに述べたように、声としての言葉はそもそも、それが表現する「内部」にたいして外在的な「音」としての位相をもっていた。だから、より精確に言えば、電気的な複製メディアは声を、それを語り・歌う身体から時間的・空間的に切り離すことで、言葉としての声が内的に孕むあのへだたりを顕在化するのだというべきだろう。
電気的な複製メディアにおいて、再生される声とそれを語る身体は相互に外在しあう。この時、声と身体は、それまで互いを結びつけてきた言葉のエコノミーから束(つか)の間解放される。たとえば筆者たちがインタヴューした「電話中毒」の大学生の一人は、深夜の長電話の最中に自分が「声だけになっている」ような感覚をもつことがあると語っていた。また、精神科医の大平健が報告する事例において、ある女性は無言電話(注4)における他者との関係の感覚を、エレクトロニクス(注5)の技術と機械とを結びつけた言葉である「メカトロ」という機械的な隠喩によって語っている。このような身体感覚(あるいは脱―身体感覚)は、語る身体と語られる声とが相互に外在化する電気的な複製メディアのなかの空間で、語り手の主体性が身体にたいして外在したり、身体から切り離された声の側に投射されたりすることを示している。
レコードやCDのように、時に様々な加工をほどこされた声を蓄積し、再生するメディアや、ラジオ番組やテレビ番組のような組織的に編集された「作品」のなかの声の場合、事情はより複雑である。これらのメディアの中で、声はそれを語り・歌う者を主体とする表現という形をとる場合もある。だが、そのような表現はつねに、語り・歌う者以外の多くの人々による、声を対象とした様々な操作とともにある。そこでは声は主体としてではなく客体として対象化されており、さらに、そのようにして加工、編集された声は「商品」として多くの人々の前に現われ、消費される。このような場合、声はもはや特定の身体や主体に帰属するとは言いがたい。そこでは声は、語られ・歌われた言葉の生産、流通、消費をめぐる社会的な制度と技術の中に深く埋め込まれており、そのような制度と技術に支えられ、特定の人称への帰属から切り離され、テクスト(注6)のように多様な人々の中へと開かれる。そして時にはメディアの中のアイドルやDJたちのように、言葉を語り・歌う者の側が、生産され流通する声に帰属する者として現われたりもするのである。
電気的なメディアの中の声は、それを発した身体から時間的・空間的に切り離された声である。C それは時に声を発した身体の側を自らに帰属させて響き、また時には特定の人称から解き放たれて囁(ささや)きかける。電気的なメディアの中の声を聞く時、人が経験するのは身体に外在するこのような声の経験であり、それらの声が可能にする関係の構造の変容である。
(若林 幹夫(わかばやし みきお)「メディアの中の声」による)

注1 ホーキング ―― イギリスの理論物理学者(1942 ― 2018)。難病により歩行や発声が困難であったため、補助器具を使っていた。
注2 レコードやテープ、CD ―― 音声や音楽を録音して再生するためのメディア。
注3 所記性 ―― 書き記されていることのうち、意味内容としての性質。
注4 無言電話 ―― 電話に出ても発信者が無言のままでいること。かつての電話には番号通知機能がなかった。
注5 エレクトロニクス ―― 通信・計測・情報処理などに関する学問。電子工学。
注6 テクスト ―― 文字で書かれたもの。文章や書物。

下線部アに相当する漢字を含むものを、次の選択肢のうちから一つ選べ。

ア  ソウショク
  • 調査をイショクする
  • キョショクに満ちた生活
  • ショクを発見する
  • フッショクできない不安

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この過去問の解説 (3件)

01

本文中の「ソウショク」は漢字にすると「装飾」となります。
「飾」は訓読みで「飾る(かざる)」とも読み、
「美しく見えるよう装う」などの意味があります。

選択肢1. 調査をイショクする

漢字にすると「委嘱」となります。
「特定の仕事を誰かに任せる」という意味の二字熟語です。
似た意味の漢字を並べてできた二字熟語であり、
どちらも「まかせる」や「頼む」という意味を持ちます。
よって誤りです。

選択肢2. キョショクに満ちた生活

漢字にすると「虚飾」となります。
「うわべだけを飾る」ことを意味する二字熟語です。
「虚」が「うわべだけの」や「中身のない」を意味します。
よって適切です。

選択肢3. ゴショクを発見する

漢字にすると「誤植」となります。
「誤」った文字を「植」えるという意味です。
よって誤りです。

選択肢4. フッショクできない不安

漢字にすると「払拭」となります。
「取り除く」や「拭い去る」ことを表す二字熟語です。
似た意味の漢字を並べてできた二字熟語であり、
どちらも「取り除く動作」に関する意味を持ちます。
よって誤りです。

まとめ

下線部アは似た意味の漢字を並べてできた二字熟語であるため、
熟語の意味が分かれば漢字の意味も分かる問題でした。
漢字の意味は、
同じ漢字を見つけるための重要なヒントになります。

参考になった数0

02

文脈から、「ソウショク→装飾」と判断します。

装飾とは、「ものごとの外面を美しくよそおい、飾ること。また、そのよそおいやかざりのこと」を指します。

選択肢1. 調査をイショクする

イショク→委嘱「特定の仕事を、ひとに任せたり頼んだりすること」

 

それぞれの字には、

委:ゆだねる、まかせる

嘱:たのむ、いいつける、まかせる

という意味があります。

 

どちらにも「かざり」の意味は含まれていないため、この選択肢は誤りです。

選択肢2. キョショクに満ちた生活

キョショク→虚飾「内容が伴っていないのに外面だけを飾ること。うわべだけの体裁、見栄」

 

それぞれの字には、

虚:中身がないこと、からっぽ

飾:外側の見かけをよくする。かざる

という意味があります。

 

「かざり」の意味が含まれており、この選択肢が正解です。

選択肢3. ゴショクを発見する

ゴショク→誤植「印刷物における文字や数字などの誤りのこと」

 

それぞれの字には、

誤:あやまる、まちがえる

植:活版印刷において、文字を組み合わせて並べ、印刷用の版をつくる作業のこと

という意味があります。

 

どちらにも「かざり」の意味は含まれておらず、この選択肢は誤りです。

選択肢4. フッショクできない不安

フッショク→「払拭」はらったりぬぐったりして、すっかり取り除くこと

 

それぞれの字には、

払:はらいのける、なくなる

拭:ぬぐう、ふきとる

という意味があります。

 

どちらにも「かざり」の意味は含まれておらず、この選択肢は誤りです。

まとめ

「かざり」の意味を含む選択肢を選ぶ問題でした。

字が分からない場合は、前後の言葉や文脈から、それぞれの意味を考えて選びましょう。

参考になった数0

03

問われている漢字は、「ソウショク:装」です。

は、美しく飾ること、また、その飾りを意味します。

「装」と「」は、どちらも見かけをよくすること、また、そのかざりのことを表します。

似た意味の漢字を重ねる熟語です。

選択肢のなかから、見かけをよくすることやかざりのことを意味する熟語を探してみましょう。

選択肢1. 調査をイショクする

ショク:委

は、特定の仕事を他の人に任せることを意味します。

「委」と「」は、どちらも任せることを表します。

似た意味の漢字を重ねる熟語です。

二字とも見かけをよくすることやかざりの意味は含みません。

そのため、この選択肢は誤りです。

選択肢2. キョショクに満ちた生活

キョショク:虚

は、実質を伴わない上辺だけの飾りを意味します。

「虚」は上辺だけで実が伴わないこと、

」は見かけをよくすること、また、そのかざりのことをそれぞれ表します。

上の漢字が下の漢字を修飾する熟語です。

よって、この選択肢が下線部アに相当する漢字を含むものです。
 

選択肢3. ゴショクを発見する

ショク:誤

は、印刷物における文字や記号の誤りを意味します。

「誤」は間違えること

」は活字を組むことをそれぞれ表します。

上の漢字が下の漢字を修飾する熟語です。

二字とも見かけをよくすることやかざりの意味は含みません。

そのため、この選択肢は誤りです。

選択肢4. フッショクできない不安

フッショク:払

は、はらったりぬぐったりしたように、すっかり取り除くことを意味します。

「払」と「」は、どちらも汚れなどを除き、綺麗にすることを表します。

似た意味の漢字を重ねる熟語です。

二字とも見かけをよくすることやかざりの意味は含みません。

そのため、この選択肢は誤りです。

まとめ

は、見かけをよくすること、また、そのかざりのことを表します。

選択肢の中で、同じ意味を含むのは「虚」です。

漢字がわからない場合には、

各選択肢の「ショク」のもつ意味を比較して、選択しましょう。

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