大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和4年度(2022年度)追・再試験
問21 (第3問(古文) 問1)
問題文
[ 1 ]かくて、とかうものすることなど(注1)、いたつく(注2)人多くて、ア みなしはてつ。いまはいとあはれなる山寺に集ひて、つれづれとあり。夜、目もあはぬままに、嘆き明かしつつ、山づらを見れば、霧はげに麓(ふもと)をこめたり。京もげに誰(た)がもとへかは出(い)でむとすらむ、いで、なほここながら死なむと思へど、生くる人(注3)ぞいとつらきや。
[ 2 ]かくて十余日になりぬ。僧ども念仏のひまに物語するを聞けば、「この亡くなりぬる人の、あらはに見ゆるところなむある。さて、近く寄れば、消え失せぬなり。遠うては見ゆなり」「いづれの国とかや」「みみらくの島となむいふなる」など、口々語るを聞くに、いと知らまほしう、悲しうおぼえて、かくぞいはるる。
ありとだによそにても見む名にし負はばわれに聞かせよみみらくの島
といふを、兄人(せうと)なる人聞きて、それも泣く泣く、
いづことか音にのみ聞くみみらくの島がくれにし人をたづねむ
[ 3 ]かくてあるほどに、立ちながらものして(注4)、日々にとふめれど、ただいまは何心もなきに、穢(けが)らひの心もとなきこと、おぼつかなきことなど、むつかしきまで書きつづけてあれど、ものおぼえざりしほどのことなればにや、おぼえず。
[ 4 ]里にも急がねど、心にしまかせねば、今日、みな出で立つ日になりぬ。来し時は、膝に臥(ふ)し給(たま)へりし人を、いかでか安らかにと思ひつつ、わが身は汗になりつつ、さりともと思ふ心そひて、頼もしかりき。此度(こたみ)は、いと安らかにて、あさましきまでくつろかに乗られたるにも、道すがらいみじう悲し。
[ 5 ]降りて見るにも、イ さらにものおぼえず悲し。もろともに出で居つつ、つくろはせし草なども、わづらひしよりはじめて、うち捨てたりければ、生ひこりていろいろに咲き乱れたり。わざとのこと(注5)なども、みなおのがとりどりすれば、我はただつれづれとながめをのみして、「ひとむらすすき虫の音(ね)の」とのみぞいはるる。
手ふれねど花はさかりになりにけりとどめおきける露にかかりて
などぞおぼゆる。
[ 6 ]これかれぞ殿上などもせねば、穢らひもひとつにしなしためれば(注6)、おのがじしひき局(つぼね)(注7)などしつつあめる中に、我のみぞ紛るることなくて、夜は念仏の声聞きはじむるより、やがて泣きのみ明かさる。四十九日(しじふくにち)のこと(注8)、誰(たれ)も欠くことなくて、家にてぞする。わが知る人(注9)、おほかたのことを行ひためれば、人々多くさしあひたり。わが心ざしをば、仏をぞ描(か)かせたる。その日過ぎぬれば、みなおのがじし行きあかれぬ。ましてわが心地は心細うなりまさりて、いとどやるかたなく、人(注10)はかう心細げなるを思ひて、ありしよりはしげう通ふ。
(注1)とかうものすることなど ―― 葬式やその後始末など。
(注2)いたつく ―― 世話をする。
(注3)生くる人 ―― 作者を死なせないようにしている人。
(注4)立ちながらものして ―― 作者の夫である藤原兼家が、立ったまま面会しようとしたということ。立ったままであれば、死の穢(けが)れに触れないと考えられていた。
(注5)わざとのこと ―― 特別に行う供養。
(注6)これかれぞ殿上などもせねば、穢らひもひとつにしなしためれば ―― 殿上人もいないので、皆が同じ場所に籠もって喪に服したことを指す。殿上で働く人には、服喪に関わる謹慎期間をめぐってさまざまな制約があった。
(注7)ひき局 ―― 屏風(びょうぶ)などで仕切りをして一時的に作る個人スペース。
(注8)四十九日のこと ―― 人の死後四十九日目に行う、死者を供養するための大きな法事。
(注9)わが知る人 ―― 作者の夫、兼家。
(注10)人 ―― 兼家。
下線部アの解釈として最も適当なものを、次の選択肢のうちから一つ選べ。
ア みなしはてつ
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問題
大学入学共通テスト(国語)試験 令和4年度(2022年度)追・再試験 問21(第3問(古文) 問1) (訂正依頼・報告はこちら)
[ 1 ]かくて、とかうものすることなど(注1)、いたつく(注2)人多くて、ア みなしはてつ。いまはいとあはれなる山寺に集ひて、つれづれとあり。夜、目もあはぬままに、嘆き明かしつつ、山づらを見れば、霧はげに麓(ふもと)をこめたり。京もげに誰(た)がもとへかは出(い)でむとすらむ、いで、なほここながら死なむと思へど、生くる人(注3)ぞいとつらきや。
[ 2 ]かくて十余日になりぬ。僧ども念仏のひまに物語するを聞けば、「この亡くなりぬる人の、あらはに見ゆるところなむある。さて、近く寄れば、消え失せぬなり。遠うては見ゆなり」「いづれの国とかや」「みみらくの島となむいふなる」など、口々語るを聞くに、いと知らまほしう、悲しうおぼえて、かくぞいはるる。
ありとだによそにても見む名にし負はばわれに聞かせよみみらくの島
といふを、兄人(せうと)なる人聞きて、それも泣く泣く、
いづことか音にのみ聞くみみらくの島がくれにし人をたづねむ
[ 3 ]かくてあるほどに、立ちながらものして(注4)、日々にとふめれど、ただいまは何心もなきに、穢(けが)らひの心もとなきこと、おぼつかなきことなど、むつかしきまで書きつづけてあれど、ものおぼえざりしほどのことなればにや、おぼえず。
[ 4 ]里にも急がねど、心にしまかせねば、今日、みな出で立つ日になりぬ。来し時は、膝に臥(ふ)し給(たま)へりし人を、いかでか安らかにと思ひつつ、わが身は汗になりつつ、さりともと思ふ心そひて、頼もしかりき。此度(こたみ)は、いと安らかにて、あさましきまでくつろかに乗られたるにも、道すがらいみじう悲し。
[ 5 ]降りて見るにも、イ さらにものおぼえず悲し。もろともに出で居つつ、つくろはせし草なども、わづらひしよりはじめて、うち捨てたりければ、生ひこりていろいろに咲き乱れたり。わざとのこと(注5)なども、みなおのがとりどりすれば、我はただつれづれとながめをのみして、「ひとむらすすき虫の音(ね)の」とのみぞいはるる。
手ふれねど花はさかりになりにけりとどめおきける露にかかりて
などぞおぼゆる。
[ 6 ]これかれぞ殿上などもせねば、穢らひもひとつにしなしためれば(注6)、おのがじしひき局(つぼね)(注7)などしつつあめる中に、我のみぞ紛るることなくて、夜は念仏の声聞きはじむるより、やがて泣きのみ明かさる。四十九日(しじふくにち)のこと(注8)、誰(たれ)も欠くことなくて、家にてぞする。わが知る人(注9)、おほかたのことを行ひためれば、人々多くさしあひたり。わが心ざしをば、仏をぞ描(か)かせたる。その日過ぎぬれば、みなおのがじし行きあかれぬ。ましてわが心地は心細うなりまさりて、いとどやるかたなく、人(注10)はかう心細げなるを思ひて、ありしよりはしげう通ふ。
(注1)とかうものすることなど ―― 葬式やその後始末など。
(注2)いたつく ―― 世話をする。
(注3)生くる人 ―― 作者を死なせないようにしている人。
(注4)立ちながらものして ―― 作者の夫である藤原兼家が、立ったまま面会しようとしたということ。立ったままであれば、死の穢(けが)れに触れないと考えられていた。
(注5)わざとのこと ―― 特別に行う供養。
(注6)これかれぞ殿上などもせねば、穢らひもひとつにしなしためれば ―― 殿上人もいないので、皆が同じ場所に籠もって喪に服したことを指す。殿上で働く人には、服喪に関わる謹慎期間をめぐってさまざまな制約があった。
(注7)ひき局 ―― 屏風(びょうぶ)などで仕切りをして一時的に作る個人スペース。
(注8)四十九日のこと ―― 人の死後四十九日目に行う、死者を供養するための大きな法事。
(注9)わが知る人 ―― 作者の夫、兼家。
(注10)人 ―― 兼家。
下線部アの解釈として最も適当なものを、次の選択肢のうちから一つ選べ。
ア みなしはてつ
- 皆が疲れ果てた
- すべて済ませた
- 一通り体裁を整えた
- 見届け終わった
- 悲しみつくした
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この過去問の解説 (2件)
01
(注1)と(注2)を参考に、文章のおおまかな意味を把握しましょう。
*******
とかうものすることなど、
→葬式やその後始末など、
いたつく人多くて
→世話をする人が多くて
みな/し/はて/つ
→すべてし終わってしまった
*******
みな=すべて
し=「す」
はて=「果つ」(果てる)
つ=完了の助動詞
です。
以上を踏まえて選択肢を検討しましょう。
×皆が疲れ果てた
→後始末などをし終えたという内容ではないため、この選択肢は誤りです。
〇すべて済ませた
→内容と合致するため、この選択肢が正解です。
×一通り体裁を整えた
→「体裁を整える」とは「ものごとの外見や形式をととのえて、見栄えをよくすること」を表します。
内容と合致しないためこの選択肢は誤りです。
×見届け終わった
見届け終わったのではなく、始末が終わったのです。
本文と合致しないためこの選択肢は誤りです。
×悲しみつくした
→終わったのは葬式や後始末で、本文の内容と合致しません。
この選択肢は誤りです。
(注)などを参考に、おおまかな意味を把握しましょう。
また、それぞれの品詞の意味や活用を押さえておくことも大切です。
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02
本文のはじめから下線部アまでを現代語訳してみます。
(注)が付いている部分を置き換えてみると、
かくて、葬式やその後始末など、世話をする人多くて、ア みなしはてつ。
となります。
「かくて」は「このようにして」となりますが、ここがわからずとも解くことができます。
「葬式やその後始末など、世話をする人多くて」の後に続くので、
下線部アの「みな」は、「葬式やその後始末」、「し」は「する」を指すと考えられます。
「はて」は、「果て」と書き、「〜し終わって」という意味があります。
枕草子の、「秋は夕暮れ……日入り果てて」(太陽が沈み終わって)と同じ使い方です。
「つ」は完了を意味し、「〜てしまった」などと訳しますが、これも知らなくても解くことができます。
これらをまとめると、
このようにして、葬式やその後始末など、世話をする人多くて、みなやり終えてしまった。
となります。
葬式やその後始末などをやり終えてしまった、という内容の選択肢を探してみましょう。
「疲れ」については言及されていません。
葬式やその後始末などをやり終えてしまった、という内容ではないため、誤りです。
葬式やその後始末などをやり終えてしまった、という内容のため、この選択肢が最も適当なものです。
「みな」とあることから、全て終えたことがわかるので、外見が良く見えるように繕う「体裁を整え」は不適当です。
終えたのは「見届け」ることではなく、葬式やその後始末などなので、誤りです。
終えたのは「悲し」むことではなく、葬式やその後始末などなので、誤りです。
現代語訳の問題では、注釈や部分訳を参考にしましょう。
また、完了の「つ」など、古文で頻出の助動詞を覚えておくと、文意が読み取りやすくなります。
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