大学入学共通テスト(公民) 過去問
令和4年度(2022年度)本試験
問53 (倫理(第3問) 問7)

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問題

大学入学共通テスト(公民)試験 令和4年度(2022年度)本試験 問53(倫理(第3問) 問7) (訂正依頼・報告はこちら)

以下を読み、後の問いに答えよ。なお、会話と問いのF、G、先生は各々全て同じ人物である。

Ⅰ 次の会話は、「考えること」をテーマにした倫理の授業中に、ルネサンス期の「魔女狩り」の光景を描いた絵画をめぐって先生と高校生Fが交わしたものである。

先生:魔女狩りでは、国家とキリスト教会に一般の人々も数多く加わって、罪のない人々を魔女とみなし、この絵のように火刑に処するなどしました。
F:人間「再生」の時代と言われるa ルネサンス期にも、こんな側面があったのですね…。人々は、自分が間違っていると考えなかったのかな。
先生:そう、多くの人々が自分たちの判断に正当な根拠があるかを考えず、ある種の思考停止状態に陥って少数の人々を迫害したのが魔女狩りであったとすれば、同様なことは今日でも十分に起こり得るでしょう。
F:例えば、( a )ような場合ですね。考えることを止(や)めてしまったら、自分も現代版の魔女狩りに加担しかねない…。他人事(ひとごと)ではないなあ。

Ⅱ 次の会話は、授業の後にFとクラスメートのGが交わしたものである。

F:思考停止って怖いね。でも、知識さえあれば、b 他人の意見などを鵜呑(うの)みにせず、疑ってみることもできるから、思考停止も避けられるよ。
G:それはどうだろう。例えばこんな言葉があるよ。「あらゆることについて読書した人たちは、同時にあらゆることを理解していると考えられていますが、必ずしもそうではありません。読書は心に知識の素材を提供するだけであり、思考こそが、私たちが読んだものを自分のものにします」。
F:そうか…。知識だけがあればいいってことじゃないのか。これ、誰の言葉?
G:ほら、『人間知性論』を書き、人間の心を「白紙」になぞらえた思想家だよ。
F:ああ、それは( b )んだった。「白紙」は人間が知識を獲得する仕方を一般的に説明するための比喩だったね。その上で、この言葉は、自分の頭で考えることを通してこそ、知識は借り物ではなく、本当に自分のものになると述べているんだね。

Ⅲ 次の会話は、Ⅱの会話の後で、F、G、先生が交わしたものである。

F:考える大切さは分かったけど、考えって人それぞれで違うよね。私は、人と意見が違って衝突しそうになると、自分の考えは脇に置いて相手に従おうとしてしまうんだ。対立して人を傷つけたくないし、自分も傷つきたくないから。
G:でも、c ヘーゲルの弁証法によれば対立にも重要な意味があるって、授業で勉強したよ。対立があればこそ物事は展開するんだって。それに、衝突を恐れるあまり、自分の考えを蔑(ないがし)ろにしてしまっていいのかな。
F:そうだね…。私も、実を言えば、そうして人に合わせるのは、自分自身から目を背けることのような気がしてたんだ。
G:そんな気がするっていうのが大事だと思う。その気にさえなれば、自分を偽らずに相手と向き合い、考えを進めていけるってことだから。d ヤスパースも、「実存的な交わり」が人間には必要だって言っていたね!
先生:考えを進める上で、他の人の存在はもちろん重要です。ただ、考えはあくまでも自分自身の中で深まるものだという点を忘れたくないですね。
G:どういうことでしょう。自分一人ではなかなか考えも深まっていかないように思うのですが…。
先生:日常生活で、何かが心に引っ掛かって残り続けた経験はありませんか。
F:あります。友人にかけた自分の言葉が、それで本当によかったのかずっと気になったり、読んでいた本の一節が、なぜか忘れられなかったり…。
先生:そのとき、なぜ気になったのか、忘れられないのかと自分自身に問いかけることが、考えを深める手掛かりになるでしょう。誰もが同じことに引っ掛かるわけではないのだから、自分の心に残ったものは、他の誰でもなくあなた自身の考えを深めていくための出発点になるのです。
F:心に引っ掛かったことをやり過ごさず、e 立ち止まって考えることで、自分の考えをいっそう深めていける、ということですね。分かってきたけど、まだ少し引っ掛かるなあ…。あれ、これってもしかして…?
先生:それです!

下線部eに関して、先生はFに、「立ち止まって考える」ことについてデューイが論じている次の資料を示した。後のメモは、それを読んでFが書いたものである。資料の内容と、デューイの思想を踏まえて、メモ中の( c )・( d )に入る記述の組合せとして最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。

資料
いかなる場合であれ、自然な衝動や願望が行動の出発点となる。しかし、最初に現れてくる衝動や願望を、何らかのかたちで組み立て直し、あるいは作り変えることなしに、知的成長はない。・・・・・・「立ち止まり考えよ」という古くからの警句は、健全な心構えである。というのも、思考は衝動が即座に現れることを食い止め ....それによって、いっそう包括的で一貫した行動の見通しが形成されるからである。 ······人は、目、耳、手を使って客観的条件を観察したり、過去に何が起きたかを思い出したりする。このようにして、考えることは、即座の行動を先延ばしにすると同時に、観察と記憶との結合を通じて、衝動を自分の内部で統御することを可能にする。この結合が、自分を振り返るということの核心なのである。
(『経験と教育』より)

メモ
デューイはプラグマティズムに属する思想家で、( c )と主張している。この主張の根底には、資料に示されている、( d )という考えがある、と言えるだろう。
問題文の画像
  • c 知性には、科学的真理を探究するだけでなく、生活の中で直面する問題を把握し、課題の解決に向かって行動を導く創造的な働きがある
    d 思考の役割は、自然な衝動や願望を抑えつつ、自己を取り巻く客観的な条件を観察したり、過去の事例を振り返るなどして、自分がこれからなそうとする行動の当否を吟味することだ
  • c 社会もまた知性の働きによって改善されるべきであり、知性には、理想的な民主社会の実現に向けて重要な役割を果たすことが期待される
    d 思考の役割は、自然な衝動や願望を抑えつつ、行動を妨げるであろう要因を列挙して取り除いておくことで、環境の制約や過去の記憶から自由でいられるようにすることだ
  • c 現代社会において人々の価値観は多様であるが、各々が知性を働かせて協働することで、唯一絶対の普遍の価値に到達することができる
    d 思考の役割は、自然な衝動や願望を抑えつつ、自己を取り巻く客観的な条件を観察したり、過去の事例を振り返るなどして、自分がこれからなそうとする行動の当否を吟味することだ
  • c 資本主義の発展により知性は衰退し、民主主義の理念も崩壊の危機に瀕(ひん)しているため、教育により創造性を育むことがいっそう重要になる
    d 思考の役割は、自然な衝動や願望を抑えつつ、行動を妨げるであろう要因を列挙して取り除いておくことで、環境の制約や過去の記憶から自由でいられるようにすることだ

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