司法書士の過去問
平成25年度
午前の部 問3

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問題

平成25年度 司法書士試験 午前の部 問3 (訂正依頼・報告はこちら)

次の対話は、違憲審査権に関する教授と学生との対話である。教授の質問に対する次のアからオまでの学生の解答のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。


教授 : 憲法第81条には、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定されていますが、下級裁判所も違憲審査権を有していますか。

学生 : ア  憲法第81条の明文上は、「最高裁判所」と規定されていますが、下級裁判所も違憲審査権を有しています。

教授 : それでは、憲法第81条には、違憲審査の対象として、裁判所のする「判決」が明文で規定されていませんが、判決も違憲審査の対象となりますか。

学生 : イ  判決も「処分」の一種として、違憲審査の対象となります。

教授 : 違憲審査の対象とならないものには、どのようなものがありますか。

学生 : ウ  例えば、両議院の自律権に属する行為は違憲審査の対象となるものの、国の統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は違憲審査の対象とはなりません。

教授 : 「条約」は違憲審査の対象とならないとする見解がありますが、この見解に対しては、どのような批判がありますか。

学生 : エ  憲法に反する内容の条約が締結された場合には、当該条約によって実質的に憲法が改正されることとなるため、硬性憲法の建前に反するという批判があります。

教授 : では、憲法違反となるかどうかが争われている法令の規定について、複数の解釈が成り立ち、ある解釈を採ると違憲となるが、別の解釈を採れば合憲となるというような場合に、裁判所は、どのような判断の手法を執ることになりますか。

学生 : オ  法律の規定の解釈が複数成り立つことは、法規としての明確性を欠くことになるため、このような場合には、裁判所は、争われた法令の規定そのものを常に違憲と判断することになります。
  • アエ
  • アオ
  • イウ
  • イエ
  • ウオ

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この過去問の解説 (4件)

01

誤っている選択肢はウとオです。

各選択肢の解説は、以下のとおりです。

選択肢5. ウオ

ア. 最高裁昭和25年2月1日判決で「裁判官が、具体的争訟事件に法令を適用して裁判するにあたり、その法令が憲法に適合するか否かを判断することは、憲法によって裁判官に課された職務と職権であって、このことは最高裁判所の裁判官であると、下級裁判所の裁判官であるとを問わない。憲法81条は、最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定であって、下級裁判所が違憲審査権を有することを否定する趣旨をもっているものではない」としています。従って、本選択肢は正しいです。

イ. 最高裁平成23年7月8日判決で、「裁判の本質は、一種の処分である」「一切の処分は、行政処分たると裁判たるとを問わず、終審として最高裁判所の違憲審査権に服する」としています。従って、本選択肢は、正しいです。

ウ. 最高裁昭和37年3月7日判決で、「(警察改正法が)両院において議決を経たものとされ適法な手続きによって交付されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべく同法制定の議事手続きに関する所論のような事実を審理してその有効無効を判断すべきではない」としています。従って、本選択肢では、両議院の自律権に属する行為を違憲審査権の対象外としているため、誤りです。

エ. 条約が違憲審査の対象とならないとすると、憲法に反する条約が締結された場合に、違憲審査によって当該条約を無効とすることができず、当該条約によって、実質的に憲法が改正されてしまうことになります。従って、本選択肢は正しいです。

オ. 判例は「法律の解釈として複数の解釈が可能な場合に、憲法の規定と精神に適合する解釈を取るという合憲限定解釈の手法を採用する」という考え方を示しています(最高裁昭和59年12月12日判決)。従って、本選択肢は誤りです。

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02

選択肢のウとオが誤りとなります。

選択肢5. ウオ

ア:正しい

憲法81条の条文上においては「最高裁判所は」という記載になっていますが、判例(最高裁判決昭和25年2月1日)では、「憲法81条は最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにしたものであって、下級裁判所が違憲審査権を有することを否定したものではない」として下級裁判所も違憲審査権を有するとしています。

イ:正しい

違憲審査の対象は憲法81条に挙げられている「法律、命令、規則又は処分」が含まれていますが、裁判所の判決はここにいう処分に含まれると解されているため、判決も違憲審査の対象となります。

ウ:誤り

両議院の自律権に属する行為は違憲審査の対象とはならないため本肢は誤りです。

昭和37年3月7日「警察法改正無効事件」の最高裁判決によると、「裁判所の法令審査権は国会の両院における法律制定の議事手続の適否には及ばないと解すべきである。」として違憲審査の対象とはならないとしています。

エ:正しい

条約が違憲審査の対象とならないとするならば、条約より憲法の方が優位にあると考えられます。この考え方を条約優位説と言います。

もし、憲法の定めに反する条約が成立したとすると、それにより憲法が改正されたのと同様の効果が条約によって生み出されるため、硬性憲法の建前に反するという批判があります。

オ:誤り

判例は法律の解釈が複数成り立つような場合、その法律が合憲となる解釈をとる「合憲限定解釈」の手法を採るという考え方を示しています。

裁判所は争われた法令の規定そのものを常に違憲と判断しません。

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03

ア 正しい。

 選択肢の記述通り、憲法上明文にて違憲審査権が認められているのは最高裁判所のみです。

しかしながら、下級裁判所も違憲審査権を有することは判例(最判昭和25・2・1)・学説の一致して認めるところであり、実際に下級裁判所は違憲審査権を行使しています。憲法81条の「最高裁判所」の文言は、終局的に最高裁判所の判断を仰ぐ機会を保障する趣旨のものと解すべきでしょう。

イ 正しい。

 「処分」は行政機関の行為のほか、立法機関・司法機関の行為も含まれます。よって、司法機関の処分たる判決も「処分」として違憲審査の対象となります。

ちなみに、学説レベルでは判決の合憲性は審級制(すなわち、上級裁判所への上訴)によって審査されるべきとの見解も存在しますが、通説の地位を獲得するには至っていません。

ウ 誤り。

 「両議院の自律権に属する行為」および「国の統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為」はともに違憲審査の対象となりません。後者は典型的な統治行為論の対象ですが、前者を統治行為論の一環によるものと捉えるか、議会の自律権尊重という独自の論理とみるかは学説の分かれるところです。

エ 正しい。

 条約に違憲審査権が及ばないと解すると、事実上現行憲法の内容と抵触する条約の締結によって憲法の改正と同等の効果を実現することが可能となりますから、正規の憲法改憲手続きと比して厳格でない手続きにて事実上の改憲が実現することから、硬性憲法の原則には反します。

オ 誤り。

 この選択肢のような、「ある解釈を採ると違憲となるが、別の解釈を採れば合憲となるというような場合」にとられる裁判所の憲法判断として「合憲(限定)解釈」があります。これは、法令そのものを違憲と判示するのではなく、違憲となる解釈を採用したことについて「法令の適用の誤り」として合憲となる解釈に基づくべきとの判決を下す手法です。

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04

正解 ウ オ

選択肢5. ウオ

ア 正しい

最判昭和25年2月1日は、下級裁判所が違憲審査権を有するか否かについて、「憲法81条は最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにしたものであって、下級裁判所が違憲審査権を有することを否定したものではない」と判示しています。

イ 正しい

憲法81条は、違憲審査の対象として「法律、命令、規則又は処分」を定めていますが、裁判所のする判決は、ここにいう処分に含まれると解されています。

ウ 誤り

警察法改正無効事件(最大判昭和37年3月7日)は、「裁判所の法令審査権は国会の両院における法律制定の議事手続の適否には及ばないと解すべきである。」と判示しています。

エ 正しい

条約が違憲審査の対象とならないとする見解(条約優位説)に立つと、憲法より条約が優位にあることになります。

そのため、憲法に反する内容の条約が締結されても、違憲審査権が及ばず、実質的に当該条約によって憲法が改正されることになるため、硬性憲法の建前に反するという批判があります。

オ 誤り

法律の規定の解釈が複数成り立つ場合、判例は、違憲判断を回避するための方法として、「合憲限定解釈」の手法を採ることがあります。

よって、争われた法令の規定そのものを常に違憲と判断するわけではありません。

まとめ

以上から、誤っている肢はウとオです。

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