司法書士の過去問
平成25年度
午前の部 問18
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問題
平成25年度 司法書士試験 午前の部 問18 (訂正依頼・報告はこちら)
建物の賃借人による賃貸人の負担に属する必要費又は有益費の償還請求に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 賃借人が支出した必要費の償還は、賃貸人が目的物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないが、この1年の期間とは別に、賃借人が必要費を支出した時から消滅時効が進行する。
イ 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合において、必要費を支出した転借人は、転貸人のほか、賃貸人に対しても、直接にその償還請求権を行使することができる。
ウ 賃借人は、必要費を支出した場合であっても、賃借物を留置することはできない。
エ 賃借人が、自己の必要費償還請求権と賃貸人の賃料債権との相殺によって、賃料不払を理由とする契約解除を妨げるためには、解除の意思表示がされる前に相殺の意思表示をしなければならない。
オ 賃借人が有益費を支出した建物の増築部分が、賃貸借の終了後、賃借物の返還前に、賃貸人又は賃借人のいずれの責めにも帰すべきでない事由によって滅失した場合であっても、その滅失が有益費償還請求権の行使の後に生じたものであるときは、有益費償還請求権は、消滅しない。
ア 賃借人が支出した必要費の償還は、賃貸人が目的物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないが、この1年の期間とは別に、賃借人が必要費を支出した時から消滅時効が進行する。
イ 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合において、必要費を支出した転借人は、転貸人のほか、賃貸人に対しても、直接にその償還請求権を行使することができる。
ウ 賃借人は、必要費を支出した場合であっても、賃借物を留置することはできない。
エ 賃借人が、自己の必要費償還請求権と賃貸人の賃料債権との相殺によって、賃料不払を理由とする契約解除を妨げるためには、解除の意思表示がされる前に相殺の意思表示をしなければならない。
オ 賃借人が有益費を支出した建物の増築部分が、賃貸借の終了後、賃借物の返還前に、賃貸人又は賃借人のいずれの責めにも帰すべきでない事由によって滅失した場合であっても、その滅失が有益費償還請求権の行使の後に生じたものであるときは、有益費償還請求権は、消滅しない。
- アエ
- アオ
- イウ
- イオ
- ウエ
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この過去問の解説 (3件)
01
正しい記述はアとエです。
各記述の解説は、以下のとおりです。
ア. 使用貸借に関する民法600条では「契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない」と規定しています。また、この規定は民法621条によって、賃貸借について準用されています。また、民法166条1項では、「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する」と規定しています。
従って、この記述は正しいです。
イ. 適法な転貸借があった場合、転借人は賃貸人に直接義務を負います。(民法613条1項参照)。しかし、賃貸人は、転借人に対して直接義務を負うことはありません。
従って、この記述は誤りとなります。
ウ. 賃借人が賃借物に必要費を支出した場合、賃借人はこの償還請求権に基づき賃借物を留め置くことができるとされています。(大審院昭和14年4月28日判決参照)。
従って、この記述は誤りとなります。
エ. 最高裁昭和32年3月8日判決で「賃貸借契約が賃料不払いを理由として適法に解除された後に、賃貸人に対して有する債権を自働債権として相殺の意思表示をすることによって当該賃料債権が遡って消滅しても、相殺の遡及効によって、解除は無効とならない」としています。
従って、この記述は正しいです。
オ. 最高裁昭和48年7月17日判決で「賃借人が有益費を支出した建物の増築部分が、賃貸借の終了後、賃貸人・賃借人いずれの責めにも帰すべきでない事由によって滅失した場合、有益費償還請求権は消滅する」としています。
従って、この記述は誤りとなります。
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02
ア 正しい。
借主の支出した費用の償還は、貸主が返還を受けてから1年以内に為すべき旨定められていますが(621条による600条の準用)、これは除斥期間と解されています。よって、消滅時効は別途進行し、その起算点は費用支出時です。
イ 誤り。
適法な賃貸借の場合、賃貸人は転借人に直接賃料を請求できる旨の規定は存在しますが、転借人が賃貸人に費用償還請求権を行使しうるとの定めは存在しません。
ウ 誤り。
必要費償還請求権は「そのものについて生じた債権」であるため、留置権を行使し得ます。一方、同じ賃貸借に際し発生する債権であっても、敷金返還請求権については留置権は行使できません。これは、目的物が返還され現況を確認し始めて返還すべき敷金額が確定するためとされています。
エ 正しい。
相殺の効力は相殺適状が生じたときに遡って発生しますが、それは債権債務関係の消滅に関してのみ妥当し、その後に為された解除の効力に影響を及ぼすものではない、というのが判例の立場です。
オ 誤り。
民法に費用償還請求権が規定されている本旨は、これを認めなかった場合、目的物につき借主の支出によって増価した部分につき貸主に不当利得が発生するがためであるとした上で、後発的事象により増価部分が滅失した場合はこれを認めるに由なく、それは請求権の行使後でも変わらない、というのが判例の立場です。
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03
ア 正しい
使用貸借における費用償還の請求権についての期間の制限について定めた民法600条は賃貸借について準用されます(同法622条)。同法600条は、「借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない」と規定していますので、前段は正しいということになります。
また、債権の消滅時効は、債権者が権利を行使することができることを知った時、または、権利を行使することができる時から進行を始めるため(同法166条1項)、後段も正しいといえます。
イ 誤り
賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負います(民法613条1項)。
このように、適法な転貸借においては、転借人が賃貸人に対して直接義務を負うのであって、賃貸人が転借人に対して直接義務を負うことはありません
ウ 誤り
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができます(民法295条1項)。
本肢にいう必要費は、賃貸人が所有する建物に関して生じた債権といえるため、賃借人は必要費の弁済を受けるまで、当該建物を留置することができます。
エ 正しい
相殺の遡及効が契約解除に及ぼす影響の有無について判示した最判昭和32年3月8日は、「賃貸借契約が、賃料不払のため適法に解除された以上、たとえその後、賃借人の相殺の意思表示により右賃料債務が遡って消滅しても、解除の効力に影響はない。」としています。同判例によれば、賃借人が、自己の必要費償還請求権と賃貸人の賃料債権との相殺によって、賃料不払を理由とする契約解除を妨げるためには、解除の意思表示がされる前に相殺の意思表示をしなければならないということになります。
オ 誤り
賃借人が賃借建物に附加した部分が滅失した場合と有益費償還請求権の有無について判示した最判昭和48年7月17日は、「賃借人が賃借建物に附加した増築部分が、賃貸人に返還される以前に、賃貸人、賃借人いずれの責にも帰すべきでない事由により滅失したときは、特段の事情のないかぎり、右部分に関する有益費償還請求権は消滅する。」としています。
以上から、正しい肢はアとエであり、1が正解となります。
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