司法書士の過去問
平成25年度
午前の部 問24
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問題
平成25年度 司法書士試験 午前の部 問24 (訂正依頼・報告はこちら)
[ ]内の犯罪の成否を検討するに当たっての因果関係の存否に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア Aは、乗用車のトランク内にBを入れて監禁し、信号待ちのため路上で停車していたところ、後方から脇見をしながら運転してきたトラックに追突され、Bが死亡した。この場合において、Aの監禁行為とBの死亡の結果との間には、因果関係がある。[監禁致死罪]
イ Aは、Bの腹部をナイフで突き刺し、重傷を負わせたところ、Bは、医師の治療により一命を取り留めたものの、長期入院をしていた間に恋人に振られたため、前途を悲観して自殺した。この場合において、Aがナイフで刺した行為とBの死亡の結果との間には、因果関係がある。[殺人罪]
ウ 柔道整復師Aは、医師免許はないものの、客の健康相談に応じて治療方法の指導を行っていたが、風邪の症状を訴えていたBに対し、水分や食事を控えて汗をかけなどと誤った治療方法を繰り返し指示したところ、これに忠実に従ったBは、病状を悪化させて死亡した。この場合において、Aの指示とBの死亡の結果との間には、因果関係がない。[業務上過失致死罪]
エ Aは、Bの頭部等を多数回殴打するなどの暴行を加えて脳出血等の傷害を負わせた上で、路上に放置したところ、その傷害によりBが死亡したが、Bの死亡前、たまたま通り掛かったCが路上に放置されていたBの頭部を軽く蹴ったことから、Bの死期が早められた。この場合において、Aの暴行とBの死亡の結果との間には、因果関係がない。[傷害致死罪]
オ Aは、多数の仲間らと共に、長時間にわたり、激しく、かつ、執ようにBに暴行を加え、隙を見て逃げ出したBを追い掛けて捕まえようとしたところ、極度に畏怖していたBは、交通量の多い幹線道路を横切って逃げようとして、走ってきた自動車に衝突して死亡した。この場合において、Aの暴行とBの死亡の結果との間には、因果関係がある。[傷害致死罪]
ア Aは、乗用車のトランク内にBを入れて監禁し、信号待ちのため路上で停車していたところ、後方から脇見をしながら運転してきたトラックに追突され、Bが死亡した。この場合において、Aの監禁行為とBの死亡の結果との間には、因果関係がある。[監禁致死罪]
イ Aは、Bの腹部をナイフで突き刺し、重傷を負わせたところ、Bは、医師の治療により一命を取り留めたものの、長期入院をしていた間に恋人に振られたため、前途を悲観して自殺した。この場合において、Aがナイフで刺した行為とBの死亡の結果との間には、因果関係がある。[殺人罪]
ウ 柔道整復師Aは、医師免許はないものの、客の健康相談に応じて治療方法の指導を行っていたが、風邪の症状を訴えていたBに対し、水分や食事を控えて汗をかけなどと誤った治療方法を繰り返し指示したところ、これに忠実に従ったBは、病状を悪化させて死亡した。この場合において、Aの指示とBの死亡の結果との間には、因果関係がない。[業務上過失致死罪]
エ Aは、Bの頭部等を多数回殴打するなどの暴行を加えて脳出血等の傷害を負わせた上で、路上に放置したところ、その傷害によりBが死亡したが、Bの死亡前、たまたま通り掛かったCが路上に放置されていたBの頭部を軽く蹴ったことから、Bの死期が早められた。この場合において、Aの暴行とBの死亡の結果との間には、因果関係がない。[傷害致死罪]
オ Aは、多数の仲間らと共に、長時間にわたり、激しく、かつ、執ようにBに暴行を加え、隙を見て逃げ出したBを追い掛けて捕まえようとしたところ、極度に畏怖していたBは、交通量の多い幹線道路を横切って逃げようとして、走ってきた自動車に衝突して死亡した。この場合において、Aの暴行とBの死亡の結果との間には、因果関係がある。[傷害致死罪]
- アウ
- アオ
- イウ
- イエ
- エオ
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この過去問の解説 (3件)
01
正しい選択肢はアとオなので、2が正解です。
各選択肢の解説は、以下のとおりです。
ア. 最高裁平成18年3月27日判決で「被害者の死亡原因が直接的には追突事故を起こした第三者の甚だしい過失行為にあるとしても、道路上で停車中の普通乗用車自動車後部のトランク内に被害者を監禁した本件監禁行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる」としています。従って、本選択肢は正しいです。
イ. Bが自殺したという事実は、AがBに重傷を負わせたという事実と、別個独立の事実であり、また、Bの行為について、Aの行為が与える影響は、比較的軽微なものでありということができます。従って、Aの行為とBが死亡という結果との間には、因果関係はありません。従って、本選択肢は誤りです。
ウ. 判例は、本件と同様の事案において、「被告人の行為は、それ自体が被害者の病状を悪化させ、ひいては死亡の結果も引き起こしかねない危険性を有していたものであるから、医師の診療・治療を受けることなく、被告人だけに依存した被害者側にも落ち度があったことは否定できないとしても、被告人の行為と被害者の死亡との間には因果関係があるというべき」(最高裁昭和63年5月11日判決)としています。
従って、本選択肢は誤りです。
エ. 判例は、本件と同様の事案において「犯人の暴行によって被害者死因となった傷害が形成された場合には、仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる」(最高裁平成2年11月20日判決)。従って、本選択肢は誤りです。
オ. 判例は、本件と同様の事案において「被害者が逃走しようとして高速道路に侵入したことは、それ自体極めて危険な行為であるというほかないが、被害者は、被告人から長時間かつ激しく執拗な暴行を受け、被告人らに対して極度の恐怖感を抱き、必死に逃走を図る過程で、とっさにそのような行動を選択したものと認められ、その行動が、被告人らの暴行から逃れる方法として、著しく不自然、不相当であったとはいえない。そうすると、被害者が高速道路に侵入して死亡したのは、被告人らの暴行に起因するものと評価することができるから、被告人らの暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定した原判決は、正当として是認することができる」(最高裁平成15年7月16日判決)としています。従って、本選択肢は正しい記述です。
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02
ア 正しい
行為と結果との間に他人の行為が介在した事例につき、因果関係を認めた判例です(最判平成18年3月27日)。なお、判例は因果関係を認めるべき理由につき詳らかではありませんが、学説は監禁罪に致死罪が設定されている所以は、監禁に伴う発生の蓋然性が高い死傷の結果につき一般予防的観点から回避せんとしているところ、特に死傷の危険性の高いトランク内に監禁したがゆえに因果関係を認めるべき、としています。
イ 誤り
被害者の不適切な行為が介在し結果が生じた場合であって因果関係が認められるのは、被害者の行為が当初の加害行為によってもたらされたものであったり(最決平成15・7・16高速道路侵入事件)、加害行為から予測しうるものである場合です(最決平成4・12・17夜間潜水事件)。本件ではいずれにも該当せず、因果関係は認められません。
ウ 誤り
本件事例では被害者の不適切な行為が介在していますが、被害者の行為は当初の加害行為によってもたらされたものであるといえます。よって因果関係が認められます(最決昭和63・5・11柔道整復師事件)
エ 誤り
第三者の行為が介在した場合、因果関係の有無は当初行為の危険性が具体化したかを基準として判断されます。すなわち、当初行為が第三者の介在にかかわらず終極的な結果に決定的な影響を及ぼしたと認められる場合は因果関係が認められ、むしろ第三者の行為によって結果が惹起された場合は因果関係が否定されます。
本件事例では、Aの加害行為がBの死亡という結果につき重大な影響を与えたものであり、第三者Cの行為は死期を早めたに過ぎませんから、因果関係が肯定されます。
オ 正しい
イおよびウの解説に記載の通り、被害者の不適切な行為が介在した場合であっても当初の加害行為によってもたらされたものである場合は因果関係が肯定されます。本件事例ではAらの暴行によりやむを得ず幹線道路の横断という危険な行為に及んだものですから、因果関係が肯定されます。
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03
ア 正しい
判例(最決平成18年3月27日)は、本肢と同様の事案において、「道路上で停車中の普通乗用車自動車後部のトランク内に被害者を監禁した行為と後方から走行してきた自動車が追突して生じた被害者の死亡との間には、同人の死亡原因が直接的には追突事故を起こした第三者の甚だしい過失行為にあるとしても、因果関係がある」と判示しています。
イ 誤り
判例(最決平成16年2月17日)は、暴行による傷害がそれ自体死亡の結果をもたらし得るものであった場合には、被害者の不適切な行為が介在したとしても、暴行と被害者の死亡との間の因果関係を認めています。
もっとも、ここでいう「被害者の不適切な行為」は、加害行為から予測可能なものであることが必要とされています。
本肢のように、恋人に振られたことを理由とする自殺は、加害行為から予測可能であるとはいえません。
ウ 誤り
判例(最決昭和63年5月11日)は、本肢と同様の事案において、「医師の資格のない柔道整復師が風邪の症状を訴える患者に対して誤った治療法を繰り返し指示し、これに忠実に従った患者が症状を悪化させて死亡するに至った場合には、患者側に医師の診療治療を受けることなく右指示に従った落度があったとしても、右指示と患者の死亡との間には因果関係がある。」と判示しています。
エ 誤り
判例(最決平成2年11月20日)は、本肢と同様の事案において、「被告人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、その後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、被告人の暴行と被害者の死亡との間には因果関係がある。」と判示しています。
オ 正しい
判例(最決平成15年7月16日)は、本肢と同様の事案において、「暴行の被害者が現場からの逃走途中に高速道路に進入するという極めて危険な行為を採ったために交通事故に遭遇して死亡したとしても、その行動が、長時間激しくかつ執拗な暴行を受け、極度の恐怖感を抱いて、必死に逃走を図る過程で、とっさに選択されたものであり、暴行から逃れる方法として、著しく不自然、不相当であったとはいえないなど判示の事情の下においては、上記暴行と被害者の死亡との間には因果関係がある。」と判示しています。
本肢において、Bは、交通量の多い幹線道路を横切るという極めて危険な行為を採っていますが、上記判例の立場からすれば、Aの暴行とBの死亡の結果との間には、因果関係があることになります。
以上から、正しい肢はアとオであり、2が正解となります。
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