司法書士の過去問
平成26年度
午前の部 問4

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問題

平成26年度 司法書士試験 午前の部 問4 (訂正依頼・報告はこちら)

以下の試験問題については、国際物品売貸契約に関する国際連合条約( ウィーン売買条約 )の適用は考慮しないものとして、解答してください。

錯誤によって意思表示をした者が、その意思表示を前提として新たな法律関係を有するに至った第三者に対してその意思表示の無効を主張することができるかどうかについては、詐欺に関する民法第96条第3項の類推適用を肯定する考え方と否定する考え方とがある。次のアからオまでの記述のうち、同項の類推適用を肯定する考え方の根拠となるものの組合せとして最も適切なものは、後記1から5までのうち、どれか。


ア  民法第96条第3項の規定は、取消しの遡及効を制限したものである。

イ  錯誤によって意思表示をした者の中には、詐欺によらず自ら錯誤に陥った者も含まれているところ、だまされて錯誤に陥った者より、だまされていないのに自ら錯誤に陥った者の方が帰責性は大きい。

ウ  錯誤によって意思表示をした者がその意思表示の無効を主張した後に、第三者がその意思表示を前提として新たな法律関係を有するに至った場合と、詐欺によって意思表示をした者がその意思表示の取消しを主張した後に、第三者がその意思表示を前提として新たな法律関係を有するに至った場合とを区別する必要はない。

エ  同一の事案が錯誤と詐欺の双方に該当することも少なくなく、意思表示をした者がいずれを主張するかによって第三者の地位が左右されることは望ましくない。

オ  法律行為の要素に錯誤があることや錯誤によって意思表示をした者に重大な過失がないことなど、錯誤による無効を主張するための厳格な要件を満たした場合には、意思表示をした者の要保護性が高い。


民法
第96条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
  • アイ
  • アウ
  • イエ
  • ウオ
  • エオ

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この過去問の解説 (3件)

01

正解は3です。

民法第96条第3項の規定を類推適用するという考え方に親和的なのは、イとエです。従って、3が正解です。

各選択肢の解説は、以下のとおりです。

ア. 錯誤無効の場合、最初から意思表示が無効であるのに対して、詐欺による取消しは、有効な意思表示が取消しによって、遡及的に無効になります。民法第96条第3項の規定は、取消しの遡及効を制限したものである、という点を強調すれば、錯誤無効の場合に民法96条3項を適用すべきではないということになります。従って、本選択肢は、民法第96条第3項の規定の
類推適用を肯定する根拠になりません。

イ. 錯誤無効は、誰にでも主張できるのに対して、詐欺取消しは、善意の第三者には主張できません。その意味では、錯誤無効の方が、詐欺取消しよりも、表意者を保護する度合いが高くなります。錯誤無効の方が、詐欺取消しよりも表意者の帰責性が高いとすると、錯誤無効の方が、詐欺取消しよりも、表意者を保護する度合いが高いのはおかしいということになります。その結果、詐欺取消しの規定を、錯誤無効に類推適用すべきという考え方に結び付きますので、本選択肢は、民法第96条第3項の規定を類推適用を肯定する根拠となります。

ウ. 詐欺取消しに関する民法96条3項は、取消し前の第三者を保護する規定です。本選択肢は、取消し後の第三者に対する対応に関して、錯誤無効の場合と、
詐欺取り消しの場合について、区別を設ける必要はないとしていますが、このことは、民法96条3項を錯誤無効に類推適用するかどうかとは全く関係がありません。従って、本選択肢は、民法第96条第3項の規定を類推適用を肯定する根拠となりません。

エ. 意思表示をした者がいずれを主張するかによって第三者の地位が左右されることは望ましくないとすると、錯誤無効について、民法96条3項の規定を類推適用すべきという考え方に結び付きます。従って、本選択肢は、民法第96条第3項の規定を類推適用を肯定する根拠となります。

オ. 法律行為の要素に錯誤があることや錯誤によって意思表示をした者に重大な過失がないことなど、錯誤による無効を主張するための厳格な要件を満たした場合には、意思表示をした者の要保護性が高いとすると、錯誤無効について、民法96条3項の規定は適用すべきではないということになります。従って、本選択肢は、民法第96条第3項の規定を類推適用を肯定する根拠となりません。






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02

正解は3。

*平成29年改正後民法では、錯誤は無効ではなく、取消し得るものとされ(民法95条1項)、錯誤を理由とする「意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」として、第三者の保護を規定します(民法95条4項「第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」)。したがって、基本的にはここでの問題は立法的には解決されています。

ア:根拠とならない

取消しの遡及効を制限した規定ということだけでは、(当初から)無効である錯誤に適用されるということを基礎づけることはできません。民法96条3項の規定の性格は問題の出発点にとどまります。

よって、根拠となりません。

イ:根拠となる

自ら錯誤に陥った者の方が帰責性は大きいのですから、保護の必要性が乏しくなる一方で、第三者の保護の必要性は変わらないのですから、より帰責性の乏しい詐欺よりもより一層強く、本人の犠牲において第三者を保護すべきと考えることができます。

よって、根拠となります。

ウ:根拠とならない

これは詐欺取消の前後で民法96条3項の「第三者」を画する見解に対する批判であり、錯誤に同項の類推適用を肯定した上での(保護の範囲や程度に関する)議論としてはともかく、その前提となる類推適用の可否についての議論の根拠とはなりえません。

よって、根拠となりません。

エ:根拠となる

錯誤と詐欺とのいずれも主張することができる場合があり、そのいずれを主張するかによって第三者の地位が左右されることは望ましくないと考えると、いずれについても第三者を保護すべきであり、詐欺に合わせて、錯誤についても同様に第三者を保護すべきと考えることになります。

よって、根拠となります。

オ:根拠とならない

これは錯誤の主張をする者の要保護性が高いとするもので、そうすると詐欺取消の場合よりも有利に扱ってもよいとし、民法96条3項の類推適用を否定し、ひいては善意の第三者の保護を否定してもよいと考えることになります。

よって、根拠となりません。

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03

民法96条3項の類推適用を肯定する考え方の根拠となるのはイとエであり、3が正解です。

ア 民法96条3項は取消しの遡及効から第三者を保護する規定であると捉えると、錯誤の効果は無効ですので、類推を否定することになります。したがって、本記述は、民法96条3項の類推適用を否定する見解の根拠となります。

イ だまされてもいないのに自ら錯誤に陥って意思表示をした者の方が帰責性は大きいと考えると、より第三者を保護すべきことになりますから、民法96条3項(第三者保護規定)の類推を肯定すべきことになります。したがって、本記述は、民法96条3項の類推適用を肯定する見解の根拠となります。

ウ 民法96条3項は、取消前に第三者が現れた場合にこれを保護する趣旨の規定と解するのが判例(大判昭和17.9.30)、通説であり、錯誤無効の主張後に第三者が現れた場合と取消後に第三者が現れた場合とを区別する必要がないと主張することは、民法96条3項を類推適用することの根拠にはなりません。したがって、本記述は次元の異なる記述であり、民法96条3項の類推適用を肯定する見解の根拠とはならないことになります。

エ 錯誤無効と詐欺による取消しのいずれを主張するかによって第三者の地位が左右されるべきではない、とすると、錯誤の場合も民法96条3項を類推適用して、同じ結論を導くべき、ということになります。したがって、本記述は、民法96条3項の類推適用を肯定する見解の根拠となります。

オ 意思表示をした者の要保護性が高いとすると、民法96条3項(第三者保護規定)の類推を否定すべきこととなります。したがって、本記述は、民法96条3項の類推適用を否定する見解の根拠となります。

※本問については、債権法改正により錯誤の効果が無効から取消しに変更されたこと(改正民法95条1項)、錯誤についても詐欺の場合と同様の第三者保護規定が設けられたこと(改正民法95条4項)から、債権法改正の施行後は、問題として成立しなくなるのではないかと考えます。

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