司法書士の過去問
平成28年度
午前の部 問6
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問題
平成28年度 司法書士試験 午前の部 問6 (訂正依頼・報告はこちら)
AとBとは、A所有の中古自動車(以下「本件自動車」という。)をBに対して代金150万円で売り、Bが代金のうち50万円を直ちに支払い、残代金をその2週間後に本件自動車の引渡しと引換えに支払う旨の合意をした。この事例に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア Bは、引渡しを受けた本件自動車のエンジンが壊れていたため、Aに対し、瑕疵担保責任に基づいて損害賠償の請求をすることを考えている。この損害賠償請求権の消滅時効は、Bが本件自動車の引渡しを受けた時から進行する。
イ Bは、約定の履行期が経過してもAが本件自動車の引渡しをしないため、売買契約に基づいて本件自動車の引渡しを請求することを考えている。この引渡請求権の消滅時効は、BがAに対して残代金に係る弁済の提供をした時から進行する。
ウ Bは、残代金を支払わないうちに被保佐人となったが、保佐人の同意を得ないで残代金の支払債務の承認をした。この場合には、AのBに対する残代金の支払請求権について、時効中断の効力は生じない。
エ Aは、約定の履行期に本件自動車を引き渡したが、Bが残代金の支払をしないため、Bに対し、残代金のうち60万円について、一部請求である旨を明示して、代金支払請求の訴えを提起した。この訴えの提起によっては、残代金のうち残部の40万円の支払請求権について、裁判上の催告としての時効中断の効力は生じない。
オ Aは、約定の履行期に本件自動車を引き渡したが、代金は50万円であって支払済みである旨主張し始めたBから、債務不存在確認の訴えを提起された。この訴訟において、AがBに対する残代金の支払請求権の存在を主張して請求棄却の判決を求めた場合には、この支払請求権について、時効中断の効力が生ずる。
ア Bは、引渡しを受けた本件自動車のエンジンが壊れていたため、Aに対し、瑕疵担保責任に基づいて損害賠償の請求をすることを考えている。この損害賠償請求権の消滅時効は、Bが本件自動車の引渡しを受けた時から進行する。
イ Bは、約定の履行期が経過してもAが本件自動車の引渡しをしないため、売買契約に基づいて本件自動車の引渡しを請求することを考えている。この引渡請求権の消滅時効は、BがAに対して残代金に係る弁済の提供をした時から進行する。
ウ Bは、残代金を支払わないうちに被保佐人となったが、保佐人の同意を得ないで残代金の支払債務の承認をした。この場合には、AのBに対する残代金の支払請求権について、時効中断の効力は生じない。
エ Aは、約定の履行期に本件自動車を引き渡したが、Bが残代金の支払をしないため、Bに対し、残代金のうち60万円について、一部請求である旨を明示して、代金支払請求の訴えを提起した。この訴えの提起によっては、残代金のうち残部の40万円の支払請求権について、裁判上の催告としての時効中断の効力は生じない。
オ Aは、約定の履行期に本件自動車を引き渡したが、代金は50万円であって支払済みである旨主張し始めたBから、債務不存在確認の訴えを提起された。この訴訟において、AがBに対する残代金の支払請求権の存在を主張して請求棄却の判決を求めた場合には、この支払請求権について、時効中断の効力が生ずる。
- アウ
- アオ
- イウ
- イエ
- エオ
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この過去問の解説 (3件)
01
ア…正しいです。瑕疵担保責任による損害賠償請求権には、民法167条1項の消滅時効の規定が援用され、買主が引渡しを受けたときから10年間で権利が消滅します(最判平13・11・27)。
イ…誤りです。本問のBがAに有する引渡請求権は、AがBに有する残代金支払債権と同一の法律行為から発生しており、Bの引渡請求に対し、Aは同時履行の抗弁権を主張できます(533条)。したがって、債権者が自分の意思で除去できる法律上の障害が存在しているので、引渡請求権自体は約定の履行期から発生しますが、引渡請求権の消滅時効は、Bが残代金の支払いを終えるまで進行しません。
ウ…誤りです。(注.上述の民法改正により、問題の正誤の本質的な変更はありませんが、権利の承認によって、消滅時効の「中断」ではなく、消滅時効の「更新」の効力が生じることになります。以下、解説は改正民法によります)債務の承認により、相手方の残代金の支払請求権を認めたことになります。また、権利を承認するのに、相手方の権利についての処分につき、行為能力の制限を受けていないことまたは権限があることを要しません(152条2項)。したがって、相手方として被保佐人が権利を承認した場合でも、時効の更新の効力が生じ、新たに時効が進行します(同条1項、大判大7・10・9参照)。
エ…誤りです。(注.上述の民法改正により、問題の正誤の本質的な変更はありませんが、催告によって、消滅時効の「中断」ではなく、消滅時効の「完成猶予」の効力が生じることになります。以下、解説は改正民法によります)債権(残代金)の一部請求であることを明示して裁判上の請求を行った場合には、請求しなかった残部には、裁判上の請求としての時効の完成猶予の効果は生じないが、残部について将来も請求しない旨の意思表示が明らかにされているなどの事情がない限り、裁判上の催告としては時効の完成猶予の効果は生じるとされます(最判平25・6・6参照、中断されるとされて書かれている部分を読み替え)。なお、同判例で判決として出された内容のうち、「催告を行った場合には、そのときから6か月を経過するまでの間は、時効は完成しないが、2度目以降の催告には、時効の完成猶予は認められない」という部分は、民法152条で明文化されました。
オ…正しいです。(注.上述の民法改正により、問題の正誤の本質的な変更はありませんが、裁判上の請求によって、消滅時効の「中断」ではなく、消滅時効の「完成猶予」の効力が生じ、裁判の判決によって権利が確定したときは「更新」の効力が生じることになります。以下、解説は改正民法によります)裁判上の請求、すなわち訴えの提起や、反訴・応訴などによっても、時効の完成猶予の効力が生じます(147条1項)。
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02
正しい選択肢はアとオなので、2が正解です。
各選択肢の解説は、以下のとおりです。
ア. 判例は、瑕疵担保責任による損害賠償請求権の消滅時効については、買主が売買の目的物の引渡しを受けたときから進行すると解するのが相当である、としています(最高裁平成13年11月27日判決)。従って、本選択肢は正しいです。
イ. 民法166条1項は、消滅時効は権利を行使できる時から進行する、と規定していますが、権利を行使できる時とは、権利を行使するのに法律上の障害がなくなった時であり、同時履行の抗弁権がある場合には、法律上の障害はなくならないので、本選択肢は誤りです。
ウ. 民法156条は、時効の中断の効力を生ずべき承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない、と規定しています。従って、本選択肢は誤りです。
エ. 判例は、明示的一部請求の訴えが提起された場合、債権者が将来にわたって残部及び請求しない旨の意思を明らかにしているなど、残部について権利行使の意思表示が継続的に表示されているとは言えない特段の事情のない限り、当該訴えの提起は、残部について、裁判上の催告として、消滅時効の中断の効力を生じるというべきであり、債権者は、当該訴えに係る訴訟の終了後6カ月以内に民法153条の所定の措置を講じることにより、残部について消滅時効を確定的に中断することができると解するのが相当である、としています(最高裁平成25年6月6日判決)。従って、本選択肢は誤りです。
オ. 判例は、相手方の提起した消極的確認訴訟に対し、被告が請求棄却の判決を求める答弁書又は準備書面を裁判所に提出しなかった場合には、口頭弁論において同種の主張をした時をもって、中断の効力が生じる、としています(大審院昭和14年3月22日参照)。従って、本選択肢は正しいです。
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03
瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権消滅時効は目的物の引き渡し時から進行します。
イ誤
消滅時効は売買契約の2週間後から進行します。
ウ誤
被保佐人は保佐人の同意なしに債務の承認ができます。
エ誤
残代金のうち残部の40万円についても時効中断の効力が生じます。
オ正
訴訟の中で請求権の存在を主張すると時効の効力が生じます。
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