司法書士の過去問
平成30年度
午前の部 問13

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問題

平成30年度 司法書士試験 午前の部 問13 (訂正依頼・報告はこちら)

民法上の留置権に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

ア  留置権者は、留置物の所有者である債務者の承諾を得て留置物を第三者に賃貸した場合には、その賃料を被担保債権の弁済に充当することができる。

イ  留置権者が留置物の所有者である債務者の承諾を得ないで留置物に質権を設定した場合には、債務者は、留置権者に対し、留置権の消滅を請求することができる。

ウ  留置権者以外の者が留置物を占有している場合には、留置権者は、占有者に対し、留置権に基づき、目的物の占有を自己に移転するよう請求することができる。

エ  留置権者が留置物の所有者である債務者から留置物の返還請求を受け、訴訟において留置権の抗弁を主張した場合であっても、被担保債権についての消滅時効の中断の効果は生じない。

オ  留置権者が留置物について必要費を支出した場合において、これによる価格の増加が現存しないときは、所有者にその償還をさせることはできない。
  • アイ
  • アオ
  • イエ
  • ウエ
  • ウオ

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この過去問の解説 (3件)

01

正しい肢はアとイで【正解は1】です。

ア ○ 留置権者は、留置物から生ずる果実(法定果実も含む)を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができます(民法297条1項)。この場合は、留置権者は、債務者の承諾を得て、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができます(民法298条2項)。

イ ○ 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができません(民法298条2項)。留置権者がこれに違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができます(民法298条3項)。

ウ × 留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅します(民法302条)。

エ × 判例(最判昭38.10.30)は、「留置権の抗弁は、被担保債権の債務者が原告である訴訟において提出された場合には、当該債権について完成猶予(消滅時効中断)の効力があり、かつ、その効力はこの抗弁を撤回されていない限り、その訴訟継続中存続するものとする」としています。

オ × 留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができます(民法299条1項)。有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り償還させることができるとする2項の規定とは違います。

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02

正解:1

ア:正
民法298条1項は「留置権者は、留置物から生ずる果実を取得し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる」と規定しており、留置権者が果実から優先弁済を受けることを認めています。
よって、正しい記述です。

イ:正
民法298条2項本文は、「留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない」と規定しているので、留置権者が留置物に担保権を設定することは、原則として、できません。そして、同条3項は、これに違反した場合には「債務者は、留置権の消滅を請求することができる」と規定していますので、留置権者が留置物の所有者である債務者の承諾を得ないで留置物に質権を設定した場合には、298条2項の違反にあたり、債務者は、留置権者に対し、留置権の消滅を請求することができます。
よって、正しい記述です。

ウ:誤
「留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する」と規定されています(民法302条本文)。留置権は、占有を本質的要素とするからです。
もっとも、「第298条第2項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない」と定められていますので(302条ただし書)、この場合には留置権は消滅しません。しかし、この場合も、占有の移転の基礎となった約定に従って、目的物の占有の自己への移転を請求することになります。
占有が侵害された場合には、占有回収の訴え(民法200条1項)に基づいて、目的物の占有の自己への返還(移転)を請求することになります。
いずれにしても、留置権に基づいて、目的物の占有の移転を求めることができるわけではありません。
よって、誤った記述です。

・参考
民法298条2項「留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。」

エ:誤
民法300条は、「留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない」と定めています。しかし、判例は、「留置権に基づいて被担保債権の債務者に対して目的物の引渡を拒絶するに当り、被担保債権の存在を主張し、これが権利の主張をなす意思が明らかである場合」には、「留置権行使と別個なものとしての被担保債権行使ありとして民法147条1号の時効中断の事由がある」と認められるとしています(最大判昭和38年10月30日民集17巻9号1252頁)。この判例は、平成29年民法改正後のまたは催告(150条)による時効の完成猶予にも妥当します。
よって、誤った記述です。

オ:誤
民法299条1項「留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる」と定めており、有益費(299条2項)とは異なり、これによる価格の増加が現存することは償還の要件ではありません。
よって、誤った記述です。

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03

正解は1です。物の返還請求訴訟が提起され、それに対し留置権の抗弁が主張され理由があるとされたときは、裁判所は引換給付判決を行うものとされています(最判昭33・3・13)。

ア…正しいです。留置権者は留置物から生じる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができます(297条1項)。

イ…正しいです。留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物の使用や賃貸および担保に供することはできず、これに違反したときは、債務者は留置権の消滅を請求することができます(298条2項、3項)。質権も担保物権ですので、債務者の承諾が必要です。

ウ…誤りです。留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって消滅します(302条)。これは第三者に対する対抗要件ではなく、留置権自体の消滅となっていますので、本問の場合、占有を奪われたことによる占有回収の訴えを起こすべきであると考えられます。

エ…誤りです。留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げません(300条)。しかし、判例では、留置権の抗弁は、147条1号の「裁判上の請求」にあたり、訴訟継続中は時効中断の事由になるとしています(最判昭38・10・30)。300条では留置権の行使と被担保債権の行使を区別して考えるものであり、単に目的物を留置するという留置権の行使は、間接的に債務の弁済を促すだけで被担保債権の行使ではないが、留置権の抗弁においては被担保債権の存在が被告人によって主張されており、その存在が裁判所によって認められた場合には、裁判所は被担保債権の履行と目的物の引渡を命ずるものであるため、当該抗弁により、被担保債権の履行の権利主張がされていると考えられるためです。

オ…誤りです。留置権者が留置物について必要費を支出した場合は、所有者にその費用を償還させることができます(299条1項)。本文は有益費を支出した場合についての説明です(299条2項)。

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