司法書士の過去問
平成30年度
午前の部 問14
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問題
平成30年度 司法書士試験 午前の部 問14 (訂正依頼・報告はこちら)
AのBに対する金銭債権を担保するために、B所有の甲土地及びその上の乙建物に抵当権が設定され、その旨の登記をした後に、CがBから乙建物を賃借して使用収益していた場合に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア CがBの承諾を得て乙建物をDに適法に転貸した場合、Aは、Cが取得すべき転貸賃料債権について、物上代位権を行使することができる。
イ CがBの承諾を得て取り替えた乙建物の内外を遮断するガラス戸には、Aの抵当権の効力が及ばない。
ウ Cが抵当権設定当時から甲土地に設置されていた石灯籠を甲土地から不法に搬出しようとしている場合、Aは、Cに対し、搬出の禁止を求めることができる。
エ BのAに対する被担保債務につき債務不履行が生じた場合、その後にBがCから受領した乙建物の賃料は、Aに対する不当利得となる。
オ Aの抵当権が実行され、Dが競売により甲土地及び乙建物を買い受けた場合、買受けの時から6か月を経過するまでは、Cは乙建物をDに引き渡す必要がない。
ア CがBの承諾を得て乙建物をDに適法に転貸した場合、Aは、Cが取得すべき転貸賃料債権について、物上代位権を行使することができる。
イ CがBの承諾を得て取り替えた乙建物の内外を遮断するガラス戸には、Aの抵当権の効力が及ばない。
ウ Cが抵当権設定当時から甲土地に設置されていた石灯籠を甲土地から不法に搬出しようとしている場合、Aは、Cに対し、搬出の禁止を求めることができる。
エ BのAに対する被担保債務につき債務不履行が生じた場合、その後にBがCから受領した乙建物の賃料は、Aに対する不当利得となる。
オ Aの抵当権が実行され、Dが競売により甲土地及び乙建物を買い受けた場合、買受けの時から6か月を経過するまでは、Cは乙建物をDに引き渡す必要がない。
- アエ
- アオ
- イウ
- イエ
- ウオ
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この過去問の解説 (3件)
01
ア…誤りです。判例では、賃借人(転貸者)は、所有者のように抵当不動産をもって物的責任を担保できるものではなく、自己の転貸賃料債権をもって被担保債権の弁済に充当することもできないため、当該賃借人と所有者を同一視できる場合を除き、転貸賃料債権に物上代位性を行使することはできないとしています(最判平12・4・14)。
イ…誤りです。建物内外を遮断するガラス戸は、その建物において構造上不可欠であり、外すのが困難であることから、建物の付合物(242条)として抵当権の効力が及びます(370条)。なお、付合の時期は問題になりません。
ウ…正しいです。石灯籠は土地の従物(87条)になります。従物については、抵当権設定時に存在していた場合、抵当権の効力が及ぶとされています(先例)。したがって、土地の抵当権者であるAは自らの抵当権を主張できます。
エ…誤りです。抵当権の効力は、原則として目的不動産から生じた果実には及びません。しかし、被担保債権につき債務不履行が生じた場合、その後に生じた果実にも抵当権の効力が及びます(371条)。これについて、抵当権の目的物に対して抵当権を行使する必要はなく、果実である賃料のみに対して抵当権を行使することができます。判例は、①抵当権が物を占有させたまま使用収益を許す権利であり、先取特権とこの点で同様であること、②目的物の使用貸借で得た利益に抵当権を行使しても、抵当権の目的物の使用を妨げないこと、を理由に、抵当権は、賃借人の供託した賃料の還付請求権に対して行使することができるとしました(最判平元・10・27)。したがって本問においてAは、賃料を不当利得としてではなく、弁済の一部としてAに還付させるように請求できます。
オ…正しいです。建物に設定された抵当権の効力は、建物の所有権の従たる権利である賃借権にも及びます(最判昭40・5・4)。したがってCは抵当権者Aに対抗できませんが、競売手続きの開始前から乙建物の使用をしている者であるため、競売による買受けがされてから6カ月が経過するまでは、乙建物を買受人Dに引き渡すことを要しません(395条1項1号)。
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02
ア × 判例(最判平12.4.14)では、「抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、賃借人が取得すべき転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない」とされています。
イ × 抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及びます(民法370条)。判例(大判昭5.12.18)は、「雨戸や扉など建物の内外を遮断する建具類は建物の一部を構成するものであり、付加一帯物に該当する」としています。
ウ ○ 判例(最判昭44.3.28)は、「抵当権設定当時に存在していた石灯籠は抵当権の目的である宅地の従物であり、抵当権の効力が及ぶ」としています。さらに判例(大判昭6.10.21)では、「抵当権の及んでいるものが不法に搬出されようとしている場合、抵当権者は搬出禁止を請求できる」とされています。
エ × 抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及びます(民法371条)。この果実について、担保不動産収益執行または物上代位をすることができます。しかし、設定者は、これらの措置が取られる前であれば果実(賃料)を受領することができ不当利得とはなりません。
オ ○ 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって、競売手続の開始前から使用又は収益をする者は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しません(民法395条1項1号)。
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03
ア:誤
判例は、「抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得すべき転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない」としています。すなわち、原則として、転賃料債権についての物上代位を否定し、例外的に「所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合には、その賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することを許すべきものである」(最判平成12年4月14日民集54巻4号1552頁)としています。
設例では、転賃料債権について物上代位を認めるべき事情はありません。
したがって、Aは、CがDに対して取得する転賃料債権について物上代位権を行使することはできません。
よって、誤った記述です。
イ:誤
370条本文「抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ」と定めています。判例は、建物の内外を遮断する建具類は建物の一部を構成し、建物と一体となるとしています(大判昭和5年12月18日民集9巻1147頁)
よって、誤った記述です。
ウ:正
判例は、宅地に設置された石灯籠は(根)抵当権の目的たる宅地の従物であり、宅地の(根)抵当権の効力は、従物にも及び、(根)抵当権は宅地に対する(根)抵当権設定登記をもって、抵当権の効力から除外する等特段の事情のないかぎり、民法370条により従物たる石灯籠についても対抗力を有するとしています。そして、(根)抵当権により、この石灯籠を独立の動産として抵当権の効力外に逸出するのを防止するため、その譲渡または引渡を妨げる権利を有するから、これに対する強制執行の排除することができる、すなわち搬出の禁止を求めることができるとしています。
設例では、石灯籠は抵当権設定当時から甲土地に設置されていたのですから、抵当権の効力・対抗力は、石灯籠にも及び、これを不法に搬出しようとしているCに対してAは、搬出の禁止を求めることができます。
よって、正しい記述です。
エ:誤
債務者は被担保債務の債務不履行が生じた後にも、抵当権の目的となっている不動産の使用・収益権限を失うわけではないため、賃料を受領することができます。
これに対して、民法371条は「抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ」と規定していますが、この規定は法定果実である賃料債権についても抵当権の効力が及ぶということを定めるのみで、債務者への賃料の帰属を失わせるものではありません。抵当権者が賃料債権を取得するためには、物上代位や担保不動産収益執行の手続きをとることが必要なのです。
したがって、BがCにから賃料を受領しても、Aに対する不当利得とはなりません。
よって、誤った記述です。
オ:正
賃貸借は、対抗要件を備えたとしても、その対抗要件具備が抵当権設定登記に後れる場合には、抵当権者および買受人に対抗することができません。
もっとも、民法395条1項「抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない」と定め、同項1号「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」をあげています。Cはこれにあたります。
よって、正しい記述です。
なお、これは、6か月間、賃借権が存続することを認めるわけではないことにも注意してください。
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