司法書士の過去問
平成30年度
午前の部 問15
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問題
平成30年度 司法書士試験 午前の部 問15 (訂正依頼・報告はこちら)
Aは、Bに対する貸金債権(元金のほか、利息及び遅延損害金を含む。)を担保するために、Bから、構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保として、甲倉庫内にある全ての鋼材についての帰属清算型の譲渡担保権の設定を受け、占有改定の方法によりその引渡しを受けた。この事例に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア Bは、Aに対する譲渡担保権の設定に先立ち、Cに対して、甲倉庫内にある全ての鋼材を目的とする譲渡担保権を設定し、占有改定の方法による引渡しをしていたが、その事実をAに伝えていなかった。この場合において、BがAに対する貸金債務の弁済期を徒過したときは、Aは、譲渡担保権を実行することができる。
イ Bは、Aに対する譲渡担保権設定後、通常の営業の一環として、Cに対して、甲倉庫内にある鋼材の一部を売却し、Cの管理する乙倉庫に搬入した。この場合において、Bが貸金債務の弁済期を徒過していたときであっても、Aは、乙倉庫に搬入された鋼材について譲渡担保権を実行することができない。
ウ 甲倉庫内にある全ての鋼材は、BがCから買い受けたものであるが、Bはその代金をCに支払っていなかった。この場合において、Cが動産売買の先取特権に基づいて、甲倉庫内にある鋼材の競売の申立てをしたときは、Aは、譲渡担保権を主張して、当該競売手続の不許を求めることができない。
エ Aが譲渡担保権を実行しようとした際には、5年分の遅延損害金が発生していた。この場合において、Aの譲渡担保権によって担保される遅延損害金の範囲は、最後の2年分に限られない。
オ Bが貸金債務の弁済期を徒過した後、Aは、Cに対して、甲倉庫内にある全ての鋼材を売却した。この場合において、AがBに対して清算金支払債務を負うときは、Bは、Aが清算金支払債務を履行するまでの間に、Aに対する貸金債務の弁済をすれば、Cに対して、鋼材の所有権を主張することができる。
ア Bは、Aに対する譲渡担保権の設定に先立ち、Cに対して、甲倉庫内にある全ての鋼材を目的とする譲渡担保権を設定し、占有改定の方法による引渡しをしていたが、その事実をAに伝えていなかった。この場合において、BがAに対する貸金債務の弁済期を徒過したときは、Aは、譲渡担保権を実行することができる。
イ Bは、Aに対する譲渡担保権設定後、通常の営業の一環として、Cに対して、甲倉庫内にある鋼材の一部を売却し、Cの管理する乙倉庫に搬入した。この場合において、Bが貸金債務の弁済期を徒過していたときであっても、Aは、乙倉庫に搬入された鋼材について譲渡担保権を実行することができない。
ウ 甲倉庫内にある全ての鋼材は、BがCから買い受けたものであるが、Bはその代金をCに支払っていなかった。この場合において、Cが動産売買の先取特権に基づいて、甲倉庫内にある鋼材の競売の申立てをしたときは、Aは、譲渡担保権を主張して、当該競売手続の不許を求めることができない。
エ Aが譲渡担保権を実行しようとした際には、5年分の遅延損害金が発生していた。この場合において、Aの譲渡担保権によって担保される遅延損害金の範囲は、最後の2年分に限られない。
オ Bが貸金債務の弁済期を徒過した後、Aは、Cに対して、甲倉庫内にある全ての鋼材を売却した。この場合において、AがBに対して清算金支払債務を負うときは、Bは、Aが清算金支払債務を履行するまでの間に、Aに対する貸金債務の弁済をすれば、Cに対して、鋼材の所有権を主張することができる。
- アエ
- アオ
- イウ
- イエ
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この過去問の解説 (3件)
01
ア × 判例(最判平18.7.20)は、「動産譲渡担保が同一の目的物に重複して設定されている場合、後順位譲渡担保権者は私的実行(譲渡担保を実行)をすることはできない」としています。
イ ○ 判例(最判平18.7.20)は、「集合動産譲渡担保の設定者が、目的動産につき、通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合には、処分された動産が当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められない限り、処分の相手方は目的物の所有権を取得することはできない」としています。
ウ × 判例(最判昭62.11.10)は、「構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権者は、特段の事情がない限り、第三者異議の訴えによって、動産売買先取特権者が当該集合物の構成部分となった動産についてした競売の不許を求めることができる」としました。
エ ○ 判例(最判昭61.7.15)は、「譲渡担保権によって担保されるべき債権の範囲については、強行法規または公序良俗に反しない限り、その設定契約の当事者間において自由にこれを定めることができ、第三者に対する関係においても、制約を受けない」としています。よって、最後の2年分に限られません。
オ × 判例(最判平6.2.22)は、「譲渡担保権者が、譲渡担保の目的物を被担保債権の弁済期後に第三者に譲渡した場合、設定者は目的物を受け戻すことはできない」としています。弁済期後は、譲渡担保権者は処分権限を取得し、有効に処分することができ、処分した場合、譲受人は確定的に所有権を取得します。
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02
ア…誤りです。後から譲渡担保権を取得した者の譲渡担保権も有効です。しかし、後順位の譲渡担保権者に実行する権利を認めるとすると、先行する順位の譲渡担保権者が優先的に権利を行使する機会が与えられなくなることから、後順位の譲渡担保権者が、譲渡担保権を実行することは認められません(最判平18・7・20)。
イ…正しいです。譲渡担保権設定者には、通常の営業の範囲内であれば譲渡担保の目的である動産を処分する権限が付与されており、権限内で処分された動産を取得した相手方は、譲渡担保の拘束のない確定的な所有権を取得すると解されています(最判平18・7・20)。なお、通常の営業の範囲外の売却をBが行った場合は、所有権的構成と担保権的構成のいずれの立場においても、本問のCが即時取得の要件を満たしていればCが所有権を取得することができます。
ウ…誤りです。動産売買先取特権と、集合動産譲渡担保に対する譲渡担保権とではどちらが優先されるかについて、判例は、先取特権者がその動産につき競売の申立てをしたときは、譲渡担保権者は、民法333条の引渡しを受けた第三取得者として、その動産について集合動産譲渡担保権を主張することができるとしました(最判昭62・11・10)。
エ…正しいです。譲渡担保権によって担保されるべき債権の範囲については、強行法規または公序良俗に反しない限り、その設定契約の当事者間において自由にこれを定めることができると解されています(最判昭61・7・15)。同判例では、譲渡担保権者が抵当権の被担保債権を代位弁済した場合、375条2項における抵当権者の損害賠償請求権への制限は適用されず、譲渡担保権設定時に遅延損害金に関する定めがないので、譲渡担保権者には求償権がないとしました。したがって契約時の定め方により、遅延損害金を含めることも除外することもできます。
オ…誤りです。Bが受戻権を行使できるのは、債権者が譲渡担保権の実行を完了するまでの間とされています。帰属清算型では、清算金がある場合、①譲渡担保権者から譲渡担保権設定者に清算金の支払もしくはその提供がなされるか、もしくは、②目的物が第三者に売却されるまでです(最判昭62・2・12、最判平6・2・22)。本問では第三者Cに目的物が売却済みなので、Bは受戻権を行使することができません。
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03
ア:誤
まず、Cが譲渡担保権を取得していますので、Aは後順位の譲渡担保権を取得します。判例は、Aのような場合は占有改定による引渡しを受けたにとどまりますので、即時取得により完全な譲渡担保を取得したということもできないとしています。
そして、Cに劣後する譲渡担保権を有するにすぎないAによる「独自の私的実行の権限を認めた場合,配当の手続が整備されている民事執行法上の執行手続が行われる場合と異なり、先行する譲渡担保権者には優先権を行使する機会が与えられず、その譲渡担保は有名無実のものとなりかねない。このような結果を招来する後順位譲渡担保権者による私的実行を認めることはできないというべきである」としています(最判平成18年7月20日民集60巻6号2499頁)。
したがって、Aによる担保権実行は認められません。
よって、誤った記述です。
イ:正
判例は、「構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては、集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているのであるから、譲渡担保権設定者には、その通常の営業の範囲内で、譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており、この権限内でされた処分の相手方は、当該動産について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができる」としています(最判平成18年7月20日民集60巻6号2499頁)。
設例では、Bによる鋼材の売却は、通常の営業の一環としてなされていますので、処分する権限内でなされており、処分の相手方Cは鋼材を確定的に取得することができます。
よって、正しい記述です。
ウ:誤
Cは、動産売買の先取特権を有します(民法321条)。
しかし、民法333条は「先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない」と定めています。この引渡しには、占有改定が含まれます。
そして、判例は、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となった場合には、この動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法333条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、動産競売の不許を求めることができるとしています。
したがって、譲渡担保権者であるAは、譲渡担保権を主張して、競売手続の不許を求めることができます。
よって、誤った記述です。
エ:正
譲渡担保権の優先弁済権の範囲については、抵当権についての375条の類推適用はされませんので、遅延損害金の範囲は限定されず、全額について優先権が認められます。
この点が争点となった事案ではありませんが、最判昭和61年7月15日判時1209号23頁もこのことが認められることを示唆しています。
よって、正しい記述です。
オ:誤
譲渡担保権設定者は、一定の時期までは被担保債権を弁済して、目的物の所有権を受け戻すことができます。しかし、清算金支払義務がある場合であっても、譲渡担保権者によって処分がされた時点で、譲渡担保権設定者は受戻権を失います(不動産が譲渡担保の目的となったものであるが、最判平成6年2月22日民集48巻2号414頁を参照)。
設例では、Aによる目的物である鋼材の処分がされていますので、Bは受戻権を失っており、被担保債権である貸金債務を弁済しても、Cに対して、鋼材の所有権を主張することはできません。
よって、誤った記述です。
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