司法書士の過去問
平成30年度
午前の部 問18
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問題
平成30年度 司法書士試験 午前の部 問18 (訂正依頼・報告はこちら)
契約の解除に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 債務の履行の催告と同時に、催告期間内に履行しないことを条件とする解除の意思表示をしても、この意思表示は無効である。
イ 当事者が契約をした主たる目的の達成に必須的でない付随的義務の履行を怠った場合であっても、相手方は、その履行を催告したのに相当期間内に履行がされないときは、契約の解除をすることができる。
ウ 売買の目的である土地について第三者が登記をした賃借権を有していたときは、買主は、当該土地の引渡しを受けた時から1年以内に限り、売買契約の解除をすることができる。
エ 買主が数人いる中古車の売買につき、引き渡された中古車に瑕疵があるために買主に解除権が発生した場合において、買主の一人の過失によって売買の目的である中古車を売主に返還することができなくなったときは、他の買主についても、解除権は消滅する。
オ 第三者の所有する土地を目的とする売買契約であることを契約時に知っていた買主Aは、売主Bから当該土地の引渡しを受けたものの、その後、当該土地の所有権の移転を受けることができなかった。この場合において、売買契約を解除したAは、Bに対し、当該土地の使用利益を返還すべき義務を負う。
ア 債務の履行の催告と同時に、催告期間内に履行しないことを条件とする解除の意思表示をしても、この意思表示は無効である。
イ 当事者が契約をした主たる目的の達成に必須的でない付随的義務の履行を怠った場合であっても、相手方は、その履行を催告したのに相当期間内に履行がされないときは、契約の解除をすることができる。
ウ 売買の目的である土地について第三者が登記をした賃借権を有していたときは、買主は、当該土地の引渡しを受けた時から1年以内に限り、売買契約の解除をすることができる。
エ 買主が数人いる中古車の売買につき、引き渡された中古車に瑕疵があるために買主に解除権が発生した場合において、買主の一人の過失によって売買の目的である中古車を売主に返還することができなくなったときは、他の買主についても、解除権は消滅する。
オ 第三者の所有する土地を目的とする売買契約であることを契約時に知っていた買主Aは、売主Bから当該土地の引渡しを受けたものの、その後、当該土地の所有権の移転を受けることができなかった。この場合において、売買契約を解除したAは、Bに対し、当該土地の使用利益を返還すべき義務を負う。
- アウ
- アオ
- イウ
- イエ
- エオ
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この過去問の解説 (3件)
01
ア × 判例(大判明43.12.9)は、「相当の期間内に履行がないことを条件として催告とともになした解除の意思表示も有効である」としています。
イ × 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができます。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りではありません(改正民法541条)。
ウ × 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができます。(民法566条1項)。そして、契約の解除は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければなりません(民法566条3項)。引き渡しを受けた時からではなく、第三者に賃借権があると知った時から計算します。
エ ○ 解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅します(民法548条1項)。この場合、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅します(民法544条2項)。
オ ○ 判例(最判昭51.2.13)は、「解除によって売買契約が遡及的に効力を失う結果として、契約当事者間に当該契約に基づく給付がなかったと同一の財産状態を回復させるためには、買主が引き渡しを受けた目的物を解除までに使用したことによる利益を、売主に対して返還させる必要があり、売主が目的物につき使用権限を取得し得ず、売主から返還された使用収益を正当な権利者からの請求により保有することができない立場にあったとしても当該結論を左右するものではない」としています。
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02
ア:誤
解除の意思表示に条件を付すと、債務者を不安定な地位におくことになるため、許されないとも考えられます。しかし、催告期間内に履行をしないことを停止条件とする解除の意思表示はこのようなおそれがないため、判例でも認められています(大判明治43年12月9日民録16輯910頁)。
よって、誤った記述です。
イ:誤
判例は、「法律が債務の不履行による契約の解除を認める趣意は、契約の要素をなす債務の履行がないために、該契約をなした目的を達することができない場合を救済するためであり、当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須でない附随的義務の履行を怠ったに過ぎないような場合には、特段の事情の存しない限り、相手方は当該契約を解除することができないものと解するのが相当である」として、契約の主たる目的の達成に必須でない附随的義務の履行を怠ったに過ぎない場合には、原則として解除をすることができないとしています(最判昭和36年11月21日民集15巻10号2507頁)。
また、平成29年改正後の民法541条ただし書は、相当の期間を「経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは」解除が認められないとしています。
よって、誤った記述です。
ウ:誤
売買の目的である土地について第三者が登記をした賃借権を有する場合、当該土地の買主は、賃借権の対抗を受けることから所有権に制限を受けます。これは、「売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合」にあたりますので、売買契約の解除をすることができます(565条、564条、541条・542条)。
また、民法566条は、契約不適合に関する請求の期間制限を規定していますが、これは、「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合」に適用されるものですので、「売主が買主に移転した権利が契約に適合しないものである場合」には適用されません。なお、この規定が適用される場合でも1年間の期間制限の起算点は「買主がその不適合を知った時」です。
よって、誤った記述です。
なお、平成29年民法改正により大きく規定ぶりが変わっていますが、出題当時の問題文を改正された後の規定によって検討したものです(この肢については改正前後で正誤は変わりません)。
エ:正
契約の「当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又は全員に対してのみ、することができる」のであり、この場合に、「前項の場合において、解除権が当事者のうち一人について消滅したときは、他の者についても消滅する」と定められています(同条2項)。そして、解除権の消滅について、民法548条、「解除権を有する者が」「過失によって契約の目的物」を「返還することができなくなったとき」は「解除権は消滅する」と定めています。したがって、特定物に数人の買主がある場合に、解除権が発生したとしても、買主の一人の過失により目的物の返還をすることができなくなれば、その者の解除権が消滅し(民法548条)、さらに他の者の解除権も消滅します(544条2項)。
本件においては、買主が数人いる中古車の売買につき、引き渡された中古車に瑕疵があるために買主に解除権が発生した場合であるので、解除権の行使は買主の全員からのみすることができます。しかし、買主の一人の過失によって売買の目的である中古車を売主に返還することができなくなれば、その者について548条に基づいて解除権が消滅しますので、さらに数人の当事者の一人について解除権が消滅していますので、544条2項に基づいて他の買主についても、解除権は消滅します。
よって、正しい記述です。
オ:正
売主は、「他人の権利(権利の一部が他人に属する場合における権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う」(民法561条)ため、この義務が履行されない場合には、買主は売買契約を解除することができます(541条、542条)。
そして、解除をした場合には、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければなりません(545条3項)。
この返還義務については、平成29年改正前民法561条に基づく解除(現行規定とは解除の根拠規定が異なります)がされた場合について、判例は、「他人の権利の売買契約において、売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず、民法561条の規定により該契約が解除された場合についても同様」に負うとされていました(最判昭和51年2月13日民集30巻1号1頁)。
設例のような事案は、平成29年改正民法のもとでは、債務不履行の一般原則によることとなるため、現在もこの判例の趣旨は妥当します。
よって、正しい記述です。
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03
ア…誤りです。解除の意思表示に条件や期限をつけることは原則としてできません。条件を付けることにより相手方の地位を不安定にするおそれがあるためであり、期限は解除の遡及効により無意味になるためです。ただし、本問のように期間を指定して債務の履行を促し、履行がされない場合に契約を解除するという主旨のものは、相手方の地位を不安定にするものではないので許されます。
イ…誤りです。契約をした主たる目的を達成するのに必要な債務を要素たる債務、そうでないものを付随的債務(付随的義務)といいます。541条の規定は、要素たる債務の不履行により、目的を達成することができない状態を救済するためのものであって、付随的義務の履行を怠ったにすぎない場合には、解除を申し立てることはできないとされています(最判昭36・11・21)。
ウ…誤りです。本問の登記をした第三者は、対抗できる賃借権を有していますので、売主に催告をしても土地を使用する権利を買主に移転できません。買主は契約によって(賃借権による制限のない)所有権を取得したつもりでいたと考えられますので、債務の一部が履行不能であること、または契約をした目的を達することができないことなどを理由に、直ちに契約の解除ができると考えられます(565条、564条、542条)。
エ…正しいです。解除権には不可分性があり、解除権が当事者の一人について消滅したときは、他の当事者についても解除権は消滅します(544条2項)。また、解除権者が目的物を返還不能にした場合、故意または過失を問わず、解除権は消滅しますので(548条1項)、本問の買主らは解除権が全員消滅します。
オ…正しいです。解除があった場合、当事者には原状回復義務が発生します(545条1項)。この場合、現物だけでなく、給付された物から生じた果実・使用利益も返還する必要があります(最判昭34・9・22)。
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