司法書士の過去問
平成30年度
午前の部 問30
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問題
平成30年度 司法書士試験 午前の部 問30 (訂正依頼・報告はこちら)
次の対話は、株式会社と取締役との間の取引に関する教授と学生との対話である。教授の質問に対する次のアからオまでの学生の解答のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
教授:取締役会設置会社が取締役から負担のない贈与を受けることについては、当該取締役会設置会社と取締役との間の取引として取締役会の承認が必要ですか。
学生:ア 取締役会の承認は必要ありません。
教授:それでは、特別取締役による議決の定めがある場合には、取締役会設置会社が取締役から利息付きで多額の借財をすることについては、特別取締役による議決のみをもって行うことができますか。
学生:イ その場合には、多額の借財についての取締役会の決定及び当該取締役会設置会社と取締役との間の取引についての取締役会の承認のいずれについても、特別取締役による議決をもって行うことができます。
教授:次に、監査等委員会設置会社以外の取締役会設置会社が取締役に対して金銭を貸し付けた場合において、自己のために貸付けを受けた取締役が約定に違反して弁済をせず、当該取締役会設置会社に損害が生じたときは、当該取締役の会社法上の責任については、どのような規律がありますか。
学生:ウ 当該貸付けにつき取締役会の承認を受けたか否かにかかわらず、当該取締役は、その任務を怠ったものと推定され、当該取締役の会社法第423条第1項の責任は、任務を怠ったことが当該取締役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができないこととされています。
教授:仮に、自己のために取締役会設置会社から貸付けを受けた取締役が当該貸付けにつき会社法第423条第1項の責任を負う場合において、株主による当該責任の免除については、どのような規律がありますか。なお、当該取締役会設置会社には、最終完全親会社等がないものとします。
学生:エ 当該責任については、株主総会の決議又は総株主の同意によっても免除することができないこととされています。
教授:最後に、指名委員会等設置会社以外の取締役会設置会社が取締役に対して金銭を貸し付けた後にとらなければならない手続については、どのような規律がありますか。
学生:オ 当該貸付けにつき取締役会の承認を受けたか否かにかかわらず、当該取締役会設置会社を代表した取締役及び当該貸付けを受けた取締役は、その取引後、遅滞なく、その取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません。
教授:取締役会設置会社が取締役から負担のない贈与を受けることについては、当該取締役会設置会社と取締役との間の取引として取締役会の承認が必要ですか。
学生:ア 取締役会の承認は必要ありません。
教授:それでは、特別取締役による議決の定めがある場合には、取締役会設置会社が取締役から利息付きで多額の借財をすることについては、特別取締役による議決のみをもって行うことができますか。
学生:イ その場合には、多額の借財についての取締役会の決定及び当該取締役会設置会社と取締役との間の取引についての取締役会の承認のいずれについても、特別取締役による議決をもって行うことができます。
教授:次に、監査等委員会設置会社以外の取締役会設置会社が取締役に対して金銭を貸し付けた場合において、自己のために貸付けを受けた取締役が約定に違反して弁済をせず、当該取締役会設置会社に損害が生じたときは、当該取締役の会社法上の責任については、どのような規律がありますか。
学生:ウ 当該貸付けにつき取締役会の承認を受けたか否かにかかわらず、当該取締役は、その任務を怠ったものと推定され、当該取締役の会社法第423条第1項の責任は、任務を怠ったことが当該取締役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができないこととされています。
教授:仮に、自己のために取締役会設置会社から貸付けを受けた取締役が当該貸付けにつき会社法第423条第1項の責任を負う場合において、株主による当該責任の免除については、どのような規律がありますか。なお、当該取締役会設置会社には、最終完全親会社等がないものとします。
学生:エ 当該責任については、株主総会の決議又は総株主の同意によっても免除することができないこととされています。
教授:最後に、指名委員会等設置会社以外の取締役会設置会社が取締役に対して金銭を貸し付けた後にとらなければならない手続については、どのような規律がありますか。
学生:オ 当該貸付けにつき取締役会の承認を受けたか否かにかかわらず、当該取締役会設置会社を代表した取締役及び当該貸付けを受けた取締役は、その取引後、遅滞なく、その取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません。
- アウ
- アオ
- イウ
- イエ
- エオ
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この過去問の解説 (3件)
01
ア ○ 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするときは、取締役設置会社においては取締役会の承認が必要となります(会社法356条1項2号、365条1項)。しかし、抽象的にみて会社に損害が生じ得ない取引については、利益相反行為の規制にはかからないと解されています。よって、会社が取締役から負担のない贈与を受けることについては、取締役会の承認を得る必要はありません(判例大判昭13.9.28)。
イ × 特別取締役による議決の定めがある株式会社においては、重要な財産の処分及び譲受け並びに多額の借財についての決定を特別取締役による取締役会の決議で行うことができます(会社法373条1項、2項、362条4項1号、2号)。しかし、取締役会と株式会社との利益相反行為取引(会社が取締役から利息付きで多額の借財をすること)について必要とされる取締役会の承認(会社法356条1項2号、365条1項)については、特別取締役による取締役会の決定事項とはされていません(会社法373条1項)。
ウ ○ 「取締役は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」とされています(会社法423条1項)。さらに、「自己のために株式会社と取引を行った取締役は、任務を怠ったことが自己の責めに帰すことができない事由によるものであることをもって、その責任を免れることはできない」とされています(会社法428条1項)。
エ × 取締役の株式会社に対する損害賠償責任は、総株主の同意がなければ、免除することができません(会社法424条)。つまり、総株主の同意があれば、責任を免除することができます。また、最終完全親会社等がない場合、当該株主総会の特別決議によってその責任の一部を免除することができます(会社法425条1項)。
オ ○ 取締役設置会社において、利益相反取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(会社法365条2項)。会社が取締役に金銭を貸し付けることは利益相反取引に当たります。
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02
ア:正
取締役会設置会社においては、取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするときは、取締役会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません。本肢のように、取締役から会社に対してなされる負担のない贈与については、会社の利益が害されるおそれがないので、取締役会の承認を要しません(大判昭13.9.28)。
イ:誤
特別取締役による取締役会による決議事項は、重要な財産の処分及び譲受け、及び多額の借財に限定されています(会362Ⅳ①②、373Ⅰ)。本肢のように、取締役会設置会社が取締役から利息付きで多額の借財をすることは利益相反取引にあたり、取締役会の承認が必要となりますが、この承認に関しては、特別取締役による議決をもって行うことができません。
ウ:正
利益相反取引が行われて株式会社に損害が生じた場合、株式会社の承認の有無にかかわらず、利益相反取引を行った取締役は、その任務を怠ったものと推定され、その結果、当該取締役は株式会社に対して損害賠償責任を負うことになります(会365Ⅰ、356Ⅰ②、423Ⅲ、423Ⅰ)。そして、自己のために株式会社と利益相反取引をした取締役の株式会社に対する損害賠償責任は、任務を怠ったことが当該取締役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができません(会428Ⅰ)。
エ:誤
自己のために株式会社と利益相反取引をした取締役の任務懈怠責任は無過失責任であり(会428Ⅰ)、当該責任については、株主総会の決議によって免除することができません(会428Ⅱ)。しかし、総株主の同意があれば、当該責任を免除することができます(会424)。
オ:正
取締役設置会社においては、株式会社と利益相反取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(会365Ⅱ)。この報告義務を負う取締役には、取引につき会社側を代表した取締役も含みます。したがって、取締役会の承認を受けたか否かにかかわらず、当該取締役会設置会社を代表した取締役及び当該貸付けを受けた取締役は、その取引後、遅滞なく、その取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません。
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03
ア 正しい
取締役会の承認を要する取引は、会社法356条1項2号の趣旨から会社の利益を害するおそれがある行為に限られています。
本肢のように、取締役会設置会社が取締役から負担のない贈与を受けても、会社の利益を害するおそれがないため取締役会の承認は不要です。
イ 誤り
特別取締役による取締役会では、①重要な財産の処分・譲受け、②多額の借財について決議を行うことができます(会社法373条1項)。
本肢において、当該取締役会設置会社と取締役との間の取引についての取締役会の承認について、特別取締役による議決をもって行うことはできません。
ウ 正しい
利益相反取引を行い会社に損害が生じたときは、取締役は会社に対して損害賠償責任を負います(会社法423条1項)。
この場合、損害の発生により取締役の任務懈怠が推定され(同条3項)、自己のために直接取引をした取締役は過失がなかった場合でも損害賠償責任を負うことになります(同法428条1項)。
エ 誤り
自己のために利益相反取引の直接取引をした取締役の責任は、その利益相反性の高さから無過失責任とされており(会社法428条1項)、株主総会による責任の一部免除も認められていません(同条2項)。
もっとも、総株主の同意がある場合は、会社法423条1項の取締役の会社に対する責任を免除することができます(同法424条)。
オ 正しい
取締役会設定会社の場合、取締役会による取締役の業務執行の監督の規定(会社法362条2項2号)との関係から、取引を行った取締役は、取引の後、遅滞なく取引についての重要な事実を取締役会に報告する義務を負います(同365条2項)。
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