司法書士の過去問
平成31年度
午前の部 問9
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問題
平成31年度 司法書士試験 午前の部 問9 (訂正依頼・報告はこちら)
占有権の効力に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、どれか。
ア Aは、A所有の甲パソコンを占有しているBに対し、所有権に基づき甲パソコンの返還を請求した。この場合において、Aは、Bに占有権原がないことを主張・立証しなければならない。
イ A所有の甲時計が盗まれ、その事実について善意無過失のBが、公の市場において甲時計を買い受けた。この場合において、Bは、Aから甲時計の回復を求められたとしても、代価の弁償の提供があるまで、甲時計を無償で使用する権限を有する。
ウ Aは、B所有の甲建物を自己の所有物であると信じて占有し、その修繕や管理を行うとともに、第三者に賃貸して賃料を収受していた。この場合において、Aは、Bに甲建物を返還する際、修繕・管理のために支出した通常の必要費をBから償還させることはできない。
エ Aは、Bが所有者Cに無断でBの画廊に展示していた甲絵画を、Bの所有物であると過失なく信じて購人した。この場合において、Bが以後Aのために甲絵画を保管する意思を表示したときは、Aは甲絵画を即時取得する。
オ Aは、Bが所有者Cに無断で占有していた甲自動車を、Bの所有物であると過失なく信じて購入し、現実の引渡しを受けた。この場合において、甲自動車が道路迎送車両法による登録を受けた自動車であるときは、Aは甲自動車を即時取得しない。
ア Aは、A所有の甲パソコンを占有しているBに対し、所有権に基づき甲パソコンの返還を請求した。この場合において、Aは、Bに占有権原がないことを主張・立証しなければならない。
イ A所有の甲時計が盗まれ、その事実について善意無過失のBが、公の市場において甲時計を買い受けた。この場合において、Bは、Aから甲時計の回復を求められたとしても、代価の弁償の提供があるまで、甲時計を無償で使用する権限を有する。
ウ Aは、B所有の甲建物を自己の所有物であると信じて占有し、その修繕や管理を行うとともに、第三者に賃貸して賃料を収受していた。この場合において、Aは、Bに甲建物を返還する際、修繕・管理のために支出した通常の必要費をBから償還させることはできない。
エ Aは、Bが所有者Cに無断でBの画廊に展示していた甲絵画を、Bの所有物であると過失なく信じて購人した。この場合において、Bが以後Aのために甲絵画を保管する意思を表示したときは、Aは甲絵画を即時取得する。
オ Aは、Bが所有者Cに無断で占有していた甲自動車を、Bの所有物であると過失なく信じて購入し、現実の引渡しを受けた。この場合において、甲自動車が道路迎送車両法による登録を受けた自動車であるときは、Aは甲自動車を即時取得しない。
- アイ
- アエ
- イオ
- ウエ
- ウオ
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この過去問の解説 (3件)
01
ア:誤
民法第188条の「権利の適法の推定」は、権利の存在・帰属についてなされるものであって、適法な物権変動に基づく占有であることは推定されないので、占有する権原については、占有者がその権原の主張立証責任を負います。
したがって、Bが、占有権原があることを主張立証しなければなりません。
イ:正
即時取得が成立する場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができます(民193)。しかし、占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができないものとして即時取得者の取引の安全を図っています(民194)。判例は、盗品又は遺失物(以下、盗品等)の被害者又は遺失者が盗品等の占有者に対してその物の回復を求めたのに対し、占有者が民法第194条に基づき支払った代価の弁償があるまで盗品等の引渡しを拒むことができる場合には、占有者は、弁償の提供があるまで盗品等の使用収益を行う権限を有すると解するのが相当である(最判平12.6.27)としています。
ウ:正
占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができますが、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担となります(民196Ⅰ)。
本肢について、Aは甲建物を第三者に賃貸し、賃料(法定果実)を収受しているので、修繕・管理のために支出した通常の必要費をBから償還させることはできません。
エ:誤
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得します(即時取得 民192)。判例は、無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法192条によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更が生じるような占有を取得することを要し、一般外観上変更を来たさない占有改定の方法による取得では足らない(最判昭35.2.11)としています。
よって、Aは甲絵画を即時取得することはできません。
オ:正
道路運送車両法による登録を受けている自動車については、登録が所有権の得喪の公示方法とされているので民法192条の適用はありません(最判昭62.4.24)。
よって、Aは甲自動車を即時取得しません。
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02
ア…誤りです。本問の動産甲の所有者Aは、占有者Bに対し、所有権に基づく返還請求権としての動産引渡請求権を行使できます。この場合、①Aに所有権があること、②Bが現に占有していること(占有権は現に占有している者にのみ認められるため)、が請求原因となりますので、これらを主張すればよいと考えられます。②は自明ですので、Aは自己の所有権について立証できればよく、Bの占有権原の有無は必ずしも問題になりません。Bが、甲の所有権(所有権喪失の抗弁など)や甲の占有権(賃貸借契約などに基づく占有権原の抗弁など)を主張して抗弁を行った場合は、Bの占有権原がB自身によって主張・立証されることになります。
イ…正しいです。占有者(本問のB)が盗品または遺失物を、競売または公の市場において善意で買い受けたときは、被害者(本問のA)または遺失者は、占有者が支払った対価を弁償しなければ、その物を回復することができません(194条)。占有者の権利を保護するためです。
ウ…正しいです。占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができますが、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担になります(196条1項)。
エ…誤りです。動産については、公信の原則がとられています。動産を譲り受けたAに過失がなく、現実の引渡しも行われている以上、占有者Bが無権利でも、Bは占有物を適法に有するものと推定されたので、取引は有効です(188条)。したがって本問のAは、条文に定められている即時取得の要件は満たしていますが(192条)、占有改定により占有を開始しており、判例では占有改定による即時取得は認められていません(最判昭35・2・11)。これは外観上明らかでない占有者が即時取得できるとすると、取引行為の安全性を損なうためです。なお、指図による占有移転や、簡易の引渡しは認められています。
オ…正しいです。動産の種類によって、現実の引渡しだけでは動産の譲渡が有効にならないいくつかの例外があります。例として①立木法による登記がされている立木、②道路送迎車両法による車両登録のされている自動車(最判昭62・4・24)、などがあります。これらは動産ではありますが、それぞれの法律に従った登記や登録がなければ、所有権の取得を第三者に対抗できません(178条の例外)。よって即時取得も当然に不可能です。
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03
ア:誤
所有権に基づく動産の返還請求訴訟において、請求者は、①自己に当該物の所有権があること、②相手方に占有があることを主張立証しなければなりません(これらが請求原因となります)。
これに対して、相手方から自己の占有が正当な事由に基づくものであることを主張立証することになります(抗弁です)。
よって、誤った記述です。
イ:正
民法194条は、「占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない」と定めています。物の占有者がこの規定により返還を拒絶することができる場合について、判例は、占有者は、「弁償の提供があるまで盗品等の使用収益を行う権限を有する」としています。盗品等の被害者等が盗品等の回復をあきらめるか否かで占有者の使用利益の有無が決まるのでは、占有者の地位が不安定となってしまい、また弁償される代価に利息が含まれないこととの均衡上占有者の使用収益を認めることが公平に適うからです(最判平成12年6月27日民集54巻5号1737頁)
Bは、盗まれたA所有の甲時計を、盗まれた事実について善意無過失で、公の市場において甲時計を買い受けていますので、Aから甲時計の回復を求められたとしても、民法194条に基づいて返還を拒絶することができます。そして、Bは、代価の弁償の提供があるまで、甲時計を無償で使用する権限を有します。
よって、正しい記述です。
ウ:正
民法189条1項は、「善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する」と規定しており、この果実には法定果実も含まれます。法定果実とは、「物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物」(同法88条2項)をいいますので、B所有の甲建物を自己の所有物であると信じて占有していたAは、善意の占有者として、法定果実にあたる甲建物の賃貸による賃料を正当に取得することができます。
他方で、民法196条本文は「占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる」と定めていますので、Aは、Bに対して甲建物に投下した修繕・管理のために支出した通常の必要費を償還させることができるようにも思われます。しかし、同条ただし書は「占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する」と定めており、上述のようにAは甲建物から生じた果実である賃料を取得していますので、通常の必要費はAの負担となり、Bから償還させることはできません。
よって、正しい記述です。
エ:誤
民法192条は、「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する」と定めていますが、Aの占有取得は、もともと甲絵画を占有していたBが以後Aのために甲絵画を占有するという占有改定によるものです(183条)のです。そこで、占有改定によって占有を取得したにとどまる場合でも即時取得が認められるかが問題となります。
判例は、無権利者から動産を購入し、占有改定により占有を取得したという事案において、「無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法192条によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさないいわゆる占有改定の方法による取得をもつては足らないものといわなければならない」として、占有改定による占有取得のみでは即時取得は認められないとしています。
したがって、占有改定によって占有を取得したにとどまるAに即時取得は認められません。
よって、誤った記述です。
オ:正
判例は、「道路運送車両法による登録を受けている自動車については、登録が所有権の得喪
並びに抵当権の得喪及び変更の公示方法とされているのであるから」「民法192条の適用はない」(最判昭和62年4月24日判時1243号24頁)としています。
甲自動車が道路迎送車両法による登録を受けた自動車である以上、Aが善意無過失でBから購入し、現実の引渡しを受けたとしても、Aが甲自動車を即時取得することはありません。
よって、正しい記述です。
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