司法書士の過去問
平成31年度
午前の部 問20

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問題

平成31年度 司法書士試験 午前の部 問20 (訂正依頼・報告はこちら)

実親子関係に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものは、どれか。
  • 嫡出否認の訴えは、子に親権を行う母がないときは、検察官を被告として提起しなければならない。
  • 母と嫡出でない子との間の実親子関係は、母が認知をしなければ、生じない。
  • 妻が、夫の死亡後に、冷凍保存されていた当該夫の精子を用いた人工生殖によって、子を懐胎し出産した場合には当該夫と当該子との間に実親子関係は生じない。
  • ある女性が、別の女性の卵子を用いた生殖補助医療によって、子を懐胎し出産した場合には当該卵子を提供した女性と当該子との間に実親子関係が生ずる。
  • 妻が婚姻中に懐胎して婚姻中に子を出産した場合であっても、夫と当該子との間に生物学上の父子関係が認められないことがD NA型鑑定により明らかであるときは、当該子について嫡出の推定は及ばない。

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この過去問の解説 (3件)

01

正解:3

1:誤
嫡出推定がある場合(民法772条)、夫は子が嫡出であることを否認することができ(774条)ができます。この否認権は、「子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行い」、「親権を行う母がいないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない」とされています(775条)。すなわち、検察官は被告とはなりません。
よって、誤った記述です。

2:誤
判例は、母子関係は、母の認知によらずとも、分娩の事実によって当然に発生するとしています。(最判昭和37年4月27日民集16巻7号1247頁)
よって、誤った記述です。

3:正
判例は、「血縁上の親子関係を基礎に置いて、嫡出子については出生により当然に、非嫡出子については認知を要件として,その親との間に法律上の親子関係を形成するものとし、この関係にある親子について民法に定める親子,親族等の法律関係を認めるものである」とする民法の「法制は、少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは明らかである」。そして、「死後懐胎子と死亡した父との関係は、上記法制が定める法律上の親子関係における基本的な法律関係が生ずる余地のないものである」としています(最判平成18年9月4日民集60巻7号2563頁)。
したがって、現行法制上は、妻が、夫の死亡後に、冷凍保存されていた当該夫の精子を用いた人工生殖によって、子を懐胎し出産した場合に、その子と死亡した父との間に実親子関係は生じません。
よって、正しい記述です。

4:誤
判例は、「実親子関係が公益及び子の福祉に深くかかわるものであり、一義的に明確な基準によって一律に決せられるべきであることにかんがみると、現行民法の解釈としては、出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず、その子を懐胎、出産していない女性との間には、その女性が卵子を提供した場合であっても、母子関係の成立を認めることはできない」としています(最決平成19年3月23日民集61巻2号619頁)。
よって、誤った記述です。

5:誤
判例は、「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、夫と妻が既に離婚して別居し、子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって、同条[引用者注:民法772条]による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできない」としています(最判平成26年7月17日民集68巻6号547頁)。
よって、誤った記述です。

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02

正解は3です。近年、様々な技術の発達により、従来の定義と異なる親子関係が発生し得るようになりました。しかし判例は、訴え(父を定める訴え(773条)、嫡出否認の訴え(775条)、親子関係不存在の訴えなど)があった場合に、DNA鑑定についてのみ、裁判上の証拠能力を認めているものの、その他の技術(生殖補助医療など)から派生する親子関係については認めていません。法令が想定していない親子関係であることが主な理由です。つまり、子は原則として婚姻中の男女を父母として生まれ、母親が出産したときから、その子と(出産した)母とは当然に母子関係となります。

1.…誤りです。嫡出否認の訴えを起こそうとしている相手方に、親権を行う母がないときは、家庭裁判所が選任した特別代理人に対して起こします(775条)。なお、嫡出否認の訴えは、子本人に対しても起こすことができます(同条)。

2.…誤りです。嫡出でない子(婚姻していない男女関係の間に生まれた子:非嫡出子)が、①母となる女性から生まれた場合、母の認知を待たず、分娩の事実によって当然に親子関係が発生します(最判昭37・4・27)。②母となる女性から生まれたのでない場合(捨て子など)、母の認知によって実子となることができます(779条)。実際は①が大多数です。よって母の認知はすべての場合で必要とは言えません。

3.…正しいです。判例は、夫の死後に冷凍保存した精子を用いて妊娠・出産された子につき、夫を父とする認知の訴えを起こした裁判について、現行の法律は自然生殖のみを想定しており、生まれた子について、親権、扶養、相続など法律的な利益を認めることができず、請求に理由がないとされました(最判平18・9・4)。なお、裁判官の補足意見として、親子関係を認めることで得られる利益が少ないこと、生まれてくる子の福祉を第一に考えた法の整備が待たれることなどが記されています。

4.…誤りです。生殖補助医療による代理出産が行われた場合、卵子を提供した遺伝子学上の母親と、実際に出産した母親と、どちらが法律上の母親として認められるかについて、判例は、母親が誰であるかの基準は一義的に明確なものでなければならず、一律に決定されるべきであるとして、出産した女性を法律上の母と認める判決を出しました(最判平19・3・23)。現行の定義と異なる解釈を裁判官の一存だけで認めるべきではないという考えです。

5.…誤りです。妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定されます(772条1項、2項)。「推定される」なので、外観上、明らかに夫が不在である(出征・失踪・長期間の別居など)と判明している場合は、父子関係を否定された判例もあり(最判平10・8・31)、最高裁はこの外観説をとっています。本問に関しても、遺伝子学上の父子関係が否定されても、子の身分関係の法的安定を保持する必要があるとして、772条における父性の推定が働かなくなるとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係の存否を争うことはできない(=DNA鑑定の証拠能力を否定するわけではなく、外観上夫の子と推定される状態で生まれた以上、夫が嫡出否認の訴えを起こさない限り、夫婦の婚姻中に懐胎した子の父は夫である)としています(最判平26・7・17)。なお本判例では、夫は自分と子に血縁上の親子関係がないことを知りながら、嫡出否認の訴えの出訴期間中(777条)に訴えを起こさず、自分の子として出生届を出しており、嫡出否認の訴えの出訴期間を過ぎて父性の推定を覆される可能性も否定したものといえます。

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03

正解:3

1:誤
嫡出否認の訴えの相手方は、子又は親権を行う母ですが、親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければなりません(民775)。

2:誤
母と嫡出でない子との関係については、原則として、母の認知をまたず、分娩の事実により当然発生する(最判昭37.4.27)ので、認知を要しません。

3:正
保存された男性の精子を用いて当該男性の死亡後に行われた人工生殖により女性が懐胎し出産した子と当該男性との間における法律上の親子関係の形成の可否について、判例は、死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の形成は認めることはできない(最判平18.9.4)としています。

4:誤
判例は、現行民法の解釈としては、出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず、その懐胎、出産していない女性との間には、その女性が卵子を提供した場合であっても、母子関係の成立を認めることはできない(最決平19.3.23)としています。

5:誤
判例は、夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、子が、現時点において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって、民法第772条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である(最判平26.7.17)としています。

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