司法書士の過去問
平成31年度
午後の部 問52
このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。
問題
平成31年度 司法書士試験 午後の部 問52 (訂正依頼・報告はこちら)
次の対話は、地目が畑であり、かつ、登記記録に次のような記録(抜粋)がある甲土地に関する司法書士同士の対話である。司法書士Xの質間に対する次のアからオまでの司法書士Yの解答のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、どれか。
司法書士X:Dは、昭和50年1月1日、所有の意思をもって、平穏かつ公然に甲土地の占有を開始し、以後、全ての関係当事者との関係において当該占有を継続してきました。Dは、平成31年2月1日、Bに対して、甲土地の取得時効の援用をしましたが、Bが所有権の移転の登記手続に協力しません。そこで、Dは、Bを被告として、時効取得を登記原因とする所有権の移転の登記手続を請求する訴訟を提起する予定です。
また、甲土地の乙区1番の抵当権(以下「Cの抵当権」という。)の登記名義人Cは、平成9年12月31日に死亡しており、Eが、Cの唯一の相続人です。
甲土地の登記記録及び以上の事実関係を前提として、仮に、当該所有権の移転の登記手続の請求を認容する判決を得たDが、当該判決に基づき所有権の移転の登記を申請するときの登記原因の日付は、いつになりますか。
司法書士y:ア 昭和50年1月1日です。
司法書士x:農地法所定の許可を受けないで、当該判決に基づく所有権の移転の登記を申請したときは、登記手続上、どのような取扱いになりますか。
司法書士y:イ 農地法所定の許可がないことのみをもって当該申請が却下されるわけではないですが、登記官は、その登記の申請がされた旨を、関係農業委員会に通知します。
司法書士x:当該判決に基づく所有権の移転の登記を申請するに当たって、Cの抵当権は、登記手続上、どのような取扱いになりますか。
司法書士y:ウ 当該判決に基づき所有権の移転の登記を申請するときに、EがCの相続人であることを証する情報及びCの抵当権の抹消についてEの承諾を証する情報を提供すれば、Cの抵当権の設定の登記は、登記官の職権で抹消されます。
司法書士X:Eの協力を期待することはできないものの、Cの抵当権の被担保債権の債務者はA、その弁済期は昭和42年12月25日であり、当該被担保債権については、弁済その他消滅時効の中断事由がありません。そうすると、先の判決に基づき甲土地の所有権の登記名義人となったDは、Eに対して、当該被担保債権につき消滅時効の援用を行い、その後、当該被担保債権が当該援用によって消滅したことを理由に、Eを被告として、Cの抵当権の設定の登記の抹消の登記手続を請求する訴訟を提起することもできそうです。
甲土地の登記記録及び以上の事実関係を前提として、仮に、甲土地の所有権の登記名義人となったDが、当該抹消の登記手続の請求を認容する判決を得たとして、その判決に基づきCの抵当権の設定の登記の抹消を申請する場合の登記原因は、一般的にはどうなりますか。
司法書士y:エ 当該抹消の登記手続の請求を認容する判決の主文又は理由中に登記原因が明記されているときはそれによりますが、当該判決の主文及び理由中に登記原因が何ら明示されていないときは、判決が登記原因となります。
司法書士x:本件の場合、Cの死亡の事実は、登記手続上、どのような取扱いになりますか。
司法書士y:オ Cの抵当権の設定の登記の抹消の登記原因がどうであれ、当該登記の抹消を申請する前提として、相続を登記原因とするCの抵当権の移転の登記を申請しなければなりません。
司法書士X:Dは、昭和50年1月1日、所有の意思をもって、平穏かつ公然に甲土地の占有を開始し、以後、全ての関係当事者との関係において当該占有を継続してきました。Dは、平成31年2月1日、Bに対して、甲土地の取得時効の援用をしましたが、Bが所有権の移転の登記手続に協力しません。そこで、Dは、Bを被告として、時効取得を登記原因とする所有権の移転の登記手続を請求する訴訟を提起する予定です。
また、甲土地の乙区1番の抵当権(以下「Cの抵当権」という。)の登記名義人Cは、平成9年12月31日に死亡しており、Eが、Cの唯一の相続人です。
甲土地の登記記録及び以上の事実関係を前提として、仮に、当該所有権の移転の登記手続の請求を認容する判決を得たDが、当該判決に基づき所有権の移転の登記を申請するときの登記原因の日付は、いつになりますか。
司法書士y:ア 昭和50年1月1日です。
司法書士x:農地法所定の許可を受けないで、当該判決に基づく所有権の移転の登記を申請したときは、登記手続上、どのような取扱いになりますか。
司法書士y:イ 農地法所定の許可がないことのみをもって当該申請が却下されるわけではないですが、登記官は、その登記の申請がされた旨を、関係農業委員会に通知します。
司法書士x:当該判決に基づく所有権の移転の登記を申請するに当たって、Cの抵当権は、登記手続上、どのような取扱いになりますか。
司法書士y:ウ 当該判決に基づき所有権の移転の登記を申請するときに、EがCの相続人であることを証する情報及びCの抵当権の抹消についてEの承諾を証する情報を提供すれば、Cの抵当権の設定の登記は、登記官の職権で抹消されます。
司法書士X:Eの協力を期待することはできないものの、Cの抵当権の被担保債権の債務者はA、その弁済期は昭和42年12月25日であり、当該被担保債権については、弁済その他消滅時効の中断事由がありません。そうすると、先の判決に基づき甲土地の所有権の登記名義人となったDは、Eに対して、当該被担保債権につき消滅時効の援用を行い、その後、当該被担保債権が当該援用によって消滅したことを理由に、Eを被告として、Cの抵当権の設定の登記の抹消の登記手続を請求する訴訟を提起することもできそうです。
甲土地の登記記録及び以上の事実関係を前提として、仮に、甲土地の所有権の登記名義人となったDが、当該抹消の登記手続の請求を認容する判決を得たとして、その判決に基づきCの抵当権の設定の登記の抹消を申請する場合の登記原因は、一般的にはどうなりますか。
司法書士y:エ 当該抹消の登記手続の請求を認容する判決の主文又は理由中に登記原因が明記されているときはそれによりますが、当該判決の主文及び理由中に登記原因が何ら明示されていないときは、判決が登記原因となります。
司法書士x:本件の場合、Cの死亡の事実は、登記手続上、どのような取扱いになりますか。
司法書士y:オ Cの抵当権の設定の登記の抹消の登記原因がどうであれ、当該登記の抹消を申請する前提として、相続を登記原因とするCの抵当権の移転の登記を申請しなければなりません。
- アイ
- アウ
- イエ
- ウオ
- エオ
正解!素晴らしいです
残念...
この過去問の解説 (3件)
01
<解説>
ア:誤りです。
取得時効を登記原因とする所有権移転登記の登記原因の日付は、時効の効力がその起算日に遡るため(民法144条)、時効の起算日です。
取得時効は、善意無過失であれば10年間、善意無過失でなければ20年間の時効期間の経過により、所有権を取得することができます(民法162条)。
Dが占有を開始したのは昭和50年1月1日ですから、Dの占有開始から遅くても20年を経過した平成7年1月1日に時効期間は満了しています。
しかし、その後、Dが取得時効の援用をする前の平成10年12月1日にBは所有権の移転の登記を受けています。
時効により不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対し、その善意であると否とを問わず、所有権の取得を対抗することができませんが(最判昭33・8・28)、第三者の右登記後に占有者がなお引続き取得時効に要する期間占有を継続した場合には、その第三者に対し、登記を経由しなくとも時効取得をもって対抗しうるものとして、2度目の取得時効を認めています(最判昭36・7・20)。
これより、本問の時効の起算日は、2度目の取得時効の起算日、すなわちBが所有権移転登記を受けた平成10年12月1日であり、この日が本肢の登記原因の日付であると考えられます。
したがって、本肢は、誤りです。
イ:正しいです。
農地の時効取得を登記原因とする所有権移転登記の申請をするときには、農地法所定の許可が不要ですが、これを悪用して農地法所定の許可を受けなければならない場合であるのもかかわらず、当事者双方の申請により登記原因を時効取得としてその許可を得ることなく農地について所有権移転登記が申請されることもあるため、登記官は登記簿上の地目が田又は畑である土地について、時効取得を登記原因とする権利移転又は設定の登記申請がなされた旨の通知を関係農業委員会に対してします。
なお、関係農業委員会あての通知は、電話連絡の方法によることも差し支えなく、また、司法書士が代理申請人である場合には、同人から事情聴取の上、必要があるときは注意を喚起することになっています。
(昭52・8・22民三4239号)
したがって、本肢は正しいです。
ウ:誤りです。
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅します(民法397条)。
このような場合、抵当権の登記は、登記官が職権で抹消するのではなく、申請により抹消しなければなりません。
したがって、本肢は誤りです。
エ:正しいです。
本肢において、甲土地の所有権の登記名義人となったDが、当該抹消の登記手続の請求を認容する判決を得たとして、その判決に基づきCの抵当権の設定の登記の抹消を申請する場合の登記原因は、判決主文又は理由中に権利の変動原因について記載があればそれを登記原因としますが、判決主文又は理由中にそれが記載されていなければ、その登記原因は「判決」となります(昭29・5・8民甲938号)。
したがって、本肢は正しいです。
オ:誤りです。
本問は、Cの抵当権が時効消滅したことにより、Dは抵当権の抹消登記手続を命ずる判決を得て、その判決に基づき申請するとしています。
Cの抵当権の時効消滅による抵当権の抹消登記の登記原因の日付は、時効の起算点となる弁済期である昭和42年12月25日です。
抵当権者であるCは平成9年12月31日に死亡しており、この抵当権はCが死亡する前に消滅しているので、Eが相続し移転されることはありません。
これにより、抵当権の登記の抹消を申請する前提として、相続を登記原因とするCの抵当権の移転の登記を申請する必要はありません。
したがって、本肢は誤りです。
以上により、正しいものは肢イ・エです。
参考になった数12
この解説の修正を提案する
02
正解はイとエです。
ア 誤り
最判昭33・8・28や最判昭36・7・20等の判例では、取得時効完成後に登記を備えない間に第三者が登記を得た場合、その第三者に対して対抗するには、再度その第三者の登記時を起算点として新たな取得時効期間の経過が必要となります。
この「2度目の取得時効」の完成により再び所有権を取得した場合、その登記原因日付は2度目の取得時効の起算日(第三者が登記を備えた日)となります。
時効の起算日は、2度目の取得時効の起算日、すなわちBが所有権移転登記を受けた平成10年12月1日であり、この日が本肢の登記原因の日付であると考えられます。
よって誤りです。
イ 正しい
判例によれば、農地を時効取得した場合、農地法所定の許可を受ける必要はありません(昭和38年5月6日民甲1285号)。
本肢の場合、農地法所定の許可を受けている必要はないものの、登記官は、その登記の申請がされた旨を、関係農業委員会に通知することになります。
ウ 誤り
Cの抵当権は、Dが所有権の登記を受ける前から登記されているため、Cの相続人であるEは相続した抵当権をDに対抗することができます(民法177条)。
また、本肢のように、抵当権の設定の登記が登記官の職権で抹消されるといった規定はありません。
エ 正しい
判決に基づく登記申請の登記原因は、当該判決の主文に登記原因の記載があればそれにより、主文に登記原因の記載がない場合は、判決の理由中の記載によることとされています。判決の理由中にも記載がない場合は、判決が登記原因となります。
オ 誤り
Cの抵当権設定登記の抹消を申請する前提として、相続によるEへの抵当権移転登記を申請する必要があるかどうかは、Cの抵当権が消滅した日とCが死亡した日のどちらが早かったかによります。すなわち、Cが死亡する前にCの抵当権が消滅していた場合は、抵当権の移転登記は不要であるのに対し、Cが死亡した後に抵当権が消滅したのであれば、Cの抵当権設定登記の抹消を申請する前提として、Dへの抵当権の移転登記を申請する必要があります。
よって、Cの抵当権の設定の登記の抹消の登記原因がどうであれ、当該登記の抹消を申請する前提として、相続を登記原因とするCの抵当権の移転の登記を申請する必要があるとする本肢は誤りです。
以上から、正解はイとエです。
参考になった数7
この解説の修正を提案する
03
抵当権の抹消原因について整理しておくことが必要です。
ア…誤りです。最判昭33・8・28や最判昭36・7・20等の判例では、取得時効完成後に登記を備えない間に第三者が登記を得た場合、その第三者に対して対抗するには、再度その第三者の登記時を起算点として新たな取得時効期間の経過が必要となります。
この「2度目の取得時効」の完成により再び所有権を取得した場合、その登記原因日付は2度目の取得時効の起算日(第三者が登記を備えた日)となります。
時効の起算日は、2度目の取得時効の起算日、すなわちBが所有権移転登記を受けた平成10年12月1日であり、この日が本肢の登記原因の日付であると考えられます。
イ…正しいです。農地を時効取得する場合には、所有権移転の申請につき、農地法所定の許可を受けたことを証する書面の添付を必要としません(先例)。
ウ…誤りです。第三者(本問のD)が目的不動産を時効取得した場合、当該不動産の抵当権の抹消原因とはなりますが(397条)、抵当権の抹消の申請にも、時効取得者と抵当権の登記名義人との共同申請が必要とされます(60条)。添付書類により当然に抹消されるわけではありません。
エ…正しいです。判決による登記申請手続の場合、判決の主文又は理由中に示された原因を登記原因としますが、登記原因が明示されていないときは、「年月日判決」として登記申請ができ、日付を判決が確定した日とします(先例)。
オ…誤りです。抵当権の抹消登記を行う前に抵当権者が死亡した場合、相続登記が必要かどうかは、抵当権の消滅と相続のどちらが先に発生したかによります(先例)。相続の発生前に抵当権が消滅していれば、抵当権者の相続の登記は不要です。本問の場合、登記原因が①第三者による目的不動産の時効取得のとき、時効取得の日付はCの死亡前になりますので、相続による抵当権の移転登記を行う必要はありません。②(第三者による)消滅時効の援用のとき、消滅時効による抵当権の抹消請求ができるのは、権利を行使することのできる時から二十年経過した時です(166条2項)。この場合、抵当権が消滅したとみなされるのは、消滅時効の完成時点ですが、それより後に抵当権者が死亡しているので、相続の登記はいりません。また、③判決の中に理由がないときは、判決確定日が死亡による相続発生より後になるので、抵当権の相続登記が必要になります。
参考になった数5
この解説の修正を提案する
前の問題(問51)へ
平成31年度問題一覧
次の問題(問53)へ