司法書士の過去問
平成31年度
午後の部 問53

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問題

平成31年度 司法書士試験 午後の部 問53 (訂正依頼・報告はこちら)

賃借権及び地役権の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、 (   )に「賃借権」又は「地役権」のいずれかの用語を入れた場合に、「賃借権」を入れると誤りとなるが、「地役権」を入れると正しくなるものの組合せは、どれか。なお、同一の記述の (   )内には同じ用語を入れるものとし、判決による登記及び代位による登記については、考慮しないものとする。

ア  ー筆の土地の全部について (   )の設定の登記を申請するときに、 (   )設定の目的として「水道管の埋設」を申請情報の内容とすることはできない。

イ  ー筆の土地の全部について (   )の設定の登記がされている場合において、 (   )者の住所が移転したときは、当該設定の登記について (   )の登記名義人の住所の変更の登記を申請することができる。

ウ  ー筆の土地の全部について (   )の設定の登記がされている場合には、 (   )の譲渡を承諾したことを証する情報を提供しても、当該設定の登記がされた (   )を目的とする質権の設定の登記を申請することはできない。

エ  ー筆の土地の全部について (   )の設定の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行としての処分禁止の登記及び保全仮登記がされているときは当該保全仮登記に係る仮処分の債権者は、当該保全仮登記に基づく本登記の申請と同時に、当該処分禁止の登記に後れる(   )の設定の登記の抹消を単独で申請することができない。

オ  登記権利者と登記義務者が共同して (   )の設定の登記の抹消を申請するときは、登記義務者の登記識別情報を提供することを要しない。
  • アウ
  • アオ
  • イエ
  • イオ
  • ウエ

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この過去問の解説 (3件)

01

正解は5です。土地に関する賃借権は地上権と比較して考えます。

ア…賃借権については正しいですが、地役権については誤りです。賃借権の設定の登記の目的は、建物の所有を目的とする場合にのみ登記事項となります(不動産登記法81条6号)。その他の目的では登記できません。一方、地役権の目的に法律による制限はありません。よって地役権の目的として水道管の埋設を設定することができます(先例)。

イ…賃借権については正しいですが、地役権については誤りです。賃借権については、賃借権者の住所が記載されますので(不動産登記法81条、59条4号)、変更の登記を申請することができます。一方、地役権者(承役地)の登記記録には、地役権者の氏名または名称および住所は登記されません(不動産登記法80条2項)。

ウ…賃借権については誤りですが、地役権については正しいです。質権は、譲り渡すことができないものをその目的とすることができません(民法343条)。賃借権に関しては、譲渡を許す特約が設定できます(不動産登記法81条3号、不動産登記令別表)ので、質権の目的となりえます。一方、地役権は、要役地から切り離して譲り渡したり、他の権利の目的とすることができませんので(民法231条2項)、地役権を移転する登記もできません(先例)。よって質権の目的にはなりえません。

エ…賃借権については誤りですが、地役権については正しいです。本問のように、所有権以外の権利に関して処分禁止の登記(仮処分の登記)および保全仮登記が本登記される際には、本登記の申請をした人間が、仮処分の登記に遅れる登記の抹消を申請することができますが、それは保全仮登記より後順位で、かつ当該不動産の使用・収益にかかる登記のみです。賃借権は不動産の使用および収益を伴いますので、抹消を申請できますが、地役権は不動産の使用・収益に係る権利ではないので、抹消を申請できません。

オ…賃借権・地役権のいずれも誤りです。登記権利者と登記義務者が共同申請する場合、登記義務者の登記識別情報が必要です(不動産登記法22条)。賃借権の抹消をする場合、登記権利者を所有権登記名義人、登記義務者を賃借権者とする共同申請が原則です(不動産登記法60条)。地役権の抹消をする場合は登記権利者を地役権設定者、登記義務者を地役権者とする共同申請の上で、要役地の所有権取得の登記の登記識別情報が必要です(不動産登記法60条、22条)。

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02

正解:5

<解説>

ア:「賃借権」を入れると正しくなりますが、「地役権」を入れると誤りとなります。

賃借権においては、「土地の賃借権設定の目的が建物の所有であるときは、その旨」が登記事項となっています(不動産登記法81条⑹)。

よって、賃借権設定の目的として「水道管の埋設」を申請情報の内容とすることはできません。

一方、地役権においては、「地役権設定の目的及び範囲」が登記事項となっており、地役権設定の目的として「水道管の埋設」を申請情報の内容とすることができます(不動産登記法80条①⑵、昭59、10、15民三5157号)。

したがって、本肢は、「賃借権」を入れると正しくなりますが、「地役権」を入れると誤りとなります。

イ:「賃借権」を入れると正しくなりますが、「地役権」を入れると誤りとなります。

登記名義人の住所が移転したときは、登記名義人の住所の変更の登記を申請することができますが、地役権においては、地役権者の氏名又は名称及び住所を登記することを要しませんので、変更の登記を申請する必要もありません(不動産登記法80条②)。

したがって、本肢は、「賃借権」を入れると正しくなりますが、「地役権」を入れると誤りとなります。

ウ:「賃借権」を入れると誤りとなりますが、「地役権」を入れると正しくなります。

譲り渡すことができない物を質権の目的とすることはできませんが(民法343条)、譲渡することができる旨の特約がある賃借権はこの賃借権を目的とする質権の設定の登記を申請することができます。

これにより、本肢は「賃借権」を入れると誤りとなります。

一方、地役権は、要役地から分離して譲り渡し、又は他の権利の目的とすることができません(民法281条②)。

これにより、本肢は「地役権」を入れると正しくなります。

したがって、本肢は、「賃借権」を入れると誤りとなりますが、「地役権」を入れると正しくなります。

エ:「賃借権」を入れると誤りとなりますが、「地役権」を入れると正しくなります。

不動産の使用又は収益をする権利について保全仮登記がされた後、当該保全仮登記に係る仮処分の債権者が本登記を申請する場合においては、当該債権者は、所有権以外の不動産の使用若しくは収益をする権利又は当該権利を目的とする権利に関する登記であって当該保全仮登記とともにした処分禁止の登記に後れるものの抹消を単独で申請することができます(不動産登記法113条)。

これにより、単独で申請することができないとする本肢は「賃借権」を入れると誤りとなります。

一方、 地役権は不動産登記法113条の「所有権以外の不動産の使用若しくは収益をする権利又は当該権利を目的とする権利」からは除外され、保全仮登記の本登記の申請と同時に、処分禁止の登記に後れる地役権の設定の登記の抹消を申請することはできません。

これにより、単独で申請することができないとする本肢は「地役権」を入れると正しくなります。

したがって、本肢は、「賃借権」を入れると誤りとなりますが、「地役権」を入れると正しくなります。

オ:「賃借権」、「地役権」のどちらを入れても誤りです。

登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合その他登記名義人が政令で定める登記の申請をする場合には、申請人は、その申請情報と併せて登記義務者の登記識別情報を提供しなければなりません(不動産登記法22条)。

なお、賃借権の抹消登記については、賃借権の設定登記時の登記識別情報を提供しますが、地役権の抹消登記については、地役権の設定登記時には、要役地の所有者は登記事項ではないために通知識別情報が通知されないので、要役地の所有権取得時の登記識別情報を提出します(不動産登記法80条②参照)。

したがって、本肢は「賃借権」、「地役権」のどちらを入れても誤りです。

以上により、「賃借権」を入れると誤りとなり、「地役権」を入れると正しくなるものは肢ウ・エであり、正解は5となります。

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03


正解 5

ア 誤り
賃借権の設定登記において、設定の目的を申請情報の内容とすることが可能なのは、設定の目的が建物の所有である場合に限られます。
他方で、地役権の設定登記を申請するときに、その目的として「水道管の埋設」を申請情報の内容とすることは可能です。

イ 誤り
地役権の設定登記には、登記名義人は登記されないため(不動産登記法80条2項)、地役権者の住所が移転したときであっても、住所の変更の登記を申請することはできません。
他方で、賃借権の設定登記には、登記名義人が登記されるため(同81条、同59条4号)、賃借権者の住所が移転したときは、住所の変更の登記を申請することができます。

ウ 正しい
地役権は、他の権利の目的とすることができないため(民法281条2項)、質権の目的とすることはできません。
他方で、賃借権は、賃貸人の承諾があれば、これを譲渡することができるため(同612条1項)、譲渡できるものに限り目的とすることができる質権の目的とすることができます。
よって、賃借権の設定登記がされた賃借権を目的とする質権の設定の登記をすることができます。

エ 正しい
不動産の使用または収益をする権利について保全仮登記がされた後、当該保全仮登記に係る仮処分の債権者が本登記を申請する場合においては、当該債権者は、所有権以外の不動産の使用もしくは収益をする権利または当該権利を目的とする権利に関する登記であって当該保全仮登記とともにした処分禁止の登記に後れるものの抹消を単独で申請することができます(不動産登記法113条)。
よって、不動産を使用する権利である賃借権設定の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分としての処分禁止の登記及び保全仮登記がされているときは、仮処分債権者は、当該保全仮登記に基づく本登記の申請と同時に、単独で後順位の賃借権設定登記の抹消を申請することができます。
他方で、地役権設定の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の登記及び保全仮登記がされている場合は、仮処分債権者は、当該保全仮登記に基づく本登記の申請と同時に、単独で後順位の地役権設定登記の抹消を申請することはできません。

オ 誤り
登記権利者と登記義務者が共同して設定登記の抹消を申請するときは、抹消される権利が賃借権であると地役権であるとを問わず、登記義務者の登記識別情報を提供しなければなりません。

以上から、正しい肢はウとエであり、5が正解となります。

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