司法書士の過去問
令和2年度
午前の部 問15
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問題
令和2年度 司法書士試験 午前の部 問15 (訂正依頼・報告はこちら)
債務者が設定した譲渡担保権に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、どれか。
ア 不動産に帰属清算型の譲渡担保権を設定した債務者が弁済期に債務の弁済をせず、譲渡担保権者が債務者に対して目的不動産を確定的に自己の所有に帰属させる旨の意思表示をした場合において、清算金が生じないときは、債務者は、その意思表示の時に目的不動産の所有権を確定的に失う。
イ 不動産に処分清算型の譲渡担保権を設定した債務者が弁済期に債務の弁済をせず、その後譲渡担保権者が目的不動産を第三者に譲渡した場合において、その第三者が背信的悪意者であったときは、その第三者は、目的不動産の所有権を取得しない。
ウ 不動産に帰属清算型の譲渡担保権を設定した債務者が弁済期に債務の弁済をしなかった場合において、清算金が生ずるときは、債務者は、譲渡担保権者が清算金の支払又はその提供をしない間であっても、目的不動産の受戻権を放棄して、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することができる。
エ 動産にその価値を上回る金額の債権を被担保債権とする譲渡担保権が設定されていた場合において、債務者の一般債権者が目的動産を差し押さえたときは、譲渡担保権者は、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることができる。
オ 不動産を目的とする譲渡担保において、被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえたときは、譲渡担保権の設定者は、差押登記後に債務の全額を弁済しても、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできない。
ア 不動産に帰属清算型の譲渡担保権を設定した債務者が弁済期に債務の弁済をせず、譲渡担保権者が債務者に対して目的不動産を確定的に自己の所有に帰属させる旨の意思表示をした場合において、清算金が生じないときは、債務者は、その意思表示の時に目的不動産の所有権を確定的に失う。
イ 不動産に処分清算型の譲渡担保権を設定した債務者が弁済期に債務の弁済をせず、その後譲渡担保権者が目的不動産を第三者に譲渡した場合において、その第三者が背信的悪意者であったときは、その第三者は、目的不動産の所有権を取得しない。
ウ 不動産に帰属清算型の譲渡担保権を設定した債務者が弁済期に債務の弁済をしなかった場合において、清算金が生ずるときは、債務者は、譲渡担保権者が清算金の支払又はその提供をしない間であっても、目的不動産の受戻権を放棄して、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することができる。
エ 動産にその価値を上回る金額の債権を被担保債権とする譲渡担保権が設定されていた場合において、債務者の一般債権者が目的動産を差し押さえたときは、譲渡担保権者は、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることができる。
オ 不動産を目的とする譲渡担保において、被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえたときは、譲渡担保権の設定者は、差押登記後に債務の全額を弁済しても、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできない。
- アイ
- アウ
- イオ
- ウエ
- エオ
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この過去問の解説 (3件)
01
ア × 本肢は「債務者の受戻権が終局的に失われるのはいつですか?」と試験委員から問われています。
答えは以下の3つの時点です
1.譲渡担保権者が目的不動産を第三者に売却した時
2.譲渡担保権者が債務者に清算金が無いことを通知した時
3.譲渡担保権者が債務者に清算金の支払いをした時
以上の3つのどれかの事由が生じたときに、債務者は目的不動産を受戻すことができなくなります。そして、被担保債権が消滅します。
よって、譲渡担保権者が債務者に対して目的不動産を確定的に自己の所有に帰属させる旨の意思表示をしただけでは、終局的な所有権の移転はしません。
イ × 被担保債権の弁済期到来後に、譲渡担保権者が第三者へ譲渡担保権の目的物を譲渡したときは、当該第三者が背信的悪意者であっても、当該譲渡は有効です。
なぜなら、権利関係が確定しない状態が続くことは望ましくないからです。
それに、債権者は譲受人が背信的悪意者に当たるかどうかを知る由もありません。
もし債権者からの譲受人が背信的悪意者なら債務者が受け戻し権を行使できるとすると、債権者に不測の損害を被らせる恐れがあるからです。
(譲受人から債権者に対して、「受戻されてしまったじゃないか。損害賠償しろよ!」と請求されてしまいます。)
ウ × 譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払または提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に清算金の支払いを請求することはできないと解すべきとされています(民法最判平8・11・22)。
なぜなら、債務者が清算金支払い請求できるとすると、債務を弁済できなかった債務者が譲渡担保権者に「清算金を払え~」と言えるということは厚かましく感じませんか?
弁済期に弁済をしなかった債務者にはイニシアティブはありません。
つまり、約束を破った債務者なんだから清算金支払い請求をして譲渡担保契約を終了するような権限を与える必要はないんです。
逆に譲渡担保権者は弁済期に弁済をしてもらえなかったかわいそうな立場だから弁済期後は譲渡担保契約を終了させる行為(自分の物にしたり、第三者に売ったり)をしてもかまわないというわけです。
エ 〇 譲渡担保権者は、特段の事情がない限り、譲渡担保権者たる地位に基づいて、第三者異議の訴えにより、目的物に対し譲渡担保設定者の一般債権者がした強制執行の排除を求めることができます。(最判昭和58.2.24)
つまり、譲渡担保権者は「ちょっと待った!これは俺が先に唾をつけてるんだから、強制執行止めて!」と主張できるということです。
本肢は動産だから登記簿上公示されていないのですが、譲渡担保権者がこのような強力な主張ができるのです。
オ 〇 不動産を目的とする譲渡担保において、被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえ、その旨の登記がされたときは、譲渡担保権設定者は、差押登記後に債務の全額を弁済しても、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできません(最判平18・10・20)。
本肢は「弁済期後」という部分がミソです。
弁済期後だと、譲渡担保権設定者は譲渡担保権者によって目的物が処分されてもしょうがない立場です。(弁済期後に弁済をしなかった債務者が一番悪い)
つまり、譲渡担保権者の債権者による差押えは、債権者から第三者に目的物が移転したのと同視できます。
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02
ア 誤り
帰属清算型では、支払いの提供または通知によって、目的不動産の所有権が確定的に債権者に帰属することになります。
イ 誤り
判例は、譲渡担保権者が被担保債権の弁済期後に目的不動産を譲渡した場合には、譲渡担保を設定した債務者は、譲受人が背信的悪意者にあるか否かにかかわらず、債務の弁済による目的不動産の受戻しによる所有権の回復を譲受人に対して主張できないとしています(最判平成6年2月22日)。
ウ 誤り
判例(最判平成8年11月22日)は、本肢と同様の事案において、「譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することはできないものと解すべきである。」としています。
その理由として、「譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的物を自己に帰属させ又は換価処分する場合において、その価額から被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権者において譲渡担保権の実行を完結するまでの間に、弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保の目的物の所有権等を回復する権利であって、両者はその発生原因を異にする別個の権利であるから、譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、右受戻権の放棄により譲渡担保権設定者が清算金支払請求権を取得することとなると解することはできない。」ということを挙げています。
エ 正しい
判例(最判昭和58年2月24日)は、本肢と同様の事案において、「譲渡担保権者は、特段の事情がないかぎり、譲渡担保権者たる地位に基づいて目的物件に対し譲渡担保権設定者の一般債権者がした民事執行法122条の規定による強制執行の排除を求めることができるものと解すべきである。」としています。
オ 正しい
判例(最判平成18年10月20日)は、本肢と同様の事案において、「不動産を目的とする譲渡担保において、被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえ、その旨の登記がされたときは、設定者は、差押登記後に債務の全額を弁済しても、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできないと解するのが相当である。」としています。
その理由として、「設定者が債務の履行を遅滞したときは、譲渡担保権者は目的不動産を処分する権能を取得するから、被担保債権の弁済期後は、設定者としては、目的不動産が換価処分されることを受忍すべき立場にあるというべきところ、譲渡担保権者の債権者による目的不動産の強制競売による換価も、譲渡担保権者による換価処分と同様に受忍すべきものということができるのであって、目的不動産を差し押さえた譲渡担保権者の債権者との関係では、差押え後の受戻権行使による目的不動産の所有権の回復を主張することができなくてもやむを得ないというべきだからである。」ということを挙げています。
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03
ア…誤りです。不動産に帰属清算型の譲渡担保を設定した譲渡担保権者は、目的である不動産を自己の所有に帰属させる旨の意思表示をしたときではなく、➀譲渡担保権設定者に清算金の支払もしくは提供をしたとき、②譲渡担保権設定者に目的不動産の適正評価額が債務額を上回らない(=清算金がない)旨の通知をしたとき、③目的不動産を第三者に売却したとき、のいずれかの時点を基準として、譲渡担保権の実行を完了したとみなされます(最判昭62・2・12)。したがって、清算金がなかったことの通知がされるまでは、債務者(=譲渡担保権設定者)は受戻権があります。
イ…誤りです。被担保債権の弁済期到来後に、譲渡担保権者が第三者へ譲渡担保権の目的物を譲渡したときは、当該第三者が背信的悪意者であるかどうかにかかわらず、当該譲渡は有効であり、債務者が弁済しても目的不動産を受け戻すことはできないとされています(最判平6・2・22)。
ウ…誤りです。譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払または提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に清算金の支払いを請求することはできないと解すべきとされています(最判平8・11・22)。受戻権は弁済等によって所有権を回復するための権利であり、清算金支払請求権と直接に関係はなく、また清算金支払請求権と関係があるとすると、譲渡担保権者に譲渡担保権実行の時期の決定の自由がないことになるためです。
エ…正しいです。譲渡担保権者は、特段の事情がない限り、目的物件に対し民事執行法122条の規定により譲渡担保権設定者の一般債権者がした強制執行につき、第三者異議の訴えによってその排除を求めることができます(最判昭58・2・24)。
オ…正しいです。不動産を目的とする譲渡担保において、被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえ、その旨の登記がされたときは、譲渡担保権設定者は、差押登記後に債務の全額を弁済しても、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできません(最判平18・10・20)。弁済期後は、譲渡担保権設定者は譲渡担保権者による目的物の換価処分を受容していると考えられるところ、譲渡担保権者の債権者による換価処分も是認しているものと考えられるからです。
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