司法書士の過去問
令和2年度
午後の部 問40
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問題
令和2年度 司法書士試験 午後の部 問40 (訂正依頼・報告はこちら)
既判力に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、どれか。
ア AのBに対する150万円の貸金返還請求訴訟において、BがAに対する200万円の売買代金債権をもって相殺する旨の抗弁を主張したところ、当該売買代金債権の存在が認められず、Aの請求を認容する判決が確定した場合には、当該確定判決は、当該200万円の売買代金債権の不存在について既判力を有する。
イ 所有権に基づく所有権移転登記抹消登記手続請求を認容した確定判決は、当該所有権の存在について既判力を有する。
ウ AのBに対する150万円の貸金債権の一部請求である旨が明示された100万円の貸金返還請求訴訟において、その請求を認容する判決が確定した場合には、当該確定判決は、当該100万円の貸金債権の存在についてのみ既判力を有する。
エ 訴えを却下した確定判決がその理由において訴えの利益を欠くものと判断している場合には、当該確定判決は、当該訴えに係るその他の訴訟要件の不存在についても既判力を有する。
オ AのBに対する150万円の貸金債務の不存在確認訴訟において、当該150万円の貸金債務のうち50万円を超える債務の不存在を確認し、その余の請求を棄却する判決が確定した場合には、当該確定判決は、当該150万円の貸金債務のうち50万円の債務の存在と100万円の債務の不存在について既判力を有する。
ア AのBに対する150万円の貸金返還請求訴訟において、BがAに対する200万円の売買代金債権をもって相殺する旨の抗弁を主張したところ、当該売買代金債権の存在が認められず、Aの請求を認容する判決が確定した場合には、当該確定判決は、当該200万円の売買代金債権の不存在について既判力を有する。
イ 所有権に基づく所有権移転登記抹消登記手続請求を認容した確定判決は、当該所有権の存在について既判力を有する。
ウ AのBに対する150万円の貸金債権の一部請求である旨が明示された100万円の貸金返還請求訴訟において、その請求を認容する判決が確定した場合には、当該確定判決は、当該100万円の貸金債権の存在についてのみ既判力を有する。
エ 訴えを却下した確定判決がその理由において訴えの利益を欠くものと判断している場合には、当該確定判決は、当該訴えに係るその他の訴訟要件の不存在についても既判力を有する。
オ AのBに対する150万円の貸金債務の不存在確認訴訟において、当該150万円の貸金債務のうち50万円を超える債務の不存在を確認し、その余の請求を棄却する判決が確定した場合には、当該確定判決は、当該150万円の貸金債務のうち50万円の債務の存在と100万円の債務の不存在について既判力を有する。
- アウ
- アエ
- イエ
- イオ
- ウオ
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この過去問の解説 (3件)
01
正解は5です。
ア…誤りです。相殺のために主張した請求の成立または不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有します(民事訴訟法114条2項)。本問では、BがAに対して200万円の売買代金債権をもって対抗していますが、この債権については認容でなく排斥されているため、AのBに対する150万円の代金債権と相殺する部分についてのみ、不存在が認められます。すなわち「BのAに対する150万円の売買代金債権は不存在である」という既判力は生じていますが、BのAに対する50万円の売買代金債権については何も既判力が生じていない状態です。
イ…誤りです。確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有します(民事訴訟法114条1項)。本問の場合、判決主文は「所有権移転登記抹消登記手続請求を命ずる」のみであり、その理由として「所有権を認める」ので、判決理由の内容を争う後訴の提起はできます。
ウ…正しいです。貸金請求の一部請求であることを明示してされた貸金返還請求訴訟において、確定判決が出た場合、その判決の既判力は残部の請求に及びません(最判昭37・8・10)。本問では、AのBに対する貸金債権の残部である50万円についての既判力は何も生じていないことになります。
エ…誤りです。ある訴訟要件を満たしていないことを理由に訴訟が却下された場合でも、口頭弁論終結後に新たな事由が生じ、訴訟要件が具備されたのであれば、同一の訴えを提起することはできます(H26過去問)。
オ…正しいです。本問では150万円の貸金債務全部について判決が出ていますので、その全てについて既判力が生じます。不存在確認訴訟において棄却された分は、存在すると認められたことになるので、当該150万円の貸金債務のうち、50万円の債務の存在と100万円の債務の不存在について既判力があります。
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02
正解 5
ア 誤り
相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有します(民事訴訟法114条2項)。
本肢の場合、Bが相殺をもって対抗した額は150万円であるため、当該確定判決は、当該150万円の売買代金債権の不存在について既判力が生じることになります。
イ 誤り
判例(最判昭和30年12月1日)は、本肢と同様の事案において、「所有権に基く登記請求を認容した確定判決は、その理由において所有権の存否を確認している場合であっても所有権の存否についての既判力を有しない。」としています。
確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を生じるため(民事訴訟法114条1項)、理由中の判断である「所有権の存否」に既判力は及びません。
ウ 正しい
判例(最判昭和37年8月10日)は、本肢と同様の事案において、「一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合は、訴訟物となるのは右債権の一部の存否のみであって、全部の存否ではなく、従って右一部の請求についての確定判決の既判力は残部の請求に及ばないと解するのが相当である。」としています。
エ 誤り
訴え却下判決の場合、提訴の適法性に関する判断について既判力が生じます。
本肢の場合、却下の理由となっている「訴えの利益を欠くこと」について既判力が生じますが、当該訴えに係るその他の訴訟要件の不存在について既判力は及びません。
オ 正しい
債務不存在確認訴訟において、請求を認容する部分と請求を棄却する部分が存在する場合は、主文において前者を債務の不存在部分として、後者を債務の存在部分として示します。
したがって、本肢では、100万円の債務の不存在と50万円の債務の存在につき、既判力が及ぶことになります。
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03
正解:5
<解説>
ア:誤りです。
原則的に、確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有しますが、相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有します(民事訴訟法114条)
また、判例は、相殺の抗弁において反対債権の成立を認めた判決の既判力は、原告の債権の対当額の部分に限定されるとしています(大判昭10・8・24民集14・1582)。
これに照らすと、本肢の当該200万円の売買代金債権については、原告の債権の対当額である150万円についてのみ不存在の既判力が生じます。
したがって、本肢は誤りです。
イ:誤りです。
判例は、判決の既判力は、判決主文に包含される訴訟物たる法律関係のみについて及ぶのであって、所有物に基づく登記請求を認容した判決が、理由中で所有権の存在を確認していても、所有権の存否につき既判力は及ばないとしています(最判昭30・12・1民集9・13・1903、民訴百選Ⅱ補正A40)。
これに照らして、所有権に基づく所有権移転登記抹消登記手続請求を認容した確定判決も、当該所有権の存在について既判力を有しないこととなります。
したがって、本肢は誤りです。
ウ:正しいです。
判例は、1個の数量的な一部について判決を求める旨明示された給付訴訟においては、訴訟物は右債権の一部であるから、既判力は残部に及ばないとしています(最判昭37・8・10民集16・8・1720、民訴百選4版81①)。
このことから、当該確定判決は、当該100万円の貸金債権の存在についてのみ既判力を有します。
したがって、本肢は正しいです。
エ:誤りです。
訴訟判決にも既判力を認めるのが通説ですが、訴えの利益がないことを理由として却下判決がなされた場合には、訴えの利益がないとする判断につき既判力を有するとしています(東京地判平3・8・28)。
この場合には、訴えの利益を欠くとの判断にのみが既判力を有し、当該訴えに係るその他の訴訟要件の不存在については既判力を有していません。
したがって、本肢は誤りです。
オ:正しいです。
本肢は、その債務が50万円を超える債務ではないことを確認し、その余の請求を棄却した判決が確定した場合であるから、当該確定判決は、当該150万円の貸金債務のうち50万円の債務の存在と100万円の債務の不存在について既判力を有します。
したがって、本肢は正しいです。
以上により、正しいものは肢ウ・オであり、正解は5となります。
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