司法書士の過去問
令和2年度
午後の部 問54

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問題

令和2年度 司法書士試験 午後の部 問54 (訂正依頼・報告はこちら)

甲不動産の所有権の登記名義人であるAが死亡し、Aの法定相続人として配偶者B、子C及び子Dがいるときの相続による登記に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、どれか。

ア  甲不動産について法定相続分による所有権の移転の登記がされた後に、Bが自らの相続分をAの相続人でないEに譲渡し、C、D及びEの間で遺産分割協議を行ってEが単独で甲不動産の所有権を取得したときは、Eは、遺産分割を登記原因として、B、C及びDから直接Eへの持分の移転の登記の申請をすることができる。
イ  「Bが甲不動産を全部取得し、C及びDは遺産の分割を受けない」と記載されたB及びC間の遺産分割協議書及び同一内容が記載されたDの遺産分割協議書を提供して、Bは、相続を登記原因とするAからBへの所有権の移転の登記の申請をすることができる。
ウ  甲不動産について法定相続分による所有権の移転の登記がされた後に、Aの遺産分割に関する調停が成立し、その調停調書に、C及びDがBに対して甲不動産の持分各4分の1につき遺産分割を原因とする持分移転登記手続をする旨の記載がある場合には、Bは、遺産分割を登記原因として単独でC及びDからBへの持分の移転の登記の申請をすることができる。
エ  Aの遺産分割協議が未了のままDが死亡し、Dの相続人がE及びFである場合において、BがEに、CがFにそれぞれ相続分の譲渡をした上で、E及びF間における遺産分割協議に基づきFが甲不動産を取得することになったときは、Fは、相続分譲渡証明書及び遺産分割協議書を提供して「年月日D相続、年月日相続」を登記原因とするFへの所有権の移転の登記の申請をすることができる。
オ  「Dが甲不動産を取得するが、DはBに対してBを扶養する義務を負担する」との遺産分割協議に基づき、Dを所有権の登記名義人とする所有権の移転の登記がされた後に、DがBを扶養する義務に基づく債務を履行しないときは、Bは、Dに対して債務不履行に基づく解除の意思表示をすることによって、解除を登記原因として当該所有権の移転の登記の抹消を申請することができる。
  • アイ
  • アオ
  • イエ
  • ウエ
  • ウオ

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この過去問の解説 (3件)

01

<解説>

 

ア:誤りです。

本肢において、法定相続分による所有権移転登記後に、Bが自らの相続分をAの相続人でないEに譲渡し、C、D及びEの間で遺産分割協議を行ってEが単独で甲不動産の所有権を取得したときは、まず、BからEへの「相続分の売買」若しくは「相続分の贈与」を原因とする持分移転登記をし、次いで、C及びDからEへの「遺産分割」を原因とする持分移転登記を行います。

よって、Eは遺産分割を登記原因として、B、C及びDから直接Eへ持分移転登記を申請することはできません。

したがって、本肢は誤りです。

 

イ:正しいです。

共同相続の場合において、相続人は、共同相続の登記をすることなく、直ちに遺産分割後における各相続人の名義への相続による権利取得の登記をすることができます。

また、甲・乙の法定相続分による相続登記がなされないうちに、甲の所有とする旨の遺産分割の協議が調った場合において、その旨の登記は、相続開始の事実及び相続人の範囲を示す情報のほか、甲・乙が作成する遺産分割協議書を添付情報として、甲が単独で申請することができるとしています。

(昭19・10・19民甲692号)

これらに照らせば、本肢の場合、Bは、相続を登記原因とするAからBへの所有権の移転の登記の単独申請することができます。 また、分割協議書は法定相続人ごとに複数であっても、内容が同じであれば有効です(遠隔地に住んでいる法定相続人などへの配慮)。

したがって、本肢は正しいです。

 

ウ:正しいです。

確定判決と同じ効力を持つ調停調書に、C及びDがBに対して甲不動産の持分各4分の1につき遺産分割を原因とする持分移転登記手続をする旨の記載がある場合には、Bは、遺産分割を登記原因として単独でC及びDからBへの持分の移転の登記の申請をすることができます(不動産登記法63条①)。

したがって、本肢は正しいです。

 

エ:正しいです。

本肢の場合は、甲不動産の所有権を、Aを被相続人とする相続ではDが単独相続で取得し、Dを被相続人とする相続ではFが取得したと解することができます。

このことにより、Fは、相続分譲渡証明書及び遺産分割協議書を提供して「年月日(Aの死亡日)D相続、年月日(Dの死亡日)相続」を登記原因とするFへの所有権の移転の登記の申請をすることができます(平30・3・16民二136号)。

したがって、本肢は正しいです。

 

オ:誤りです。

判例は、共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人がその協議で負担した債務を履行しないときであっても、その債権を有する相続人は民法541条(履行遅滞等による解除権)によって右協議を解除できないとしています(最判元・2・9民集43・2・1、家族百選7版71)。

このことから、本肢の場合について、解除の意思表示をすることによって、解除を登記原因として当該所有権の移転の登記の抹消を申請することはできません。

したがって、本肢は誤りです。

 

以上により、正解はア・オとなります。

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02

ア…誤りです。共同相続による所有権移転登記が済んだ後、遺産分割協議が行われ、相続人中の一人が単独で所有権を取得することとなった場合は、「遺産分割」を登記原因として、残りの法定相続人から当該相続人への持分移転登記を申請できます(昭28・8・10民甲1392号民事局長回答)。なお、この申請は共同申請となります(昭42・10・9民甲706号)。しかし、本問のEは相続人ではないので、直接自己への持分移転登記を申請することはできません。


イ…正しいです。共同相続による所有権移転登記を申請する前に、相続人中の一人が単独で所有権を取得することという旨の遺産分割協議が成立した場合には、「相続」を登記原因として、ただちに当該相続人への持分移転登記を申請できます(昭59・10・15民三5195号課長回答)。なお、遺産分割協議書は相続登記の登記原因証明情報として有効ですが、本問の添付書類としては、残りの相続人の印鑑証明書も必要となります。


ウ…正しいです。遺産分割調停調書に、相続人の一人のみに所有権を認める記載に加え、持分移転登記の手続を命じる記載がある場合(=登記手続条項がある場合)には、登記名義人となる者が単独で自己名義への登記申請ができます。


エ…正しいです。共同相続人から他の相続人への相続分の譲渡は、遺産分割協議前であれば、所有権移転登記を経ずにでき、また譲受人が遺産分割協議の当事者となることができるといえます(民法905条)。また、遺産分割協議の結果は、相続開始のときにさかのぼって効力を及ぼします(民法909条)。本来数次相続が発生する場合は、順を追って所有権移転の登記をすべきですが、本問では、➀被相続人Aについての遺産分割協議を、BCDが行うべきところ、BがEに、CがFに相続分の譲渡を行ったために、DEFが遺産分割協議の当事者となります。また、②被相続人Dについての遺産分割協議は、Dの相続人EFで行うことができ、甲不動産の相続人をFとする旨の遺産分割協議ができます。よって、EとFによる遺産分割協議がされた場合、A名義の甲不動産について、中間の相続人はDのみで、相続人はFしかいなかったことになります。したがって、数次相続において中間の相続人が一人であれば中間省略登記を認める先例(昭36・3・23民甲691号など)に従い、「A死亡の年月日D相続、D死亡の年月日相続」を登記原因とし、Fは直接自己に所有権移転の申請を行うことができます(平30・3・16民二136号回答)。


オ…誤りです。本問のDは遺産分割協議により義務を負っていますが、負担部分の不履行を理由に、遺贈を原因として登記された不動産の所有権移転登記の抹消を申請することはできません。負担付遺贈は双務契約ではなく、受遺者から放棄することも認められるためです。ただしこの場合、相続人から、受遺者が負担すべき義務を履行しないときは、相当の期間を定めて履行を催告することができ、期間内に履行がされないときは、負担付遺贈にかかる遺言の取消しを家庭裁判所に申し立てることができます(民法1027条)。

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03

ア 誤り
法定相続分による相続登記後に相続分の譲渡が第三者に対してなされ、その後に遺産分割が行われた場合は、まず始めに、「相続分の売買」又は「相続分の贈与」を登記原因とする相続分の持分移転登記をし、次いで、「遺産分割」を登記原因として持分移転登記をすることになります。

 

イ 正しい
共同相続人間で一人の相続人が単独で不動産を相続する旨の遺産分割協議が成立したときは、直接「相続」を登記原因とする移転登記をすることができます。

 

ウ 正しい
遺産分割の調停調書において、遺産分割を原因とする持分移転登記手続をする旨の記載がある場合には、登記権利者となる持分の取得者が単独で自己への持分移転登記を申請することができます。

 

エ 正しい
遺産分割によって不動産を取得したFは、相続開始の時から甲不動産を取得したことになります(民法909条)。
そのため、遺産分割協議が成立するまでに行われた相続分の譲渡は、実体上、存在しない物件変動であると考えられ、登記に公示する必要はないということになります。
もっとも、数次の相続が発生した場合に、「平成●年●月●日 某相続 平成○年○月○日相続」を登記原因として一の申請で所有権移転の登記をするためには、中間の相続人が一人であることが条件となります。
本肢の場合、中間相続人はD一人であるため、「年月日D相続、年月日相続」を登記原因とするFへの所有権移転登記を申請することができます(平成30年3月16日民二136号)。

 

オ 誤り
判例(最判平成元年2月9日)は、本肢と同様の事案において、「共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によつて右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。」としています。
その理由として判例は、「遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法909条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。」ということを挙げています。

参考になった数4