司法書士の過去問
令和2年度
午後の部 問56

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問題

令和2年度 司法書士試験 午後の部 問56 (訂正依頼・報告はこちら)

抵当権の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、どれか。

ア  弁済の充当に関する当事者間の合意により抵当権の被担保債権の元本が全額弁済され、利息のみが残っている場合は、変更後の事項を「債権額金○○円(年月分から年月分までの利息)」として、一部弁済を登記原因とする抵当権の変更の登記を申請することができる。
イ  金銭消費貸借予約契約に基づく将来の債権を担保するための抵当権の設定の登記がされている場合において、当該予約契約を変更し債権額の増額を行ったときは、抵当権の債権額を増額する抵当権の変更の登記を申請することができる。
ウ  Aを債務者と表記すべきところ、誤ってBを債務者と表記した抵当権設定契約書に基づき、Bを債務者とする抵当権の設定の登記がされた場合は、錯誤を登記原因として当該抵当権の債務者をAとする抵当権の更正の登記を申請することができる。
エ  抵当権の設定の登記がされている建物に隣接して新たに物置を建てたため、当該物置を附属建物とする表題部の変更の登記がされた場合は、既存の抵当権の効力を当該附属建物に及ぼす旨の抵当権の変更の登記を申請することができる。
オ  乙区1番及び乙区2番で設定の登記がされている各抵当権について、令和2年4月1日に各抵当権者の間でその順位を変更する合意がされた後、当該順位の変更について利害関係を有する者の承諾が令和2年4月3日に得られた場合は、令和2年4月1日合意を登記原因及びその日付として当該抵当権の順位の変更の登記を申請することができる。
  • アエ
  • アオ
  • イウ
  • イオ
  • ウエ

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この過去問の解説 (3件)

01

正解は3です。


ア…誤りです。抵当権の債権元本の全額を弁済し、利息のみが残っている場合に、抵当権の債権額の減額変更をしようとするときは、登記申請の原因を「年月日元本弁済」とし、登記事項を「変更後の事項 債権額 金○○円(年月日から年月日までの利息)」とします(登記記録例391)。


イ…正しいです。金銭消費貸借予約契約に基づく将来の債権を担保するための抵当権の設定の登記がされている場合において、当該予定契約を変更し債権額の増額を行ったときは、抵当権の債権額増額の変更登記の申請ができます(昭42・11・7民甲3142号回答)。この場合の登記申請には、原因を「年月日変更」とし、登記事項を「変更後の事項 債権額 金○○円」とします。


ウ…正しいです。抵当権設定登記における債務者は、登記事項ではありますが、登記名義人ではないため、債務者Aを別人Bとして誤って登記した場合、債務者をAとする更正の登記の申請ができます。この場合のBは、抵当権設定者などの当事者であってもかまいません(H17過去問)。登記申請の原因は「錯誤」、登記事項は「更正後の事項 債務者 A」となります。


エ…誤りです。建物に対し抵当権設定後に増築がされたとき、増築部分にも抵当権の効力が及ぶかどうかは、当該増築部分が建物としての独立性を有しないか(=民法87条の従物にあたるか)否かで判断されます。これには、単に共通の構造があるなどの物理的事情だけでなく、従前の建物から独立して利用または取引されるか否かの点においても判断が必要とされます(最判昭39・1・30)。本問の増築部分は附属建物ではあっても、あくまで建物に対する物置として利用されているので、変更の登記をしなくても抵当権の効力は当然に増築部分にも及びます。


オ…誤りです。抵当権の順位変更について、登記原因となる日付は、原則として当事者同士の合意が得られた日です。しかし、当事者の合意後に利害関係者の承諾が得られた場合、日付は利害関係者の承諾が得られた日になります(昭46・12・24民甲3630号通達)。本問の場合、登記申請の原因を「年月日合意」とし、登記事項を「変更後の事項 第1 2番抵当権[改行]第2 1番抵当権」(変更順位者間での順位番号「第○」と、乙区での抵当権の順位番号を1行ずつ記載する)とします。

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02

正解 3

ア 誤り
元本が全額弁済され、利息のみが残った場合、債権額の減額変更の登記を申請することができます。
この場合、変更後の事項を「債権額金〇〇円(年月分から年月分までの利息)」として、「年月日元本弁済」を登記原因とする抵当権の変更の登記を申請することになります。

イ 正しい
債権額の増額による抵当権の変更登記は、原則としてできません。
もっとも、金銭消費貸借予約上の将来債権を担保する抵当権の場合、例外的にその増額変更の登記を申請することができます。

ウ 正しい
抵当権設定契約書の誤記により、抵当権設定登記の債務者が誤って登記された場合は、抵当権の債務者について、更正の登記を申請することができます。
本肢の場合、Aを登記権利者、Bを登記義務者として、更正登記を申請することになります。

エ 誤り
建物の抵当権設定後に付加された従物についても、建物に係る抵当権の効力が及びます。
したがって、既存の抵当権の効力を当該従物に及ぼす旨の抵当権の変更の登記を申請する必要はありません。

オ 誤り
抵当権の順位変更において、利害関係人の承諾は実体上の効力発生要件です。
したがって、当該順位変更の登記の登記原因の日付は、その承諾の日となります。

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03

正解:3

<解説>

ア:誤りです。

抵当権の被担保債権の元本が全額弁済され、利息のみが残っている場合、変更後の事項を「債権額金〇〇円(年月日から年月日までの利息)」として、一部弁済ではなく、元本弁済を登記原因として抵当権の変更の登記を申請することができます(不動産登記記録例391)。

したがって、本肢は誤りです。

イ:正しいです。

債権を担保するための抵当権設定登記後、追加融資をする場合には、抵当権を新たに設定登記する必要があります(昭32・11・1民刑1904号)。

しかし、将来債権を担保するための抵当権の設定登記後、予約契約を変更して債権額の増額を行ったときは、抵当権の債権額を増額する抵当権の変更登記を申請することができます(昭42・11・7民甲3142号)。

したがって、本肢は正しいです。

ウ:正しいです。

抵当権設定契約書の債務者の誤表記により、抵当権設定登記も債務者を誤って登記した場合には、錯誤を登記原因として抵当権の更正登記を申請することができます。

したがって、本肢は正しいです。

エ:誤りです。

物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とし、その従物は、主物の処分に従うとしています(民法87条)。

すなわち、抵当権が設定されたときは、主物のみならず、従物にもその効力が及ぶことになります。

そして、その効力は抵当権設定前に附属された従物にだけでなく、抵当権設定後に附属された従物にもその効力が及ぶとしています(東京公判昭53・12・26)。

よって、本肢の場合、主たる建物の登記の効力が当然に附属建物である物置にも及ぶことになるため、抵当権の変更登記を申請することはできません。

したがって、本肢は誤りです。

オ:誤りです。

抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができますが、ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を受けなければならないとしています(民法374条)。

利害関係を有するものがいないときは、順位変更の合意がされた日が原因日付となりますが、利害関係を有する者がいて、順位変更合意後にその者の承諾を得られたときは、承諾が得られた日を原因日付とします(昭46・12・24民甲3630号)。

よって、本肢の場合は、利害関係を有する者がいるため、令和2年4月3日が原因日付となります。

したがって、本肢は誤りです。

以上により、正しいものは肢イ・ウであり、正解は3となります。

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