司法書士の過去問
令和3年度
午前の部 問7

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問題

令和3年度 司法書士試験 午前の部 問7 (訂正依頼・報告はこちら)

土地の所有権又は賃借権に基づく請求権に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せはどれか。

ア  Aの所有する甲土地の上にAに無断で乙建物を築造したBが、乙建物につきB名義で所有権の保存の登記をした後に、乙建物をCに売却したが、その旨の登記をしていないときは、Aは、Bに対し、甲土地の所有権に基づき、乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求めることができない。
イ  Aの所有する甲土地をBが賃借して賃借権の設定の登記をした場合において、Cが自己の所有する乙動産をA及びBに無断で甲土地に置いているときは、Bは、Cに対し、甲土地の賃借権に基づき、乙動産の撤去を請求することができない。
ウ  Aの所有する甲土地を賃借しているBが、Cの所有する乙動産を賃借して甲土地に置いている場合において、その後、AB間の賃貸借契約が終了したが、Bが乙動産を甲土地に放置しているときは、Aは、Cに対し、甲土地の所有権に基づき、乙動産の撤去を請求することができる。
エ  Aがその所有する甲土地をBに賃貸して引き渡し、その後、AB間の賃貸借契約が終了したが、Bがその所有する乙動産を甲土地に放置している場合において、AがBに対し賃貸借契約の終了に基づき乙動産の撤去を請求することができるときは、Aは、Bに対し、甲土地の所有権に基づき、乙動産の撤去を請求することができない。
オ  Aの所有する甲土地にBがCから購入した乙自動車がAに無断で放置されている場合において、BC間の売買契約上、Bの代金残債務の担保として乙自動車の所有権はCに留保される旨及びBが期限の利益を喪失して残債務の弁済期が経過したときはCはBから乙自動車の引渡しを受け、これを売却してその代金を残債務の弁済に充てることができる旨の合意がされており、Bが期限の利益を喪失してその残債務の弁済期が経過したときは、Aは、Cに対し、甲土地の所有権に基づき、乙自動車の撤去を請求することができる。
  • アイ
  • アオ
  • イエ
  • ウエ
  • ウオ

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この過去問の解説 (3件)

01

正解 5

ア 誤り

判例(最判平6年2月8日)は、本肢と同様の事案において、「他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。」としています。

イ 誤り

賃貸借の対抗要件を備えた不動産の賃借人は、その不動産の占有を第三者が妨害しているときは、その第三者に対して妨害の停止を請求することができます(民法605条の4第1号)。

ウ 正しい

物権的請求権の相手方は現在の妨害者であり、自ら妨害を生じさせたことは必要ではありません。

本肢では、Cの所有する乙動産が甲土地上に放置されているため、Cは乙動産を撤去する義務を負います。

エ 誤り

一つの不動産に関する請求であっても、賃貸借契約終了に基づく請求と、所有権に基づく請求は、別個の訴訟物を構成します(旧訴訟物理論)。

よって、AのBに対する賃貸借契約終了に基づく乙動産の撤去の請求と、甲土地の所有権に基づく乙動産の撤去の請求は別個の権利であり、いずれも行使することが可能です。

オ 正しい

判例(最判平21年3月10日)は、本肢と同様の事案において、「動産の購入代金を立替払する者が立替金債務が完済されるまで同債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において、所有権を留保した者の有する権原が、期限の利益喪失による残債務全額の弁済期の到来の前後で上記のように異なるときは、留保所有権者は、残債務弁済が到来するまでは、当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても、特段の事情がない限り、当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが、残債務弁済が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するからといって、上記撤去義務や不法行為責任を免れることはない。」としています。

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02

ア × 土地所有者がその所有権に基づいて地上建物の収去・土地の明渡を請求する場合には、現実に建物を所有することによってその土地を占有し、土地所有権を侵害しているものを相手方とするべきであるが、他人の所有地に不法に建てられた建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づきその旨の登記をした上で当該建物を譲渡した場合には、当該建物譲渡人は、引き続きその登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、自己の建物所有権の喪失を主張して建物収去土地明渡の義務を免れることはできない(最判平6.28)。

なぜなら、土地所有者Aが建物譲渡人Bに対して所有権に基づき建物収去土地明け渡しを請求する場合の両者の関係はあたかも建物についての物権変動における対抗関係に似た関係であるからです。

したがってAはBに対し、甲土地の所有権に基づき、乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求めることができます。

イ × 605条の4を熟読しましょう。

不動産の賃借人は、借地借家法に規定する対抗要件を備えた場合は以下の2つの請求をすることができます。

1.その不動産の占有を第三者が妨害しているとき、その第三者に対する妨害の停止請求

2.その不動産を第三者が占有しているとき、その第三者に対する返還請求

よって本肢は乙動産の撤去を請求することができないとする点が誤っています。

ウ 〇 妨害排除請求の相手方は、現に違法な妨害を生じさせている者又はその妨害状態を除去することのできる者です。(大判昭和5.10.31)

本肢でCは何ら帰責性もないが、現時点において違法な妨害状態を作出しているのはC所有の乙動産であるのでAはCに対して妨害排除を請求することができます。

エ × 賃貸借契約の終了に基づく契約責任と、所有権に基づく物権的請求権が競合する場合には、選択によりいずれの請求をも行使することができます。

よってAがBに対し賃貸借契約の終了に基づき乙動産の撤去を請求することができ、所有権に基づき乙動産の撤去を請求することもできます。

オ 〇 本肢のキーワードは「弁済期」です。

弁済期前か、後かにより結論が異なります。

動産留保所有権者は、残債務の弁済期が到来するまでは、当該動産が第三者の土地の上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても当該動産の撤去義務や、不法行為責任を負うことはないが、

残債務弁済期が経過後は撤去義務や不法行為責任を負います。

よって、Cに少々かわいそうな結論となってしまうが、

動産留保所有権者Cは残債務の弁済期が経過した後は、乙自動車の撤去義務を免れないため、AはCに対し甲土地の所有権に基づき、乙自動車の撤去を請求できます。

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03

正解は5です。

ア…誤りです。他人(本問のA)の土地に建物を無断で建て、自らの意思に基づき当該建物の登記を自分名義にして、その後第三者(本問のC)に譲渡した者(本問のB)は、登記が自分名義である限り、当該第三者への譲渡を理由に、建物収去・土地明渡の義務を免れることはできません(最判平6・2・8、H14過去問)。したがって本問のAは登記名義人Bに対して妨害排除請求ができます。

イ…誤りです。第三者に対抗できる借地権を有する賃借権者は、その土地に建物を建ててこれを使用する者に対し、直接、建物収去・土地明渡を請求することができます(最判昭28・12・18)。借地権の第三者への対抗要件は登記ですので、本問のBは土地を不法占拠するCに対し、賃借権に基づく妨害排除請求ができます。

ウ…正しいです。妨害排除請求は、その原因が不可抗力であったり、他人の行為によって生じたものであるときでも、現に妨害行為を行っている相手方(本問のC)に妨害排除の義務が発生するとされています(大判昭12・11・19、行為請求権説)。土地に動産を放置したのはBですが、動産の所有者はCなので、土地の所有者Aは、土地の所有権に基づく妨害排除請求ができます。

エ…誤りです。土地の所有者(本問のA)は、賃貸借契約終了後も、自らの所有する土地上に無断で動産を放置している元賃借人(本問のB)に対して、賃貸借契約の終了に基づく妨害排除請求権と、所有権に基づく妨害排除請求権のどちらを主張してもかまわないとされています(旧訴訟物理論)。

オ…正しいです。土地の所有者(本問のA)は、自らの所有する土地上に、自動車を購入し無断で放置している買主(本問のB)がいる場合、当該自動車の売買契約の代金残債務の担保として自動車の所有権を留保している人物(本問のC)に対し、残債務の弁済期到来後に限り、自動車の撤去の請求ができます(最判平21・3・10)。判示の契約条件のもとでは、Bが期限の利益を放棄して残債務の弁済期が到来した後は、Cは単なる担保権者ではなく、当該自動車についての占有および処分の権能を有するようになると解されるからです。

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