司法書士の過去問
令和3年度
午前の部 問13

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問題

令和3年度 司法書士試験 午前の部 問13 (訂正依頼・報告はこちら)

抵当権の効力に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せはどれか。

ア  抵当権の設定の登記後に締結された賃貸借により競売手続の開始前から抵当権の目的である建物の使用収益をする賃借人は、当該抵当権が実行されて当該建物が競落された場合は、買受人に対し、当該建物を直ちに引き渡さなければならない。
イ  一般債権者が抵当不動産を差し押さえたときは、抵当権者は、第三者異議の訴えにより、その強制執行の不許を求めることができる。
ウ  建物の抵当権者による当該建物の賃料請求権に対する物上代位権の行使は、被担保債権について債務不履行がなくても、することができる。
エ  抵当権者は、先順位の抵当権がその被担保債権の弁済によって消滅した場合には、その先順位の抵当権設定登記の抹消登記手続を請求することができる。
オ  Aのための抵当権の設定の登記がされた後に、抵当権の設定者Bが抵当不動産をCに賃貸し、その賃料債権をDに譲渡した場合には、当該債権譲渡について第三者対抗要件が具備された後においても、Aは自らその賃料債権を差し押さえて、物上代位権を行使することができる。
  • アイ
  • アオ
  • イウ
  • ウエ
  • エオ

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この過去問の解説 (3件)

01

ア × 本肢は、建物明渡猶予制度について問われています。

抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって、競売手続の開始前から使用又は収益をする者は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6ヶ月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しません(民法395条1項1号)。

よって本肢は、直ちに引き渡さなけらばならないとする点が誤っています。

ちなみに、土地明渡猶予制度はありません。明渡猶予できるのは建物だけです。

イ × 本肢の解説の前に第三者異議の訴えとは何かを説明いたします。

第三者異議の訴えとは、

強制執行の対象となる物が,債務者の所有物ではない場合(所有権が移転した),第三者が自分の所有物に対して誤った強制執行がなされていることの是正を求める訴えです。

もっとかみ砕いて説明すると「この物は債務者の物ではなく俺の物だから強制執行しないでください。」ということです。

以上をふまえて解説に入ります。

一般債権者が債務者所有の不動産につき強制執行の申し立てをした場合、当該不動産上の抵当権者は、第三者異議の訴えを提起して強制執行を排除することはできません。

よって本肢は、一般債権者が抵当不動産を差し押さえたときは、抵当権者は、第三者異議の訴えにより、その強制執行の不許を求めることができるとする点が誤っています。

ウ × 本肢は債務不履行後の果実と債務不履行前の果実との区別ができているのかが問われています。

抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及び、債務不履行前においては、抵当権の効力は果実には及ばない。(民法371)

よって、抵当権の被担保債権について債務不履行がない場合には、抵当不動産の法定果実である賃料請求権には抵当権の効力が及ばないので物上代位権の行使をすることはできない。

エ 〇 被担保債権の弁済により既に消滅した先順位抵当権者は、物権的請求権に基づいて先順位抵当権者に対し、その消滅した抵当権の設定登記の抹消を請求することができる(大判大8.10.8)。

理由を一言でまとめると、後順位抵当権者にとって先順位抵当権は邪魔だから一刻も早く消えて欲しいのです。

オ 〇 抵当権者が物上代位の目的債権から優先弁済を受けるためには、その払い渡し又は引渡しの前に差し押さえをしなければならない。(民法304)

上記の「払い渡し又は引き渡し」には債権譲渡は含まれません。

よって、抵当権者は物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができます。

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02

正解は5です。

ア…誤りです。建物に対し、抵当権の設定後に、賃貸借の締結が行われた場合には、➀当該賃借権の登記、②先に登記された抵当権を有するすべての者が当該賃借権の対抗力に同意した旨の登記、の両方がなければ、賃借権者は抵当権者に対抗できません(387条1項)。しかし、対抗できない賃貸借であっても、「直ちに」引渡しを要するわけではなく、競売手続の開始前から使用または収益をしている場合、買受人の買受けの時から6ヶ月間の猶予が認められます(395条1項1号)。

イ…誤りです。被担保債権の弁済期後に、譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえ、その登記がされた場合には、その後に抵当権者が債務の全額を弁済しても、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできません(最判平18・10・20)。

ウ…誤りです。抵当権の範囲について、➀抵当権設定者に抵当不動産の使用または収益を許す意味では、抵当権は先取特権に準ずるものであること、②抵当権が賃料債権に及んでも使用収益自体が妨げられるものでないこと、を理由に、賃料債権にも抵当権が及ぶとされています(最判平元・10・27、372条、304条)。この場合の「賃料債権」とは、将来発生する賃料債権のみにかぎらず、弁済期にある未払賃料債権等を含み、担保する債権について不履行があったとき(371条)に請求することができるようになる、と解されています。

エ…正しいです。後順位抵当権者は、先順位の抵当権が被担保債権の弁済により消滅した場合には、抵当権の抹消登記により順位が上昇する利益があることから、抵当権抹消登記の登記権利者として申請することができます(昭31・12・24民甲2916号局長回答)。

オ…正しいです。抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができます(最判平10・1・30)。物上代位の目的となる債権を有する第三債務者を、二重弁済を強いられる危険から保護するため、差押命令があるまでは抵当権設定者に弁済をすれば足りるとしたものです。すなわち、民法304条の「払渡又は引渡」に、債権譲渡は含まれません。

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03

正解 5

ア 誤り

抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって、競売手続の開始前から使用又は収益をする者は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6ヶ月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しません(民法395条1項1号)。

イ 誤り

判例(最判昭60年7月19日)は、本肢と同様の事案において、「民法304条1項但書きにおいて、先取特権者が物上代位権を行使するためには物上代位の対象となる金銭その他の物の払渡又は引渡前に差押えをしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押えによって、第三債務者が金銭その他の物を債務者に払渡し又は引き渡すことを禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取り立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の目的となる債権の特定性が保持され、これにより、物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面目的債権の弁済をした第三債務者又は目的債権を譲り受け若しくは目的債権につき転付命令を得た第三者等が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、目的債権について一般債権者が差押え又は仮差押えの執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者が目的債権に対し物上代位権を行使することを妨げられるものではない。」としています。

そして、民法372条は同304条を準用しているため、この理は抵当不動産について一般債権者が差し押さえた場合も同様にあてはまります。

ウ 誤り

抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及びます(民法371条)。

よって、被担保債権について債務不履行がない場合には、法定果実たる賃料請求権に対する物上代位権の行使はできません。

エ 正しい

判例(大判大8年10月8日)は、混同によって消滅した先順位の抵当権登記について、後順位抵当権者による抹消登記手続請求を認めています。

オ 正しい

判例(最判平10年1月30日)は、本肢と同様の事案において、「民法304条1項の趣旨目的に照らすと、同項の『払渡又は引渡』には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。」としています。

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