司法書士の過去問
令和3年度
午後の部 問65

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問題

令和3年度 司法書士試験 午後の部 問65 (訂正依頼・報告はこちら)

募集株式の発行による変更の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
なお、定款に別段の定めはないものとする。

ア  現物出資財産が、会社に対する弁済期が到来している金銭債権であり、募集事項として定められた価額が500万円を超える場合であっても、当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えないときは、募集株式の発行による変更の登記の申請書には、当該金銭債権についての現物出資財産の価額に関する検査役の調査報告を記載した書面及びその附属書類を添付することを要しない。
イ  種類株式発行会社でない会社法上の公開会社において、代表取締役の決定により募集株式の割当てを行った場合には、募集株式の発行による変更の登記の申請書には、当該割当てに関する代表取締役の決定を証する書面を添付しなければならない。
ウ  種類株式発行会社が株主に株式の割当てを受ける権利を与えないでする募集株式の発行の場合において、当該募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合を除き、募集株式の発行による変更の登記の申請書には、募集事項の決定に係る当該種類株主総会の議事録を添付しなければならない。
エ  会社法上の公開会社でない取締役会設置会社が株主に株式の割当てを受ける権利を与えないでする募集株式の発行の場合において、株主総会の特別決議により募集事項の決定と申込みがされることを条件とする申込者に対する募集株式の割当てに関する事項の決定を同時に行ったときは、当該株主総会の議事録を添付して募集株式の発行による変更の登記を申請することができる。
オ  会社法上の公開会社が株主に株式の割当てを受ける権利を与えないでする募集株式の発行の場合において、募集事項として定めた払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額であるときは、募集株式の発行による変更の登記の申請書には、株主総会の特別決議に係る議事録を添付しなければならない。
  • アウ
  • アエ
  • イエ
  • イオ
  • ウオ

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この過去問の解説 (3件)

01

正解 1

ア 正しい

金銭以外の財産を出資の目的とする場合において、検査役が選任されたときは、募集株式の発行による変更登記の申請書には、検査役の調査報告を記載した書面及びその附属書類を添付しなければなりません(商業登記法56条3号イ)。

もっとも、現物出資財産が、会社に対する弁済期が到来している金銭債権であり、当該金銭債権について定められた金銭以外の財産の当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えないときは、当該金銭債権についての現物出資財産の価額に関する検査役の選任の申立ては必要ありません(会社法207条9項5号、同条1項)。

したがって、本肢の場合、募集株式の発行による変更登記の申請書には、当該金銭債権について記載された会計帳簿を添付すれば足り、検査役の調査報告を記載した書面及びその附属書類を添付する必要はありません。

イ 誤り

先例(平18.3.31 民商782号)は、「代表取締役の決定により募集株式の割当てを行った場合、募集株式の発行による変更の登記の申請書には、当該割当てに関する代表取締役の決定を証する書面を添付することを要しない。」としています。

ウ 正しい

種類株式発行会社において、第三者割当てによる募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類株主総会の決議がなければ、効力を生じません(会社法199条4項)。

したがって、本肢の場合、募集事項の決定に係る当該種類株主総会の議事録を添付しなければなりません(商業登記法46条2項)。

エ 誤り

募集株式の割当ての決定は、募集株式が譲渡制限株式である場合には、定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会の特別決議(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によらなければならず(会社法204条2項、309条2項5号)、取締役会設置会社の場合、割当ての決定に係る取締役会議事録を添付しなければなりません(商業登記法46条2項)。

本肢の株式会社は、公開会社でない取締役会設置会社であるため、募集株式は譲渡制限株式であり、割当ての決定については取締役会の決議による必要があります。そのため、募集事項の決定については、株主総会の決議によることとなりますが、同総会で同時に割当てに関する事項を決定することはできません。

オ 誤り

先例(昭30.6.26 民甲1333号)は、「有利発行のために株主総会の決議を要する場合において、株主総会議事録の添付は要しない。」としています。

申請書から有利発行か否かを判断することは困難であるうえ、会社が株主総会の特別決議を経ずに第三者に有利発行を行っても、新株発行の無効原因とはならないため、申請書に株主総会議事録の添付を要する場合を規定する商業登記法46条2項の「登記すべき事項につき株主総会の決議を要するとき」にあたらないためです。

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02

ア 〇 原則として、現物出資があった場合は検査役の調査が必要です。

しかし、実務では検査役の調査はめんどうなので、検査役の調査を省略できる例外規定が存在します。(例外規定はすべて完璧に覚えておきましょう。)

本肢はその例外規定の一つです。

例え500万円を超えるときであっても、当該現物出資財産が当該株式会社に対する弁済期の到来した金銭債権であり、当該金銭債権について定められた現物出資財産の価格が金銭債権に係る負債の帳簿価格を超えない場合には検査役の調査を省略できます。

つまり、会社が借金を背負っている場合、金銭の代わりに株式を渡すということです。

なお、持分会社では検査役の調査の制度は定められていません。

イ × 公開会社が募集株式を発行する場合は取締役会決議を経たのち、割当に関する事項は適宜の業務執行機関によって決定すれば足ります。

つまり、代表取締役の一存で割り当てに関する事項を決定することができます。

しかし、代表取締役の決定を証する書面は添付する必要はありません。

これに対し、募集株式が譲渡制限株式の場合は株式の割当の決定があったことを証する書面が必要です。

ウ 〇 本肢を一言でまとめると、譲渡制限の付いた株主は仲間意識が強いということです。

つまり、新たに譲渡制限種類株式を発行する場合、勝手によそ者が株主になるのを防ぐため譲渡制限の付いた種類の株主で構成する種類株主総会が必要なのです。

しかし、例外がります。以下の2つです。

1.譲渡制限種類株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成する種類株主総会の決議を要しないとする定款の定めがある場合

2.当該種類株主総会において、議決権を行使することができる種類株主が存在しない場合

記述対策としても覚えておきましょう。

エ × 先ほどのウの肢でものべましたが、譲渡制限株式を発行する場合、割当決議は取締役会で行わなければなりません。

よって、本肢は株主総会の議事録を添付してとする点が誤っています。

オ × 本肢を一言でまとめると、登記官には有利発行かどうかは判断できないので、株主総会特別決議を経なくても新株発行の無効原因とはなりません。

ちなみに、有利発行というのは発行する株式を安く発行するというイメージを持っていただいたら結構です。

株主割り当てなら有利発行をしても株主の心情としてはあまり問題ないです。

しかし、第三者割当の場合は有利発行を気軽にされると株主が保有している株価が下がりますから、株主の立場を考慮して特別決議を経ましょうという規定なのです。

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03

ア ○

金銭でない現物出資をする場合は、原則検査役の調査が必要と会社法で定められています。

しかし、例外として検査役の調査が免じられるときがあります。

アの、弁済期が既に到来している金銭債権を、負債の帳簿価額を超えない価額で出資するときもその一つです。

イ ×

公開会社では割当の決定機関は取締役会ですが、代表取締役もすることができます。

この場合、代表取締役が決定したことを証する書面の添付は必要ありません。

ウ ○

株主に株式の割当てを受ける権利を与えないでする募集株式の発行方法を第三者割当てといいます。

ちなみに第三者割当てでは割り当てるのは既存株主であってもなくてもかまいません。

第三者割当ての方法で募集株式を発行する登記を申請するときは、取締役会または株主総会の議事録の添付が必要です。

なぜなら譲渡制限株式では割当てを受ける人を決めるとき、取締役会の決議または株主総会の特別決議が必要なので、決議をしたことを証明するためです。

エ ×

この問題は取締役会設置会社なので、募集株式の発行方法は取締役会において定めます。よって、株主総会の議事録ではなく取締役会の議事録が必要です。

オ ×

株主以外の第三者に募集株式を有利な金額で引き渡すことを有利発行といいます。

有利発行をするときは、取締役会ではなく株主総会の特別決議が必要です。

しかし、取締役会の決議のみで有利発行を行っても新株を発行するときの無効原因にはなりません。

すなわち、株主総会の特別決議に係る議事録を添付しなくてもよいことになっています。

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