選択肢3. イオ
ア・・正しいです。
本来,給与債権の4分の3については,差押えができません(民事執行法152条1項)。しかし,第三債務者が給与を全額供託するのは許されます(民事執行法156条1項,昭和55年9月6日民四5333号)。
実質的に考えても,給与債権の4分の1しか差押えができないのが原則なのに,全額供託されれば,被供託者としても債権的に満足がいくので,これを不可とする理由も特にないからです。
イ・・誤りです。
「金銭債権の全額に相当する金銭を供託」はできません。正しくは,「差し押さえられた部分に相当する金銭」です。
冒頭に記載したとおり,配当要求は,他の差押えに便乗しただけですので,第三債務者は「差し押さえられた部分に相当する金銭」を債務の履行地の供託所に供託しなければならない(民事執行法156条2項)とされています。
ウ・・正しいです。
差押えと仮差押えが競合(差押えと仮差押えのそれぞれの金額を合計した場合に金銭債権の上限を超えること,競合は民事執行法149条参照)した場合には,第三債務者は,当該債権に相当する全額の供託が必要となります(民事執行法156条2項,民事保全法50条6項)。
なぜかといいますと,全額供託しないと配当ができないからです。
さらに,差押えが先で,仮差押えが後の場合でも結論は変わらず,第三債務者は,当該債権に相当する全額の供託が必要です。
エ・・正しいです。
供託金の払渡しは,執行裁判所の配当等の実施としての支払委託によってされます(昭和55年9月6日民四5333号,民事執行法166条1項1号)。
ただし,執行債務者は供託物払渡請求書に差押命令の申立てが取り下げられたこと又は差押命令を取り消す決定の効力が生じたことを証する書面を添付すれば,直接供託金の払渡しを請求することができます(昭和55年9月6日民四5333号)。
先例の文章だけ読むと難しそうに見えますが,以下のように考えるとわかるのではないでしょうか。
「①債権者が回収をあきらめるなどの理由から差押命令が取り下げられているので,執行裁判所が支払委託をすることはないわけです。さらに,②裁判所が発行した差押命令の取下げ等を証する書面を供託所に対する添付書類とすれば,供託所においても裁判所作成の書類には信頼を置くので,直接執行債務者に供託金の払渡しを請求しても問題は生じない。」と考えればよいでしょう。
オ・・誤りです。
「当該金銭債権の全額に相当する金銭を供託しなければならない。」ではなく,「供託することができる」が正しい回答です。
滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律(以下「滞調法」といいます。)20条の61項により,誤りです。
滞納処分による差押えと強制執行による差押えの前後によって結論が変わります。
滞納処分による差押えが先,強制執行による差押えが後・・・「供託することができる」
(語呂合わせ「たいきょうけん」で覚えると覚えやすいです)
強制執行による差押えが先,滞納処分による差押えが後・・・「供託しなければならない」
(上の反対と覚えておけば良いです)
という違いがあります。
これは,頻出なので,ぜひ覚えましょう。
なお,仮差押えの執行と滞納処分による差押えが競合しても,前後は関係なく,その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に第三債務者は,供託できます(滞調法20条の9第1項,36条の12第1項,20条の6第1項)。