選択肢3. イウ
ア・・正しいです。
賃借人が賃貸人に対し賃料を提供したが,賃貸人が受領証書(受取証書)を交付しない場合には,受領拒否を原因として弁済供託をすることができます(昭和39年3月28日民甲773号)。
そもそも賃借人が賃料を提供するという弁済行為を行ったのですから,弁済を受領した賃貸人に対して受取証書の交付を請求できます(民法486条)。民法486条1項によれば,「弁済と引換えに」受取証書の交付を請求できると規定されていますから,弁済と受取証書の交付は,同時履行の関係にあります。
実質的にも賃借人が弁済したにもかかわらず,賃貸人が受取証書を交付しなければ,賃借人が賃料を提供した証拠が得られなくなり,賃借人が弁済したはずの金額について,賃貸人から再度請求を受ける事態が起きかねないので,そのような事態を防止するために,弁済と引換えに受取証書の交付は必要となるからです。
※債権証書の場合は,弁済が先になります。受取証書と異なり,同時履行ではありません。
弁済後に債権者が債権証書の交付をしますので,弁済が先に履行されなければなりません。
イ・・誤りです。
損害額について争いがあるときでも,債権の「全額」であるとしてされた供託金を,被供託者が債権の「一部」として受託する旨を留保して還付請求することができます(昭和35年3月30日民甲775号)。
なぜなら,損害額の一部について債務の一部として受領しても債権の性質が異なるわけではない上,債権者である被供託者の不利益も回避できると考えられるからです。
ウ・・誤りです。
「履行の請求を受けた日から」ではなく,「不法行為時から」にすると選択肢が正しくなります。
不法行為に基づく損害賠償債務の額につき,加害者・被害者間で争いがある場合において,加害者が自ら算出した損害賠償額に不法行為時から提供日までの遅延損害金を付して被害者に提供し,受領を拒否されたときは,加害者は,その合計額を供託することができる(昭和32年4月15日民甲710号,昭和55年6月9日民四3273号)とされています。
エ・・正しいです。
取戻権者は,供託物取戻請求権を放棄できます。供託書の備考欄にその旨を記載するか,供託後に取戻請求権放棄書を供託所に提出する方法により行います。供託物取戻請求権の放棄の撤回はできません(昭和38年8月23日民甲2448号)。
相手方も取戻請求権の放棄をした意思表示に信頼を置くので,その信頼をほごにするような撤回は信義則上許されないからです。
供託受諾の意思表示も撤回できません(昭和37年10月22日民甲3044号)。
(なお,錯誤取消は撤回できます)
ですから,供託において,錯誤取消以外の場合には意思表示の撤回はできないと覚えておきましょう。
オ・・正しいです。
弁済供託においては,供託者が供託物を取り戻す前に被供託者が供託受諾又は還付請求をしたときは,管轄違背の瑕疵が治癒され,当初から有効な供託があったものとして取り扱われます(昭和39年7月20日民甲2594号)。
本来,管轄違いの供託については,移送の制度もないことから却下しなければなりません(供託規則21条の7)が,被供託者が受諾の意思表示又は還付請求という明確な意思表示をした以上,有効なものとして取り扱う方が早いという事例判断と思われます。