大学入学共通テスト(地理歴史) 過去問
令和5年度(2023年度)本試験
問26 (世界史B(第4問) 問6)

このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。

問題

大学入学共通テスト(地理歴史)試験 令和5年度(2023年度)本試験 問26(世界史B(第4問) 問6) (訂正依頼・報告はこちら)

次の資料1~3は、ブリテン島の修道士であったベーダが、731年頃に執筆した著作の一部である。(引用文には、省略したり、改めたりしたところがある。)

資料1
マルキアヌス(注1)が即位した年、有力なゲルマンの三つの民が、三艘の船でブリテン島を訪れた。彼らはサクソン人、アングル人、そしてジュート人(ユート人)であった。
(注1)カルケドン公会議を開いた皇帝。

資料2
私ことベーダが執筆している今のブリテン島には、五つの言語がある。すなわち、アングル人の言語、ブリトン人(注2)の言語、スコット人(注3)の言語、ピクト人(注4)の言語、そしてラテン語である。
(注2)ここでは、ウェールズに住み、ケルト語派の言語を話した人々を指す。
(注3)ここでは、アイルランドやスコットランドに住み、ケルト語派の言語を話した人々を指す。
(注4)スコットランドに住み、ケルト語派の言語を話したとされる。

資料3
ある日ローマの市場において、若き日の教皇グレゴリウス世は、色白で端正な顔立ちの、美しい髪をした少年たちが、売りに出されているのを見かけた。グレゴリウスが彼らはどこから連れてこられたのかと尋ねたところ、ブリテン島からであり、そこの住人は皆このような容姿をしているという。彼は再び尋ねた。その島の住人はキリスト教徒か、それとも異教徒なのかと。彼らは異教徒であるとの返事であった。彼らは何という民なのかと、グレゴリウスはさらに尋ねた。アングル人と呼ばれているということであった。これを聞いてグレゴリウスは言った。「ちょうど良い。彼らは天使の顔をしている。彼らのような人々は天にいる天使を継ぐ者であるべきだ。」(注5)
(注5)発音の類似性から、「アングル人」と「エンジェル(天使)」が掛けられている。

資料1は( エ )と呼ばれる歴史的出来事に関する記述である。そこに登場する「ゲルマンの三つの民」は、出身地とされる北西ドイツとその周辺に由来する言語、すなわち英語(注6)を共通の言語としつつ、ブリテン島で多数の政治的共同体を形成した。それらの統合が進んだのは10世紀半ば、西サクソン人の王によってであった。資料2は、ブリテン島の言語集団についての説明である。ここで注目したいのが、資料1と資料2とでは、「アングル人」の意味する内容に違いがあることである。こうした違いの歴史的背景を教えてくれるのが、資料3である。そこでは若き日にグレゴリウス1世が、ローマで出会ったアングル人に天使を重ね合わせて、彼らへの布教を決意したとされている。a もとの意味に「布教対象の民」という別の意味が加わった結果、「アングル人」は、ベーダの生きた時代には、教会に導かれるキリスト教徒の共同体であると同時に、英語を話す人々を包括的に表す際の用語ともなっていった。彼らの住む地域は、10世紀末には「アングル人の土地」、すなわちイングランドと呼ばれるようになる。
(注6)1100年頃まで話されていた古英語のことを指す。

文章中の空欄エに入れる語句と、資料1と資料2が示す「アングル人」について述べた文あ・いとの組合せとして正しいものを、後の選択肢のうちから一つ選べ。

資料1と資料2が示す「アングル人」について述べた文
あ  大陸から渡来してきた民の一つで、サクソン人やジュート人(ユート人)と並置される集団のことである。
い  サクソン人やジュート人(ユート人)をも含めた、共通の言語を話す集団の総称である。
  • エ:東方植民  資料1:あ  資料2:い
  • エ:東方植民  資料1:い  資料2:あ
  • エ:ゲルマン人の大移動  資料1:あ  資料2:い
  • エ:ゲルマン人の大移動  資料1:い  資料2:あ

次の問題へ

正解!素晴らしいです

残念...

この過去問の解説 (1件)

01

正しい組合せは、

「エ:ゲルマン人の大移動 / 資料1:あ / 資料2:い」 です。


エに入る出来事は、5世紀ごろにゲルマン諸部族が大規模に版図を移したゲルマン人の大移動です。

資料1の「アングル人」はサクソン人・ジュート人と並ぶ一部族を指し、資料2ではサクソン人やジュート人まで含めた英語を話す人々の総称として使われています。

選択肢1. エ:東方植民  資料1:あ  資料2:い

東方植民(ドイツ騎士団などによる中世後期の東方進出)は11〜13世紀の出来事で時期が合いません。

 

選択肢2. エ:東方植民  資料1:い  資料2:あ

東方植民は年代が不適切です。

さらに「アングル人」の用法も逆になっています。

選択肢3. エ:ゲルマン人の大移動  資料1:あ  資料2:い

ゲルマン人の大移動は5世紀前後で、サクソン・アングル・ジュートの渡来と符合します。

・資料1では三民を「並置」しており、あ(部族の一つ)が正しい。

・資料2では「アングル人の言語」が英語全体を指しており、い(総称)が正しい。
よって全体として最も適切です。

選択肢4. エ:ゲルマン人の大移動  資料1:い  資料2:あ

出来事は適切ですが、資料1と資料2で「アングル人」の意味を取り違えています。

まとめ

ベーダが記すように、5世紀のゲルマン人の大移動ではアングル人・サクソン人・ジュート人がブリテン島へ渡来し、それぞれの王国を建てました。

やがて彼らは言語・風俗を共有し、ベーダの時代(8世紀)にはAngli(イングリッシュ)という一括りの呼称が成立します。


この変化が、

・資料1=「アングル人は三部族の一つ」

・資料2=「アングル人は英語系諸部族の総称」
という使い分けを生みました。

王国の統合が進む10世紀末には、彼らの地は「イングランド(アングル人の土地)」と呼ばれるようになり、呼称の広がりが政治的統一へ結びついたことがわかります。

参考になった数0