大学入学共通テスト(地理歴史) 過去問
令和5年度(2023年度)本試験
問28 (世界史B(第4問) 問8)

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問題

大学入学共通テスト(地理歴史)試験 令和5年度(2023年度)本試験 問28(世界史B(第4問) 問8) (訂正依頼・報告はこちら)

次の資料1~3は、ブリテン島の修道士であったベーダが、731年頃に執筆した著作の一部である。(引用文には、省略したり、改めたりしたところがある。)

資料1
マルキアヌス(注1)が即位した年、有力なゲルマンの三つの民が、三艘の船でブリテン島を訪れた。彼らはサクソン人、アングル人、そしてジュート人(ユート人)であった。
(注1)カルケドン公会議を開いた皇帝。

資料2
私ことベーダが執筆している今のブリテン島には、五つの言語がある。すなわち、アングル人の言語、ブリトン人(注2)の言語、スコット人(注3)の言語、ピクト人(注4)の言語、そしてラテン語である。
(注2)ここでは、ウェールズに住み、ケルト語派の言語を話した人々を指す。
(注3)ここでは、アイルランドやスコットランドに住み、ケルト語派の言語を話した人々を指す。
(注4)スコットランドに住み、ケルト語派の言語を話したとされる。

資料3
ある日ローマの市場において、若き日の教皇グレゴリウス世は、色白で端正な顔立ちの、美しい髪をした少年たちが、売りに出されているのを見かけた。グレゴリウスが彼らはどこから連れてこられたのかと尋ねたところ、ブリテン島からであり、そこの住人は皆このような容姿をしているという。彼は再び尋ねた。その島の住人はキリスト教徒か、それとも異教徒なのかと。彼らは異教徒であるとの返事であった。彼らは何という民なのかと、グレゴリウスはさらに尋ねた。アングル人と呼ばれているということであった。これを聞いてグレゴリウスは言った。「ちょうど良い。彼らは天使の顔をしている。彼らのような人々は天にいる天使を継ぐ者であるべきだ。」(注5)
(注5)発音の類似性から、「アングル人」と「エンジェル(天使)」が掛けられている。

資料1は( エ )と呼ばれる歴史的出来事に関する記述である。そこに登場する「ゲルマンの三つの民」は、出身地とされる北西ドイツとその周辺に由来する言語、すなわち英語(注6)を共通の言語としつつ、ブリテン島で多数の政治的共同体を形成した。それらの統合が進んだのは10世紀半ば、西サクソン人の王によってであった。資料2は、ブリテン島の言語集団についての説明である。ここで注目したいのが、資料1と資料2とでは、「アングル人」の意味する内容に違いがあることである。こうした違いの歴史的背景を教えてくれるのが、資料3である。そこでは若き日にグレゴリウス1世が、ローマで出会ったアングル人に天使を重ね合わせて、彼らへの布教を決意したとされている。a もとの意味に「布教対象の民」という別の意味が加わった結果、「アングル人」は、ベーダの生きた時代には、教会に導かれるキリスト教徒の共同体であると同時に、英語を話す人々を包括的に表す際の用語ともなっていった。彼らの住む地域は、10世紀末には「アングル人の土地」、すなわちイングランドと呼ばれるようになる。
(注6)1100年頃まで話されていた古英語のことを指す。

下線部aに関連して、キリスト教が社会に与えた影響について述べた文として最も適当なものを、次の選択肢のうちから一つ選べ。
  • クローヴィスの改宗によって、フランク王国は、先住のノルマン人の支持を得ることができた。
  • 聖職者(司祭)のジョン=ボールが、「アダムが耕しイヴが紡いだとき、だれが貴族(領主)であったか」と説教し、農民一揆を指導した。
  • コンスタンティヌス帝は、勢力を増したキリスト教徒を統治に取り込むために、統一法を発布した。
  • ボニファティウス8世の提唱した第1回十字軍に、ヨーロッパ各地の諸侯や騎士が参加した。

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この過去問の解説 (1件)

01

正しいのは、

「聖職者ジョン=ボールが『アダムが耕しイヴが紡いだとき、だれが貴族であったか』と説教し、農民一揆を指導した」 です。


ジョン=ボールは14世紀イングランドで起きた1381年の農民反乱(ワット・タイラーの乱)に参加し、平等を説くキリスト教の言葉を用いて農民を鼓舞しました。

キリスト教の教えが社会批判や身分秩序への異議申し立てに使われた代表例といえます。

選択肢1. クローヴィスの改宗によって、フランク王国は、先住のノルマン人の支持を得ることができた。

クローヴィスは5世紀末にカトリックへ改宗し、ガリアのローマ系住民や聖職者の支持を得ました。

ノルマン人が北フランスに住み着くのは9~10世紀で、時代が大きくずれます。

選択肢2. 聖職者(司祭)のジョン=ボールが、「アダムが耕しイヴが紡いだとき、だれが貴族(領主)であったか」と説教し、農民一揆を指導した。

1381年、重税に苦しむ農民がロンドンへ進軍した際、聖職者ジョン=ボールが聖書を引用し「人間は皆同じく神の子」と語りました。

キリスト教の平等観が社会運動に影響した事実と一致します。

選択肢3. コンスタンティヌス帝は、勢力を増したキリスト教徒を統治に取り込むために、統一法を発布した。

313年のミラノ勅令で信仰の自由を認めたのは事実ですが、ここで言う「統一法」は存在しません。

国家宗教化を定めたのは380年のテオドシウス帝による勅令です。

選択肢4. ボニファティウス8世の提唱した第1回十字軍に、ヨーロッパ各地の諸侯や騎士が参加した。

第1回十字軍を呼びかけたのは1095年のウルバヌス2世です。

ボニファティウス8世(1294~1303年)はまったく別時代の教皇です。

まとめ

キリスト教は王権の正当化(クローヴィス)、法制度の整備(ミラノ勅令)、対外遠征(十字軍)など多方面で中世社会を形づくりました。

その一方で、ジョン=ボールの説教のように、聖書の平等思想が社会下層の不満と結び付くこともありました。

本問は、こうした多彩な影響の中から「身分秩序への批判」という側面をとらえると判断しやすくなります。

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