大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和5年度(2023年度)追・再試験
問24 (第3問(古文) 問2)
問題文
次の文章は『石清水(いわしみず)物語』の一節である。男君(本文では「中納言」)は木幡(こわた)の姫君に恋心を抱くが、異母妹であることを知って苦悩している。一方、男君の父・関白(本文では「殿」)は、院の意向を受け入れ、院の娘・女二の宮(本文では「宮」「女宮」ともいう)と男君との婚儀の準備を進めていた。本文はそれに続く場面である。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に①〜⑤の番号を付してある。
① 中納言はかかるにつけても、人知れぬ心の内には、あるまじき思ひのみやむ世なく、苦しくなりゆくを、強ひて思ひ冷ましてのみ月日を送り給(たま)ふに、宮の御かたちの名高く聞き置きたれば、同じくは、A ものの嘆かしさの紛るばかりに見なし聞こえばやとぞ思(おぼ)しける。官位(つかさくらゐ)の短きを飽かぬことに思しめされて、権(ごん)大納言になり給ひぬ。春の中納言(注1)も、例の同じくなり給ひて、喜び申し(注2)も劣らずし給へど、及ばぬ枝(注3)の一つことに、よろづすさまじくおぼえ給ひけり。
② 神無月十日余りに、女二の宮に参り給ふ。心おごり、言へばさらなり。まづ忍びて三条院(注4)へ参り給ふ。(ア)さらぬほどの所にだに、心殊(こと)なる用意のみおはする人なるに、ましておろかならむやは。こちたきまで薫(た)きしめ給ひて、ひき繕ひて出(い)で給ふ直衣(なほし)姿、なまめかしく、心殊なる用意など、まことに帝の御婿と言はむにかたほならず、宮と聞こゆるとも、おぼろけならむ御かたちにては、並びにくげなる人の御さまなり。忍びたれど、御前(ごぜん)(注5)などあまたにて出でさせ給ふに、大宮(注6)おはせましかば、いかに面立(おもだ)たしく思し喜ばむと、殿はまづ思ひ出で聞こえ給ふ。
③ 院には、待ち取らせ給ふ御心づかひなのめならず。宮の御さまを、(イ)いつしかゆかしう思ひ聞こえ給ふに、御殿油(おほとなぶら)、火ほのかにて、御几帳(きちゃう)の内におはします火影は、まづけしうはあらじはやと見えて、御髪(みぐし)のかかりたるほど、めでたく見ゆ。まして、近き御けはひの、推し量りつるに違(たが)はず、らうたげにおほどかなる御さまを、心落ちゐて、思ひの外に近づき寄りたり道の迷ひ(注7)にも、よそへぬべき心地する人ざまにおはしますにも、まづ思ひ出でられて、B いかなる方にかと、人の結ばむことさへ思ひつづけらるるぞ、我ながらうたてと思ひ知らるる。
④ 明けぬれば、いと疾(と)く出で給ひて、やがて御文奉り給ふ。
「今朝はなほしをれぞまさる女郎花(をみなへし)いかに置きける露の名残ぞ
いつも時雨(しぐれ)は(注8)」とあり。御返しそそのかし申させ給へば、いとつつましげに、ほのかにて、
「今朝のみやわきて時雨(しぐ)れむ女郎花霜がれわたる野辺のならひを」
とて、うち置かせ給へるを、包みて出だしつ。御使ひは女の装束、細長など、例のことなり。御手などさへ、なべてならずをかしげに書きなし給へれば、待ち見給ふも、よろづに思ふやうなりと思すべし。
⑤ かくて三日過ぐして、殿(注9)へ入らせ給ふ儀式、殊なり。寝殿の渡殿(わたどの)かけて、御しつらひあり。女房二十人、童(わらは)四人、下仕へなど、見どころ多くいみじ。女宮の御さま、のどかに見奉り給ふに、いみじう盛りに調ひて、思ひなしも気高く、らうらうじきもののなつかしげに、(ウ)おくれたるところなくうつくしき人のさまにて、御髪は袿(うちき)の裾にひとしくて、影見ゆばかりきらめきかかりたるほどなど、限りなし。人知れず心にかかる木幡の里にも並び給ふべしと見ゆるに、御心落ちゐて、いとかひありと思したり。
(注1)春の中納言 ―― 男君のライバル。女二の宮との結婚を望んでいた。
(注2)喜び申し ―― 官位を授けられた者が宮中に参上して感謝の意を表すること。
(注3)及ばぬ枝 ―― 女二の宮との結婚に手が届かなかったことを指す。
(注4)三条院―― 女二の宮と院の住まい。女二の宮の結婚が決まった後、帝の位を退いた院は、この邸(やしき)で女二の宮と暮らしている。
(注5)御前 ―― ここでは、貴人の通行のとき、道の前方にいる人々を追い払う人。
(注6)大宮 ―― 男君の亡き母宮。
(注7)思ひの外に近づき寄りたりし道の迷ひ―― 前年の春に出会って以来、男君が恋心を抱き続けている木幡の姫君のことを指す。
(注8)いつも時雨は ―― 「神無月いつも時雨は降りしかどかく袖ひつる折はなかりき」という和歌をふまえる。
(注9)殿 ―― 男君の住む邸宅。
下線部イの解釈として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
(イ) いつしかゆかしう
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問題
大学入学共通テスト(国語)試験 令和5年度(2023年度)追・再試験 問24(第3問(古文) 問2) (訂正依頼・報告はこちら)
次の文章は『石清水(いわしみず)物語』の一節である。男君(本文では「中納言」)は木幡(こわた)の姫君に恋心を抱くが、異母妹であることを知って苦悩している。一方、男君の父・関白(本文では「殿」)は、院の意向を受け入れ、院の娘・女二の宮(本文では「宮」「女宮」ともいう)と男君との婚儀の準備を進めていた。本文はそれに続く場面である。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に①〜⑤の番号を付してある。
① 中納言はかかるにつけても、人知れぬ心の内には、あるまじき思ひのみやむ世なく、苦しくなりゆくを、強ひて思ひ冷ましてのみ月日を送り給(たま)ふに、宮の御かたちの名高く聞き置きたれば、同じくは、A ものの嘆かしさの紛るばかりに見なし聞こえばやとぞ思(おぼ)しける。官位(つかさくらゐ)の短きを飽かぬことに思しめされて、権(ごん)大納言になり給ひぬ。春の中納言(注1)も、例の同じくなり給ひて、喜び申し(注2)も劣らずし給へど、及ばぬ枝(注3)の一つことに、よろづすさまじくおぼえ給ひけり。
② 神無月十日余りに、女二の宮に参り給ふ。心おごり、言へばさらなり。まづ忍びて三条院(注4)へ参り給ふ。(ア)さらぬほどの所にだに、心殊(こと)なる用意のみおはする人なるに、ましておろかならむやは。こちたきまで薫(た)きしめ給ひて、ひき繕ひて出(い)で給ふ直衣(なほし)姿、なまめかしく、心殊なる用意など、まことに帝の御婿と言はむにかたほならず、宮と聞こゆるとも、おぼろけならむ御かたちにては、並びにくげなる人の御さまなり。忍びたれど、御前(ごぜん)(注5)などあまたにて出でさせ給ふに、大宮(注6)おはせましかば、いかに面立(おもだ)たしく思し喜ばむと、殿はまづ思ひ出で聞こえ給ふ。
③ 院には、待ち取らせ給ふ御心づかひなのめならず。宮の御さまを、(イ)いつしかゆかしう思ひ聞こえ給ふに、御殿油(おほとなぶら)、火ほのかにて、御几帳(きちゃう)の内におはします火影は、まづけしうはあらじはやと見えて、御髪(みぐし)のかかりたるほど、めでたく見ゆ。まして、近き御けはひの、推し量りつるに違(たが)はず、らうたげにおほどかなる御さまを、心落ちゐて、思ひの外に近づき寄りたり道の迷ひ(注7)にも、よそへぬべき心地する人ざまにおはしますにも、まづ思ひ出でられて、B いかなる方にかと、人の結ばむことさへ思ひつづけらるるぞ、我ながらうたてと思ひ知らるる。
④ 明けぬれば、いと疾(と)く出で給ひて、やがて御文奉り給ふ。
「今朝はなほしをれぞまさる女郎花(をみなへし)いかに置きける露の名残ぞ
いつも時雨(しぐれ)は(注8)」とあり。御返しそそのかし申させ給へば、いとつつましげに、ほのかにて、
「今朝のみやわきて時雨(しぐ)れむ女郎花霜がれわたる野辺のならひを」
とて、うち置かせ給へるを、包みて出だしつ。御使ひは女の装束、細長など、例のことなり。御手などさへ、なべてならずをかしげに書きなし給へれば、待ち見給ふも、よろづに思ふやうなりと思すべし。
⑤ かくて三日過ぐして、殿(注9)へ入らせ給ふ儀式、殊なり。寝殿の渡殿(わたどの)かけて、御しつらひあり。女房二十人、童(わらは)四人、下仕へなど、見どころ多くいみじ。女宮の御さま、のどかに見奉り給ふに、いみじう盛りに調ひて、思ひなしも気高く、らうらうじきもののなつかしげに、(ウ)おくれたるところなくうつくしき人のさまにて、御髪は袿(うちき)の裾にひとしくて、影見ゆばかりきらめきかかりたるほどなど、限りなし。人知れず心にかかる木幡の里にも並び給ふべしと見ゆるに、御心落ちゐて、いとかひありと思したり。
(注1)春の中納言 ―― 男君のライバル。女二の宮との結婚を望んでいた。
(注2)喜び申し ―― 官位を授けられた者が宮中に参上して感謝の意を表すること。
(注3)及ばぬ枝 ―― 女二の宮との結婚に手が届かなかったことを指す。
(注4)三条院―― 女二の宮と院の住まい。女二の宮の結婚が決まった後、帝の位を退いた院は、この邸(やしき)で女二の宮と暮らしている。
(注5)御前 ―― ここでは、貴人の通行のとき、道の前方にいる人々を追い払う人。
(注6)大宮 ―― 男君の亡き母宮。
(注7)思ひの外に近づき寄りたりし道の迷ひ―― 前年の春に出会って以来、男君が恋心を抱き続けている木幡の姫君のことを指す。
(注8)いつも時雨は ―― 「神無月いつも時雨は降りしかどかく袖ひつる折はなかりき」という和歌をふまえる。
(注9)殿 ―― 男君の住む邸宅。
下線部イの解釈として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
(イ) いつしかゆかしう
- いつ見られるかと
- こっそり覗(のぞ)こうと
- 早く目にしたいと
- 焦って調べようと
- すぐ明白になると
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この過去問の解説 (2件)
01
本文中では、
「いつしか」はその後に願望や意思を表す語を伴って「はやく」という意味で使われています。
「さり」は「そうである」という意味であり、
それを打ち消しているため「そのようではない」という意味になります。
「ゆかしう」は「見たい」という意味です。
「ゆかし」の連用形です。
つまり「いつしかゆかしう」は「早く見たい」という意味になります。
そのことを踏まえて各選択肢を検討していきます。
「見られる」という意味になるためには可能の助動詞である「る」や「らる」が必要です。
よって不適です。
「いつしかゆかしう」には「こっそり」に関する語がありません。
よって不適です。
「早く見たい」という意味に近いです。
よって適切です。
「ゆかし」に「調べよう」という意味はありません。
よって不適です。
「ゆかし」に「明白となる」という意味はありません。
よって不適です。
「ゆかし」は「見たい」という意味だけでなく、
「心惹かれる」や「行きたい」などの意味があります。
この文の前後の「待ち取らせ」や「めでたく見ゆ」からも、
見るのを待ち遠しく思うという文脈であることを読み取れます。
語の意味だけでなく文章の文脈から選択肢を絞ることができる可能性もあります。
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02
「いつしか」も「ゆかし」も基礎基本の古文単語ですので、その現代語の意味を覚えておきましょう。
「いつしか」は「いつになったら」という待ち遠しい様子を表す言葉ですが、下に願望の言葉がつくと「早く」と訳すことが多いです。
「ゆかし」は「見たい、聞きたい、知りたい」などの願望を表す動詞です。
よって、これらから最も適当な答えは「早く目にしたいと」になります。
「見られるか」の「られる」の部分が受身なのか可能なのかは定かではないですが、その両方の意味を表す助動詞は「る」「らる」です。
しかし、その助動詞は傍線部にはないため、この選択肢は誤りです。
「いつしか」にこっそりという意味はないため、不適です。
「いつしか」を「焦って」と訳すのは誤りですが、意訳と言われると完全に否定するのもやや難しい範疇とは思います。
しかし、そこを看過するとしても「ゆかし」を「調べよう」と訳すと願望のニュアンスが薄くなってしまい、これもまた誤りの感が強くなってしまいます。
単語一つずつを取り上げると惜しい部分もありますが、二つ合わせるとやはり不適と言わざるを得ません。
「ゆかし」に「明白となると」の意味はありません。よって誤りです。
「ゆかし」の一番基本的な訳である「見たい」を覚えていれば、ほぼ解ける問題でした。
基本的な単語の暗記を疎かにすることなく備えてください。
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