大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和5年度(2023年度)追・再試験
問30 (第3問(古文) 問8)

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問題

大学入学共通テスト(国語)試験 令和5年度(2023年度)追・再試験 問30(第3問(古文) 問8) (訂正依頼・報告はこちら)

次の文章は『石清水(いわしみず)物語』の一節である。男君(本文では「中納言」)は木幡(こわた)の姫君に恋心を抱くが、異母妹であることを知って苦悩している。一方、男君の父・関白(本文では「殿」)は、院の意向を受け入れ、院の娘・女二の宮(本文では「宮」「女宮」ともいう)と男君との婚儀の準備を進めていた。本文はそれに続く場面である。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に①〜⑤の番号を付してある。

① 中納言はかかるにつけても、人知れぬ心の内には、あるまじき思ひのみやむ世なく、苦しくなりゆくを、強ひて思ひ冷ましてのみ月日を送り給(たま)ふに、宮の御かたちの名高く聞き置きたれば、同じくは、A ものの嘆かしさの紛るばかりに見なし聞こえばやとぞ思(おぼ)しける。官位(つかさくらゐ)の短きを飽かぬことに思しめされて、権(ごん)大納言になり給ひぬ。春の中納言(注1)も、例の同じくなり給ひて、喜び申し(注2)も劣らずし給へど、及ばぬ枝(注3)の一つことに、よろづすさまじくおぼえ給ひけり。
② 神無月十日余りに、女二の宮に参り給ふ。心おごり、言へばさらなり。まづ忍びて三条院(注4)へ参り給ふ。(ア)さらぬほどの所にだに、心殊(こと)なる用意のみおはする人なるに、ましておろかならむやは。こちたきまで薫(た)きしめ給ひて、ひき繕ひて出(い)で給ふ直衣(なほし)姿、なまめかしく、心殊なる用意など、まことに帝の御婿と言はむにかたほならず、宮と聞こゆるとも、おぼろけならむ御かたちにては、並びにくげなる人の御さまなり。忍びたれど、御前(ごぜん)(注5)などあまたにて出でさせ給ふに、大宮(注6)おはせましかば、いかに面立(おもだ)たしく思し喜ばむと、殿はまづ思ひ出で聞こえ給ふ。
③ 院には、待ち取らせ給ふ御心づかひなのめならず。宮の御さまを、(イ)いつしかゆかしう思ひ聞こえ給ふに、御殿油(おほとなぶら)、火ほのかにて、御几帳(きちゃう)の内におはします火影は、まづけしうはあらじはやと見えて、御髪(みぐし)のかかりたるほど、めでたく見ゆ。まして、近き御けはひの、推し量りつるに違(たが)はず、らうたげにおほどかなる御さまを、心落ちゐて、思ひの外に近づき寄りたり道の迷ひ(注7)にも、よそへぬべき心地する人ざまにおはしますにも、まづ思ひ出でられて、B いかなる方にかと、人の結ばむことさへ思ひつづけらるるぞ、我ながらうたてと思ひ知らるる
④ 明けぬれば、いと疾(と)く出で給ひて、やがて御文奉り給ふ。
「今朝はなほしをれぞまさる女郎花(をみなへし)いかに置きける露の名残ぞ
いつも時雨(しぐれ)は(注8)」とあり。御返しそそのかし申させ給へば、いとつつましげに、ほのかにて、
「今朝のみやわきて時雨(しぐ)れむ女郎花霜がれわたる野辺のならひを」
とて、うち置かせ給へるを、包みて出だしつ。御使ひは女の装束、細長など、例のことなり。御手などさへ、なべてならずをかしげに書きなし給へれば、待ち見給ふも、よろづに思ふやうなりと思すべし。
⑤ かくて三日過ぐして、殿(注9)へ入らせ給ふ儀式、殊なり。寝殿の渡殿(わたどの)かけて、御しつらひあり。女房二十人、童(わらは)四人、下仕へなど、見どころ多くいみじ。女宮の御さま、のどかに見奉り給ふに、いみじう盛りに調ひて、思ひなしも気高く、らうらうじきもののなつかしげに、(ウ)おくれたるところなくうつくしき人のさまにて、御髪は袿(うちき)の裾にひとしくて、影見ゆばかりきらめきかかりたるほどなど、限りなし。人知れず心にかかる木幡の里にも並び給ふべしと見ゆるに、御心落ちゐて、いとかひありと思したり。

(注1)春の中納言 ―― 男君のライバル。女二の宮との結婚を望んでいた。
(注2)喜び申し ―― 官位を授けられた者が宮中に参上して感謝の意を表すること。
(注3)及ばぬ枝 ―― 女二の宮との結婚に手が届かなかったことを指す。
(注4)三条院―― 女二の宮と院の住まい。女二の宮の結婚が決まった後、帝の位を退いた院は、この邸(やしき)で女二の宮と暮らしている。
(注5)御前 ―― ここでは、貴人の通行のとき、道の前方にいる人々を追い払う人。
(注6)大宮 ―― 男君の亡き母宮。
(注7)思ひの外に近づき寄りたりし道の迷ひ―― 前年の春に出会って以来、男君が恋心を抱き続けている木幡の姫君のことを指す。
(注8)いつも時雨は ―― 「神無月いつも時雨は降りしかどかく袖ひつる折はなかりき」という和歌をふまえる。
(注9)殿 ―― 男君の住む邸宅。

Nさんのクラスでは、授業で本文を読んだ後、本文の表現について理解を深めるために、教師から配られた【学習プリント】をもとに、グループで話し合うことになった。このことについて、後の問いに答えよ。

【学習プリント】
下線部B「いかなる方にかと、人の結ばむことさへ思ひつづけらるるぞ、我ながらうたてと思ひ知らるる」の「人の結ばむこと」は、以下にあげる『伊勢物語』の和歌Ⅰをふまえた表現です。

むかし、男、妹のいとをかしげなりけるを見をりて、
Ⅰ うら若みねよげに見ゆる若草を人の結ばむことをしぞ思ふ
と聞こえけり。返し、
Ⅱ 初草のなどめづらしき言の葉ぞうらなくものを思ひけるかな

[ステップ1]
和歌Ⅰの「うら若みね上げに見ゆる若草」には、「引き結んで枕にすれば、いかにも寝心地が良さそうな若草」という意味がありますが、ほかに別の意味が込められています。それが何かを示して、兄(ここにあげた『伊勢物語』の本文では「男」)が妹に何を伝えたかったかを話し合ってみましょう。
[ステップ2]
ステップ1での話し合いをふまえて、下線部Bに表現された男君の心情について話し合ってみましょう。

Nさんのグループでは、[ステップ2]の話し合いを行い、その結果を教師に提出した。下線部Bに表現された男君の心情として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。

  • 自分が女二の宮と結婚したことで、妹である木幡の姫君の結婚に意見を言う立場ではなくなったので、これを機に妹への思いを諦めようとしている。
  • 妹と釣り合う相手はいないと思っていたが、女二の宮との結婚後は、兄として木幡の姫君の結婚を願うようになり、自らの心境の変化に呆(あき)れている。
  • 女二の宮と結婚しても妹である木幡の姫君への思いを引きずっており、妹の将来の結婚相手のことまで想像してしまう自分自身に嫌気がさしている。
  • 娘の結婚相手として自分を認めてくれた院の複雑な親心が理解できるようになり、妹である木幡の姫君が結婚する将来を想像して感慨に耽(ふけ)っている。

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この過去問の解説 (2件)

01

傍線部Bを見ると、
伊勢物語の男と同じことを思い、
それに対して「我ながらうたてと思ひ知らるる」となったことが分かります。
「うたて」は「いやだ」や「情けない」という意味です。
以上から傍線部Bは、
「他人が妹と結婚することを想像して、我ながら情けない(自分がいやだ)と思う」という内容であると考えられます。
以上のことを踏まえて各選択肢を検討していきましょう。

選択肢1. 自分が女二の宮と結婚したことで、妹である木幡の姫君の結婚に意見を言う立場ではなくなったので、これを機に妹への思いを諦めようとしている。

「これを機に妹への思いを諦めようとしている」という部分が不適です。
本文ではこの時点では妹への思いを諦めようとはしていません。
諦めたと分かるのは⑤の時点です。

選択肢2. 妹と釣り合う相手はいないと思っていたが、女二の宮との結婚後は、兄として木幡の姫君の結婚を願うようになり、自らの心境の変化に呆(あき)れている。

「兄として木幡の姫君の結婚を願うようになり」という部分が不適です。
伊勢物語の男の歌をふまえているため、
妹への恋心がある状態です。
妹の結婚を願うことはできていません。

選択肢3. 女二の宮と結婚しても妹である木幡の姫君への思いを引きずっており、妹の将来の結婚相手のことまで想像してしまう自分自身に嫌気がさしている。

適切です。
「木幡の姫君への思いを引きずっており」という部分は、
男君が妹への恋心がある状態であることから適切であると考えられます。
「妹の将来の結婚相手のことまで想像してしまう自分自身に嫌気がさしている」という部分は、
「人の結ばむこと」や「うたて」の意味が正しいです。

選択肢4. 娘の結婚相手として自分を認めてくれた院の複雑な親心が理解できるようになり、妹である木幡の姫君が結婚する将来を想像して感慨に耽(ふけ)っている。

「木幡の姫君が結婚する将来を想像して感慨に耽っている」という部分が不適です。
「うたて」に「感慨に耽る」という意味はありません。

まとめ

「うたて」の意味が分かれば簡単に解ける問題でした。
しかし、
「うたて」の意味が分からなくても、
[ステップ1]の内容をふまえることでも選択肢を絞ることができます。

参考になった数0

02

たしかに、この傍線部Bまで丁寧に読むことが出来ていれば、この伊勢物語の和歌が有効なヒントになるとは思います。

ただ、ここまで丁寧に読めていれば【学習プリント】を踏まえなくてもおおよその意味はとれます。

 

傍線部Bの中にある「結ぶ」は「つなぐ」などの意味のほか「関係をつける、約束する」「かたちづくる」などの意味があります。

ここで、自分の妹であることがわかった木幡の姫が「いかなる方」と「結ぶ」のかを「思ひつづけらるる」と解することができれば、傍線部はかなり意味がとれるのではないでしょうか。

そして、そのように思い続けることを男君は「我ながらうたて」と思うわけです。「うたて」は「いやだ、情けない」「気の毒だ」などの意味です。

 

なお、【学習プリント】の和歌Ⅰは「若草」が「妹」のことを指しています。古文の時代においては、兄妹であっても同じ家に住まないことはあり得ましたので、久々に会った時に異性に対して思うような感情を抱くこともあり得た、ということかと思います。

 

というわけで、これは男君が、木幡の姫君が妹であるとわかってもなお思いを完全に断ち切れず、妹と結婚するのはどんな人だろうかなどと考え続けてしまうことを嫌だと我ながら思っている部分となりますので、正解は「女二の宮と結婚しても妹である木幡の姫君への思いを引きずっており、妹の将来の結婚相手のことまで想像してしまう自分自身に嫌気がさしている」です。

 

選択肢1. 自分が女二の宮と結婚したことで、妹である木幡の姫君の結婚に意見を言う立場ではなくなったので、これを機に妹への思いを諦めようとしている。

そもそも、結婚をするとどうして妹の結婚に意見を言う立場でなくなるのか、理由がわかるようでわかりません。

ただ、本文に依拠しないで判断するのはよろしくない解法ですので、あらためて見てみると、「思ひつづけらるる」とあるように、思い続けることが「うたて」と言っているので、「諦める」とは書いていません。よってこの選択肢は誤りです。

選択肢2. 妹と釣り合う相手はいないと思っていたが、女二の宮との結婚後は、兄として木幡の姫君の結婚を願うようになり、自らの心境の変化に呆(あき)れている。

「うたて」を「呆れる」と捉えるのは意訳としてはまだ許容範囲かもしれません。

しかし、注の部分で未だに男君は木幡の姫君に思いを寄せているとあります。

それがいきなり「結婚を願うようになり」と心変わりするとは読み取れません。迷うかもしれませんが、この選択肢は不適です。

また、この本文でどうしても判断がつかない場合は、【学習プリント】の和歌を参考にするのが良いでしょう。

選択肢4. 娘の結婚相手として自分を認めてくれた院の複雑な親心が理解できるようになり、妹である木幡の姫君が結婚する将来を想像して感慨に耽(ふけ)っている。

「うたて」の「嫌な気持ちになる」という部分が「感慨に耽っている」では全く表現されていません。よって不適です。

まとめ

文章量が多く、瞬発的な思考で問題を解いていかないと時間内に終わらないのが共通テストの特徴です。

この問題のように、設問の文が新たに出されたとして、それを読んでゆっくり考えることは本来は悪いことではありません。

しかし、その割には問題を解くための時間がとにかく少ないので、「うたて」の訳など、瞬間的に判断できる部分で選択肢を絞り込むなどの読み方も活用するようにしましょう。

参考になった数0