大学入学共通テスト(公民) 過去問
令和4年度(2022年度)本試験
問51 (倫理(第3問) 問5)
問題文
Ⅰ 次の会話は、「考えること」をテーマにした倫理の授業中に、ルネサンス期の「魔女狩り」の光景を描いた絵画をめぐって先生と高校生Fが交わしたものである。
先生:魔女狩りでは、国家とキリスト教会に一般の人々も数多く加わって、罪のない人々を魔女とみなし、この絵のように火刑に処するなどしました。
F:人間「再生」の時代と言われるa ルネサンス期にも、こんな側面があったのですね…。人々は、自分が間違っていると考えなかったのかな。
先生:そう、多くの人々が自分たちの判断に正当な根拠があるかを考えず、ある種の思考停止状態に陥って少数の人々を迫害したのが魔女狩りであったとすれば、同様なことは今日でも十分に起こり得るでしょう。
F:例えば、( a )ような場合ですね。考えることを止(や)めてしまったら、自分も現代版の魔女狩りに加担しかねない…。他人事(ひとごと)ではないなあ。
Ⅱ 次の会話は、授業の後にFとクラスメートのGが交わしたものである。
F:思考停止って怖いね。でも、知識さえあれば、b 他人の意見などを鵜呑(うの)みにせず、疑ってみることもできるから、思考停止も避けられるよ。
G:それはどうだろう。例えばこんな言葉があるよ。「あらゆることについて読書した人たちは、同時にあらゆることを理解していると考えられていますが、必ずしもそうではありません。読書は心に知識の素材を提供するだけであり、思考こそが、私たちが読んだものを自分のものにします」。
F:そうか…。知識だけがあればいいってことじゃないのか。これ、誰の言葉?
G:ほら、『人間知性論』を書き、人間の心を「白紙」になぞらえた思想家だよ。
F:ああ、それは( b )んだった。「白紙」は人間が知識を獲得する仕方を一般的に説明するための比喩だったね。その上で、この言葉は、自分の頭で考えることを通してこそ、知識は借り物ではなく、本当に自分のものになると述べているんだね。
Ⅲ 次の会話は、Ⅱの会話の後で、F、G、先生が交わしたものである。
F:考える大切さは分かったけど、考えって人それぞれで違うよね。私は、人と意見が違って衝突しそうになると、自分の考えは脇に置いて相手に従おうとしてしまうんだ。対立して人を傷つけたくないし、自分も傷つきたくないから。
G:でも、c ヘーゲルの弁証法によれば対立にも重要な意味があるって、授業で勉強したよ。対立があればこそ物事は展開するんだって。それに、衝突を恐れるあまり、自分の考えを蔑(ないがし)ろにしてしまっていいのかな。
F:そうだね…。私も、実を言えば、そうして人に合わせるのは、自分自身から目を背けることのような気がしてたんだ。
G:そんな気がするっていうのが大事だと思う。その気にさえなれば、自分を偽らずに相手と向き合い、考えを進めていけるってことだから。d ヤスパースも、「実存的な交わり」が人間には必要だって言っていたね!
先生:考えを進める上で、他の人の存在はもちろん重要です。ただ、考えはあくまでも自分自身の中で深まるものだという点を忘れたくないですね。
G:どういうことでしょう。自分一人ではなかなか考えも深まっていかないように思うのですが…。
先生:日常生活で、何かが心に引っ掛かって残り続けた経験はありませんか。
F:あります。友人にかけた自分の言葉が、それで本当によかったのかずっと気になったり、読んでいた本の一節が、なぜか忘れられなかったり…。
先生:そのとき、なぜ気になったのか、忘れられないのかと自分自身に問いかけることが、考えを深める手掛かりになるでしょう。誰もが同じことに引っ掛かるわけではないのだから、自分の心に残ったものは、他の誰でもなくあなた自身の考えを深めていくための出発点になるのです。
F:心に引っ掛かったことをやり過ごさず、e 立ち止まって考えることで、自分の考えをいっそう深めていける、ということですね。分かってきたけど、まだ少し引っ掛かるなあ…。あれ、これってもしかして…?
先生:それです!
下線部cに関して、次のア・イはヘーゲルの弁証法についての説明である。その正誤の組合せとして正しいものを、後のうちから一つ選べ。
ア 弁証法は、精神が自由を実現する過程を貫く論理である。全て存在するものはそれ自身と矛盾するものを内に含み、それとの対立を通して高次の段階に至る。この運動は個人のみならず社会や歴史の進展にも認められる。
イ 止揚は、否定と保存の意味を併せ持つ言葉である。弁証法において止揚するとは、対立・矛盾する二つのもののうち、真理に近い方を保存し、他方を廃棄して、矛盾を解消することである。

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問題
大学入学共通テスト(公民)試験 令和4年度(2022年度)本試験 問51(倫理(第3問) 問5) (訂正依頼・報告はこちら)
Ⅰ 次の会話は、「考えること」をテーマにした倫理の授業中に、ルネサンス期の「魔女狩り」の光景を描いた絵画をめぐって先生と高校生Fが交わしたものである。
先生:魔女狩りでは、国家とキリスト教会に一般の人々も数多く加わって、罪のない人々を魔女とみなし、この絵のように火刑に処するなどしました。
F:人間「再生」の時代と言われるa ルネサンス期にも、こんな側面があったのですね…。人々は、自分が間違っていると考えなかったのかな。
先生:そう、多くの人々が自分たちの判断に正当な根拠があるかを考えず、ある種の思考停止状態に陥って少数の人々を迫害したのが魔女狩りであったとすれば、同様なことは今日でも十分に起こり得るでしょう。
F:例えば、( a )ような場合ですね。考えることを止(や)めてしまったら、自分も現代版の魔女狩りに加担しかねない…。他人事(ひとごと)ではないなあ。
Ⅱ 次の会話は、授業の後にFとクラスメートのGが交わしたものである。
F:思考停止って怖いね。でも、知識さえあれば、b 他人の意見などを鵜呑(うの)みにせず、疑ってみることもできるから、思考停止も避けられるよ。
G:それはどうだろう。例えばこんな言葉があるよ。「あらゆることについて読書した人たちは、同時にあらゆることを理解していると考えられていますが、必ずしもそうではありません。読書は心に知識の素材を提供するだけであり、思考こそが、私たちが読んだものを自分のものにします」。
F:そうか…。知識だけがあればいいってことじゃないのか。これ、誰の言葉?
G:ほら、『人間知性論』を書き、人間の心を「白紙」になぞらえた思想家だよ。
F:ああ、それは( b )んだった。「白紙」は人間が知識を獲得する仕方を一般的に説明するための比喩だったね。その上で、この言葉は、自分の頭で考えることを通してこそ、知識は借り物ではなく、本当に自分のものになると述べているんだね。
Ⅲ 次の会話は、Ⅱの会話の後で、F、G、先生が交わしたものである。
F:考える大切さは分かったけど、考えって人それぞれで違うよね。私は、人と意見が違って衝突しそうになると、自分の考えは脇に置いて相手に従おうとしてしまうんだ。対立して人を傷つけたくないし、自分も傷つきたくないから。
G:でも、c ヘーゲルの弁証法によれば対立にも重要な意味があるって、授業で勉強したよ。対立があればこそ物事は展開するんだって。それに、衝突を恐れるあまり、自分の考えを蔑(ないがし)ろにしてしまっていいのかな。
F:そうだね…。私も、実を言えば、そうして人に合わせるのは、自分自身から目を背けることのような気がしてたんだ。
G:そんな気がするっていうのが大事だと思う。その気にさえなれば、自分を偽らずに相手と向き合い、考えを進めていけるってことだから。d ヤスパースも、「実存的な交わり」が人間には必要だって言っていたね!
先生:考えを進める上で、他の人の存在はもちろん重要です。ただ、考えはあくまでも自分自身の中で深まるものだという点を忘れたくないですね。
G:どういうことでしょう。自分一人ではなかなか考えも深まっていかないように思うのですが…。
先生:日常生活で、何かが心に引っ掛かって残り続けた経験はありませんか。
F:あります。友人にかけた自分の言葉が、それで本当によかったのかずっと気になったり、読んでいた本の一節が、なぜか忘れられなかったり…。
先生:そのとき、なぜ気になったのか、忘れられないのかと自分自身に問いかけることが、考えを深める手掛かりになるでしょう。誰もが同じことに引っ掛かるわけではないのだから、自分の心に残ったものは、他の誰でもなくあなた自身の考えを深めていくための出発点になるのです。
F:心に引っ掛かったことをやり過ごさず、e 立ち止まって考えることで、自分の考えをいっそう深めていける、ということですね。分かってきたけど、まだ少し引っ掛かるなあ…。あれ、これってもしかして…?
先生:それです!
下線部cに関して、次のア・イはヘーゲルの弁証法についての説明である。その正誤の組合せとして正しいものを、後のうちから一つ選べ。
ア 弁証法は、精神が自由を実現する過程を貫く論理である。全て存在するものはそれ自身と矛盾するものを内に含み、それとの対立を通して高次の段階に至る。この運動は個人のみならず社会や歴史の進展にも認められる。
イ 止揚は、否定と保存の意味を併せ持つ言葉である。弁証法において止揚するとは、対立・矛盾する二つのもののうち、真理に近い方を保存し、他方を廃棄して、矛盾を解消することである。

- ア:正 イ:正
- ア:正 イ:誤
- ア:誤 イ:正
- ア:誤 イ:誤
正解!素晴らしいです
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