大学入学共通テスト(公民) 過去問
令和5年度(2023年度)追・再試験
問54 (倫理(第3問) 問8)

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問題

大学入学共通テスト(公民)試験 令和5年度(2023年度)追・再試験 問54(倫理(第3問) 問8) (訂正依頼・報告はこちら)

次の会話は、以下の文章の下線部hに関して、高校生Eと先生が交わしたものである。会話の趣旨に合致する記述として最も適当なものを、次ページの回答選択肢のうちから一つ選べ。

かつてあるイギリスの首相は「社会なるものは存在しない。存在するのは個々の男と女であり、家族である」と語った。しかし、多様な人々が共に生きる場としての社会というものを本当に無視できるのだろうか。社会をめぐる近代の西洋思想をたどることを通じて、私たちにとって社会が持つ意味を考えてみよう。
社会への意識は、まずは人々が共存する秩序を自ら構築しようとするところから生まれた。ルネサンス期のa エラスムスやトマス・モアらの著作に見られるように、中世末期から近世初頭にかけて、共に生きる場である社会の仕組みやルールを私物化することへの先鋭な批判が現れた。そうした批判は、17世紀以降の絶対主義国家の成立の中で、b 国家との関係においてあるべき社会のルールを自ら定めようとする市民の思想の誕生へとつながっていくことになる。その後、c 歴史を通じておのずと社会の秩序が生成してきたと主張した思想家もいた。だがd ヘーゲルはそこに現れる矛盾を鋭く批判し、社会のあるべき姿を模索した。
また、e 人々が時に貧しく困難な生を送っているとき、それを社会全体が対応すべき問題なのだと考える発想を生み出したのも、社会を論じた思想家たちだった。そうした発想は、19世紀において、資本主義体制そのものがもたらす諸矛盾を鋭く批判する社会主義者をはじめとした、f 社会の変革を志向する様々な思想家を生み出した。後のフェビアン協会の思想に見られる福祉国家の構想も、こうした社会問題への対応から生み出されている。
g 社会は多様な人々が共存する場である。社会societyの語源となったラテン語socius(ソキウス)は仲間を意味する言葉だが、そうした仲間の絆(きずな)を超えた包摂性を持つことによってこそ、社会は今あるような意味を獲得してきた。だがh 社会に多様な他者を包摂しようとする努力は、常に一定のモデルに沿って人々を画一化するというリスクと隣り合わせだったことは否定できない。しかし、仲間を超えて人々を結び付ける社会を作り出してきた歴史そのものが、他者と共に生きることへの人間の要求を証している。だからこそ、「他者と共に」の意味を常に新たに鍛え上げていくことが私たちに繰り延べられた課題なのである。

E:この文章の「人々を画一化するというリスク」って何でしょう。「他者と共に」の意味を鍛え上げることが課題とは、どういうことでしょうか。
先生:例えば、誰もが等しく教育を保証されることは、どんな人でも社会の一員として包み込む重要な施策であることは言うまでもありませんね。
E:それはそのとおりだと思います。
先生:ですが、19世紀において既に例えばJ.S.ミルは教育が人々を画一化し得ることの危険性を指摘していました。そして、人々の個性が画一化され、多様な意見が生まれる素地が無くなることが、いかに社会の発展を阻害するものであるかを論じていたのです。
E:うーん、その危惧は分かる気もします。でも先生、一方で教育そのものが必要なくなるわけではないですよね。全ての人を社会の一員として包み込むってやっぱり重要なんじゃないですか。
先生:鋭い指摘ですね。教育や福祉などによって人々を包摂し、そこに生きる全ての人々のニーズに応えることは、社会の重要な役割です。しかし人々のニーズは多様ですから、同じ方法で応えることはできません。無理にそうしようとすると、先に述べたような画一化を引き起こす。こうしたジレンマこそが、社会の現実だと言ってもいいでしょう。
E:社会に生きるって、ジレンマの中を生きるってことか。大変ですね。
先生:でも、そのことを前向きに捉えることはできないでしょうか。ジレンマ
を抱えつつ、それと真摯に向き合い変化していくことは、多様な他者が共存しやすい、私たち自身にとっても生きやすい社会の条件になりますよ。というのも、自分も含め全ての人々の個別のニーズが無下に否定されず、それを考慮すべく努力する社会になるわけですから。
E:だからこそ、「他者と共に」生きることの意味を絶えず問い直していくことが、私たちがより良い社会を作っていくためには必要なのですね。
  • 社会はその成員を画一化する圧力を持つが、多様な他者と共に生きる中で生じる矛盾に向き合う努力に、それを越える契機もある。
  • 社会は多様な他者が存在し共存する場であるので、その全ての成員を等しく包摂しようとする努力は必然的に人々の多様性を増大させる。
  • 社会は多様な人々が共存する場であり常に分裂や対立の危険を孕(はら)んでいるので、その成員の同質化を目指すことが必要である。
  • 社会は多数派の文化の下でその成員を均質化する傾向を不可避的に持つゆえに、私たちが他者と共に生きる困難を低減してくれる場となる。

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