大学入学共通テスト(公民) 過去問
令和6年度(2024年度)本試験
問39 (倫理(第1問) 問8)
問題文
次の会話は、高校生Aとそのいとこの大学生Bが交わしたものである。
A:昔の思想家って、本当に色んなこと思い付きますよね。みんな天才だっていうのはよく分かるけど、色々ありすぎて、とても覚えきれないですよ。
B:おつかれさま。それじゃあ、バラバラに暗記するんじゃなくて、思想の流れを理解するようにしたらどうかな。天才って言われる人たちも、ゼロから思想を生み出したというより、a 先人の考え方を継承しつつ、批判したり再解釈することで、自分の思想を確立したっていうパターンが多いみたいだよ。
A:え、そうなんですか。例えば?
B:例えば、b 儒教の思想家たちはみんな孔子の思想を継承しているよね。
A:なるほど、それはそうか。でもじゃあ、最初の孔子は?
B:孔子もやっぱり、昔の思想を参考にしてるんだよ。そして、儒教の仁や礼の思想へのc 批判から、また別の思想が生まれてゆくんだよね。
A:本当だ、教科書にも「〇〇は✕✕を引き継いで」とか「△△を批判して」みたいな文章、たくさんありますね。読み飛ばしてたな…。これ、宗教の思想家にも当てはまりますか?
B:例えばゴータマ・ブッダは、既存の宗教のd 生命観や理想を受け継ぎながらも、それに飽き足らず、自らの道を求めたと言えるんじゃないかな。
次の会話は、AとBが交わした会話の続きである。
A:さっきの、批判して再解釈するって話ですけど、e ユダヤ教とキリスト教とf イスラームって、教科書に続けて書いてありますよね。その関係も同じように考えると分かりやすいですね。
B:そうだね、歴史の流れの中に位置付けると理解しやすいね。ただし、それは一つの見方にすぎないということも覚えておいてほしいな。
A:他の見方もあるってことですか?
B:それぞれの信仰の立場から見れば違うよ。例えばユダヤ教徒は自分たちの聖書を「旧約」とは呼ばないし、ムスリムはクルアーンを聖書の再解釈ではなく、神の言葉をそのまま記したものと考えているわけだから。
A:なるほど…。そういえば、今日レポートの課題が出たんですけど、まずはテーマに関する本を読んで、先人の議論を理解した上で自分なりに批判や意見を述べるように、って言われたんです。さっきの、g 受け継ぐ、批判するって話となんだか似てますね。
B:その通りだと思う。その意味では、私たちが今やっている勉強やレポート執筆なんかも、古代から思想家たちが行ってきた営みの延長線上にあるんだと思うよ。
後日、AとBは勉強会を開き、次の資料1・2をめぐって後の会話を交わした。以前の会話も踏まえて、以下の会話中のa~cに入る文をそれぞれ次の(ア・イ)(ウ・エ)(オ・カ)から選んだ場合、それらの組合せとして最も適当なものを、後のうちから一つ選べ。
資料1 『スッタニパータ』より
世の中にある種々様々な苦しみは、執着を縁として生起する。およそ無知な者だけが執着を作る。愚か者は繰り返し苦しみに近づく。だから、(それを)知って、苦しみの生ずる源を観察した人は、執着を作ってはならない。
資料2 竜樹(ナーガールジュナ)『中論』より
「行為」を縁として「行為者」は起こり、その「行為者」を縁として「行為」は起こる。これ以外に両者が成立する根拠を、我々は見出さない。
A:この前話したレポートのテーマに、仏教を選んだんです。そこで、大学で詳しく学んでるBのアドバイスが欲しくて。教科書には「竜樹はブッダの縁起の思想を論理的に展開した」とあるけど、どう展開したんですか?
B:まず、ブッダの説いた縁起について確認しよう。資料1の意味は分かる?
A:教科書見ながらでいいですか。えーと、ブッダが、( a )ということ?
B:その通り!では竜樹はそれをどう展開したか。資料2を見てみよう。
A:これも縁起の話なんですか?よく分からない…どういうことですか?
B:歩いている人を「歩行者」と呼ぶよね。この場合、「歩く」が行為で、「歩行者」が行為者だ。普通はまず人がいて、その人が「歩く」と考えるけど、竜 樹によれば、人は「歩き」始めた瞬間に「歩行者」になるのだから、「歩く」と「歩行者」は互いを原因として同時に成立するというんだ。
A:なるほど。確かに言葉の上でだけなら、そうですね。
B:まさにそう!この時成立するのは「歩く」とか「歩行者」を指す言葉、つまり名称と、それらの言葉で表される概念だけで、そこに実体は生じないと竜樹は言うんだ。
A:名称と概念は分かったけど、実体って、何ですか?
B:そのものに固有の、変わらない本性のこと。だから生じたり消滅したりするものには、実体がないことになる。このように竜樹は、( b )と論じて、縁起を同時的な相互依存関係として捉え直したんだね。
A:うーん、なるほど。
B:これで、( c )が分かったんじゃないかな。竜樹に限らず、こうやって「縁起とは何か、突き詰めるとどういうことか」って考えた人たちがいたから、縁起の思想が次第に深まっていったわけだね。
A:それをこうやって勉強していくと、以前Bが言ってた通り、確かに自分もその継承と研究のつながりの延長線上にいるような気がしてきますね。
aに入る文
ア 苦しみの生じる原因は、苦しみを観察して執着するためであるとし、知と観察を手放して苦を離れるべきことを説いた
イ 苦しみには原因があり、原因を滅すれば苦しみから解放されると説いて、 因果関係に基づいた実践を教えた
bに入る文
ウ 我々が名称・概念をもって認識しているあらゆる事物は、相互に依存し合って成立しており、かつ、それらは実体を欠いている
エ 我々が認識していると思っているものは、事物の名称・概念に過ぎず、その実体は、我々の感覚世界を超えたところに存在する
cに入る文
オ ブッダの説いた縁起の思想は誤りを含む素朴なものだったが、継承されてゆく過程で修正と解釈が加えられ、次第に完成されていったこと
カ しばしばブッダが完成したかのように説明される縁起の思想にも、継承されてゆく過程で新たな解釈が加えられ、発展が見られること
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問題
大学入学共通テスト(公民)試験 令和6年度(2024年度)本試験 問39(倫理(第1問) 問8) (訂正依頼・報告はこちら)
次の会話は、高校生Aとそのいとこの大学生Bが交わしたものである。
A:昔の思想家って、本当に色んなこと思い付きますよね。みんな天才だっていうのはよく分かるけど、色々ありすぎて、とても覚えきれないですよ。
B:おつかれさま。それじゃあ、バラバラに暗記するんじゃなくて、思想の流れを理解するようにしたらどうかな。天才って言われる人たちも、ゼロから思想を生み出したというより、a 先人の考え方を継承しつつ、批判したり再解釈することで、自分の思想を確立したっていうパターンが多いみたいだよ。
A:え、そうなんですか。例えば?
B:例えば、b 儒教の思想家たちはみんな孔子の思想を継承しているよね。
A:なるほど、それはそうか。でもじゃあ、最初の孔子は?
B:孔子もやっぱり、昔の思想を参考にしてるんだよ。そして、儒教の仁や礼の思想へのc 批判から、また別の思想が生まれてゆくんだよね。
A:本当だ、教科書にも「〇〇は✕✕を引き継いで」とか「△△を批判して」みたいな文章、たくさんありますね。読み飛ばしてたな…。これ、宗教の思想家にも当てはまりますか?
B:例えばゴータマ・ブッダは、既存の宗教のd 生命観や理想を受け継ぎながらも、それに飽き足らず、自らの道を求めたと言えるんじゃないかな。
次の会話は、AとBが交わした会話の続きである。
A:さっきの、批判して再解釈するって話ですけど、e ユダヤ教とキリスト教とf イスラームって、教科書に続けて書いてありますよね。その関係も同じように考えると分かりやすいですね。
B:そうだね、歴史の流れの中に位置付けると理解しやすいね。ただし、それは一つの見方にすぎないということも覚えておいてほしいな。
A:他の見方もあるってことですか?
B:それぞれの信仰の立場から見れば違うよ。例えばユダヤ教徒は自分たちの聖書を「旧約」とは呼ばないし、ムスリムはクルアーンを聖書の再解釈ではなく、神の言葉をそのまま記したものと考えているわけだから。
A:なるほど…。そういえば、今日レポートの課題が出たんですけど、まずはテーマに関する本を読んで、先人の議論を理解した上で自分なりに批判や意見を述べるように、って言われたんです。さっきの、g 受け継ぐ、批判するって話となんだか似てますね。
B:その通りだと思う。その意味では、私たちが今やっている勉強やレポート執筆なんかも、古代から思想家たちが行ってきた営みの延長線上にあるんだと思うよ。
後日、AとBは勉強会を開き、次の資料1・2をめぐって後の会話を交わした。以前の会話も踏まえて、以下の会話中のa~cに入る文をそれぞれ次の(ア・イ)(ウ・エ)(オ・カ)から選んだ場合、それらの組合せとして最も適当なものを、後のうちから一つ選べ。
資料1 『スッタニパータ』より
世の中にある種々様々な苦しみは、執着を縁として生起する。およそ無知な者だけが執着を作る。愚か者は繰り返し苦しみに近づく。だから、(それを)知って、苦しみの生ずる源を観察した人は、執着を作ってはならない。
資料2 竜樹(ナーガールジュナ)『中論』より
「行為」を縁として「行為者」は起こり、その「行為者」を縁として「行為」は起こる。これ以外に両者が成立する根拠を、我々は見出さない。
A:この前話したレポートのテーマに、仏教を選んだんです。そこで、大学で詳しく学んでるBのアドバイスが欲しくて。教科書には「竜樹はブッダの縁起の思想を論理的に展開した」とあるけど、どう展開したんですか?
B:まず、ブッダの説いた縁起について確認しよう。資料1の意味は分かる?
A:教科書見ながらでいいですか。えーと、ブッダが、( a )ということ?
B:その通り!では竜樹はそれをどう展開したか。資料2を見てみよう。
A:これも縁起の話なんですか?よく分からない…どういうことですか?
B:歩いている人を「歩行者」と呼ぶよね。この場合、「歩く」が行為で、「歩行者」が行為者だ。普通はまず人がいて、その人が「歩く」と考えるけど、竜 樹によれば、人は「歩き」始めた瞬間に「歩行者」になるのだから、「歩く」と「歩行者」は互いを原因として同時に成立するというんだ。
A:なるほど。確かに言葉の上でだけなら、そうですね。
B:まさにそう!この時成立するのは「歩く」とか「歩行者」を指す言葉、つまり名称と、それらの言葉で表される概念だけで、そこに実体は生じないと竜樹は言うんだ。
A:名称と概念は分かったけど、実体って、何ですか?
B:そのものに固有の、変わらない本性のこと。だから生じたり消滅したりするものには、実体がないことになる。このように竜樹は、( b )と論じて、縁起を同時的な相互依存関係として捉え直したんだね。
A:うーん、なるほど。
B:これで、( c )が分かったんじゃないかな。竜樹に限らず、こうやって「縁起とは何か、突き詰めるとどういうことか」って考えた人たちがいたから、縁起の思想が次第に深まっていったわけだね。
A:それをこうやって勉強していくと、以前Bが言ってた通り、確かに自分もその継承と研究のつながりの延長線上にいるような気がしてきますね。
aに入る文
ア 苦しみの生じる原因は、苦しみを観察して執着するためであるとし、知と観察を手放して苦を離れるべきことを説いた
イ 苦しみには原因があり、原因を滅すれば苦しみから解放されると説いて、 因果関係に基づいた実践を教えた
bに入る文
ウ 我々が名称・概念をもって認識しているあらゆる事物は、相互に依存し合って成立しており、かつ、それらは実体を欠いている
エ 我々が認識していると思っているものは、事物の名称・概念に過ぎず、その実体は、我々の感覚世界を超えたところに存在する
cに入る文
オ ブッダの説いた縁起の思想は誤りを含む素朴なものだったが、継承されてゆく過程で修正と解釈が加えられ、次第に完成されていったこと
カ しばしばブッダが完成したかのように説明される縁起の思想にも、継承されてゆく過程で新たな解釈が加えられ、発展が見られること
- a:ア b:ウ c:オ
- a:ア b:ウ c:カ
- a:ア b:エ c:オ
- a:ア b:エ c:カ
- a:イ b:ウ c:オ
- a:イ b:ウ c:カ
- a:イ b:エ c:オ
- a:イ b:エ c:カ
正解!素晴らしいです
残念...
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