司法書士の過去問
平成30年度
午前の部 問26

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問題

平成30年度 司法書士試験 午前の部 問26 (訂正依頼・報告はこちら)

人の生命・身体に対する罪に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

ア  Aは、殺意をもって、出産の際に母体からその頭部が露出した胎児を攻撃し死亡させた。この場合、Aには、殺人罪は成立しない。

イ  Aは、後追い自殺する意思がないのに、交際相手であったBを騙してAが後追い自殺をするものと誤信させ、Bに自殺させた。この場合、Aには、自殺関与罪が成立するが、殺人罪は成立しない。

ウ  Aは、Bに暴行・脅迫を加えて監禁し、その暴行・脅迫によりBに外傷後ストレス障害(PTSD)を負わせた。この場合、Aには、監禁致傷罪が成立する。

エ  Aは、Bの言動に腹を立ててその胸を強く突いたが、Bに怪我を負わせてもよいなどとは思っていなかった。しかし、Bは、Aのその行為により足を滑らせて転倒して頭部打撲の傷害を負った。この場合、Aには、暴行罪のみが成立する。

オ  Aは、狩猟免許を受けて娯楽のために繰り返し猟銃を用いて狩猟を行っていたものであるが、狩猟中に、過失により人を猟銃で撃ち怪我を負わせた。この場合、Aには、業務上過失致傷罪が成立する。
  • アウ
  • アエ
  • イエ
  • イオ
  • ウオ

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この過去問の解説 (3件)

01

正しい肢はウとオで【正解は5】です。

ア × 判例(大判大8.12.13)は、「胎児が既に母体から一部露出した以上、母体に関係なく侵害を加えることが可能であり、殺人罪の客体としての人と言える」としています。

イ × 判例(最判昭33.11.21)は、「被害者は被告人の欺罔の結果、被告人の追死を予期して死を決意したものであり、その決意は真意に沿わない重大な瑕疵ある意思であることが明らかであるので、自殺をさせた被告人は通常の殺人罪に該当する」としています。

ウ ○ 判例(最決平24.7.24)は、「精神疾患の一種である外傷後ストレス障害(PTSD)の発症のような精神的機能の障害を惹起した場合も刑法にいう傷害にあたる」としています。監禁の手段から傷害という結果が発生したので、監禁致傷罪が成立します。

エ × 判例(最判昭22.12.15)は、「傷害罪は、暴行による傷害の場合には、故意犯を原則とするが、暴行の結果的加重犯も含まれ、後者では暴行の故意で足りる」としています。胸を強く突くことは、暴行の故意があり、結果的加重犯としての傷害罪(刑法204条)が成立します。

オ ○ 判例(最判昭33.4.18)は、「刑法211条の業務とは、人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものであることを必要とする。銃器を使用して狩猟のような他人の生命、身体等に危害を及ぼすおそれのある行為を、免許を受けて反復継続してなすときは、その目的が娯楽のためであっても刑法211条の業務とする」としています。

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02

正解:5

ア:誤
胎児が既に母体から一部でも露出した以上は、殺人罪の客体としての人といえます(大判大8.12.13)。したがって、Aには、殺人罪が成立します。

イ:誤
被害者であるBは、Aの欺罔の結果、Aの追死を予期して死を決意したものであって、その決意は真意に添わない重大な瑕疵であることが明らかあり、このようなAに追死の意思がないにもかかわらずBを欺罔してAの追死を誤信させて自殺させたAの行為は、自殺関与罪ではなく殺人罪に該当します(最判昭33.11.21)。

ウ:正
不法に被害者であるBを監禁し、監禁行為やその手段等として加えられた暴行、脅迫により、その結果、Bが外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したと認められる場合、同障害の惹起は刑法にいう傷害に当たり、Aには、監禁致傷罪が成立します(最決平24.7.24)。

エ:誤
傷害罪は結果的加重犯であり、暴行についての認識があれば足り、傷害についての認識までは必要としていません(最判昭25.11.9)。したがって、Aには、傷害罪が成立します。

オ:正
業務上過失致傷罪における業務について、判例は、人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつその行為は他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものとし、行為の目的が収入を得るにあるとその他の欲望を充たすにあるとは問わないとしています。したがって、免許を受けて娯楽として行う狩猟行為も業務に該当し、Aには業務上過失致傷罪が成立します(最判昭33.4.18)。

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03

正解 5

ア 誤り
判例(大判大8年12月13日)は、本肢と同様の事案において、「母体から一部露出中の胎児を殺害した場合、その者に対する殺人罪が成立する。」として、一部露出説を採っています。

イ 誤り
判例(最判昭和33年11月21日)は、本肢と同様の事案において、「被害者は被告人の追死を予期して死を決意したものであり、その決意は真意に添わない重大な瑕疵ある意思であることが明らかであり、被害者の真意に基づかない同意は、202条にいう被殺者の嘱託承諾としては認め得られない。」として、通常の殺人罪に該当するとしました。

ウ 正しい
判例(最決平成24年7月24日)は、「精神疾患の一種である外傷後ストレス障害(PTSD)の発症のような精神的機能の障害を惹起した場合も刑法にいう傷害にあたる」としています。

エ 誤り
傷害罪の故意は傷害結果の認識を要するかについて、判例(最判昭和22年12月15日)は、「有形的方法による傷害の場合には暴行の故意をもって足りる。」としています。

オ 正しい
判例(最判昭和33年4月18日)は、本肢と同様の事案において、「業務上過失致死傷罪の『業務』とは、社会生活上の地位に基づいて反復継続して行われ、または、反復継続して行う意思をもって行われる行為であり、他人の生命・身体等に危害を加えるおそれがあるものをいう。」としたうえで、「『業務』は、行為者の目的がこれによって収入を得るにあるとその他の欲望を充たすにあることは問わない。」としています。

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