司法書士の過去問
令和5年度
午前の部 問12
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問題
令和5年度 司法書士試験 午前の部 問12 (訂正依頼・報告はこちら)
次の対話は、民法上の留置権に関する教授と学生との対話である。教授の質問に対する次のアからオまでの学生の解答のうち、誤っているものの組合せはどれか。
教授: Aを賃借人、Bを賃貸人とするB所有の甲建物の賃貸借契約の期間中に、Aが甲建物についてBの負担に属する必要費を支出し、Bからその償還を受けないまま、賃貸借契約が終了した事例について、考えてみましょう。この事例において、Aは、Bに対し、必要費償還請求権を被担保債権として、甲建物について留置権を主張することが考えられますが、Aが裁判手続外で留置権を行使した場合には、必要費償還請求権の消滅時効の進行に影響を及ぼしますか。
学生:ア はい。Aが甲建物を留置している間は、必要費償還請求権の消滅時効は進行しません。
教授: Aが、留置権に基づいて甲建物を留置している間に、甲建物について有益費を支出し、これによる価格の増加が現存するときは、Aは、Bに、有益費を償還させることができますか。
学生:イ はい。Aは、Bの選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができます。
教授: Aが、留置権に基づいて甲建物を留置している間に、Bに無断で、第三者に甲建物を賃貸したときは、それによって留置権は当然に消滅しますか。
学生:ウ はい。留置権は、当然に消滅します。
教授: 冒頭の事例において、甲建物が火災により滅失し、Bがこれによる保険金請求権を取得した場合には、Aは、留置権に基づき、この保険金請求権に物上代位することができますか。
学生:エ いいえ。Aは、Bが取得した保険金請求権に物上代位することはできません。
教授: 最後に、冒頭の事例において、実は、甲建物の所有者が当初からCであり、C に無断で、BがAに甲建物を賃貸していた場合には、Aは、Bに対し、必要費償還請求権を被担保債権として、甲建物について留置権を主張することができますか。
学生:オ はい。Aは、Bに対し、留置権を主張することができます。
教授: Aを賃借人、Bを賃貸人とするB所有の甲建物の賃貸借契約の期間中に、Aが甲建物についてBの負担に属する必要費を支出し、Bからその償還を受けないまま、賃貸借契約が終了した事例について、考えてみましょう。この事例において、Aは、Bに対し、必要費償還請求権を被担保債権として、甲建物について留置権を主張することが考えられますが、Aが裁判手続外で留置権を行使した場合には、必要費償還請求権の消滅時効の進行に影響を及ぼしますか。
学生:ア はい。Aが甲建物を留置している間は、必要費償還請求権の消滅時効は進行しません。
教授: Aが、留置権に基づいて甲建物を留置している間に、甲建物について有益費を支出し、これによる価格の増加が現存するときは、Aは、Bに、有益費を償還させることができますか。
学生:イ はい。Aは、Bの選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができます。
教授: Aが、留置権に基づいて甲建物を留置している間に、Bに無断で、第三者に甲建物を賃貸したときは、それによって留置権は当然に消滅しますか。
学生:ウ はい。留置権は、当然に消滅します。
教授: 冒頭の事例において、甲建物が火災により滅失し、Bがこれによる保険金請求権を取得した場合には、Aは、留置権に基づき、この保険金請求権に物上代位することができますか。
学生:エ いいえ。Aは、Bが取得した保険金請求権に物上代位することはできません。
教授: 最後に、冒頭の事例において、実は、甲建物の所有者が当初からCであり、C に無断で、BがAに甲建物を賃貸していた場合には、Aは、Bに対し、必要費償還請求権を被担保債権として、甲建物について留置権を主張することができますか。
学生:オ はい。Aは、Bに対し、留置権を主張することができます。
- アウ
- アエ
- イウ
- イオ
- エオ
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この過去問の解説 (2件)
01
民法(留置権)に関する問題です。対話形式の問題で、問題文がやや長く、少し解きずらい問題です。
(ア)留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げません(民法300条)。留置権を行使することは、物を留置することであり、被担保債権を行使しているわけではないからです。従って、本肢は誤りです。
(イ)留置権者は、留置物に有益費を支出したときは、これによる価格が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額または増加額を償還させることができます(民法299条第2項本文)。従って、本肢は正しいです。
(ウ)留置権者は、その物の保存に必要な使用をする場合を除き、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができません。留置権者がこれに違反したときは、債務者は、留置物の消滅を請求できます(民法298条第2項、第3項)。本肢は、Aが、Bに無断で留置物を第三者に賃貸した場合、当然に留置権は消滅するとしているため、誤りです。
(エ)留置権は、債権の弁済を受けるまで、物を留置する権利であるため、物上代位権は認められていません。従って、本肢は正しいです。
(オ)留置権が成立するためには、他人の物を占有している必要があります。この他人は、被担保債権の債務者(本肢ではB)に限られるかどうかが問題となりますが、判例(大審院昭和9年10月23日判決)は、この「他人」は、債務者に限らず、第三者(本肢ではC)であることを妨げないと判断しています。従って、Cの物を占有していても、Bに対する必要費返還請求権を被担保債権とする留置権は成立するので、本肢は正しいです。
「留置権の行使は債権(被担保債権)の消滅時効の進行を妨げない」(民法300条)という規定は、非常に重要です。短い文章ですので、繰り返し音読して暗記で覚えてしまう方法もあります。
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02
留置権の論点です。頻出論点に留置権の行使が被担保債権の消滅時効の進行を妨げないというのがありますが、その理由は、民法総則で出てきた、時効の趣旨を考えればわかります。消滅時効の趣旨は、権利に眠る者は保護しないです。権利行使しないまま、一定の時間が経過すれば、その権利が消滅しても仕方がないということです。しかし、留置権を行使することは、被担保債権そのものを行使することにはならないので、権利行使した以上、権利に眠るとは言えないだろうとは主張出来ないからです。
ア 300条により、留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げません。なぜなら、留置権を行使すること自体は、被担保債権を行使することにならないからです。よって、本肢は不正解となります。
イ 299条2項により、留置権者は、留置物に有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額または増加額を償還させることができるとあるので、本肢は正解となります。
ウ 298条2項及び3項により、留置権者は、留置物を債務者に無断で使用出来ず、これに違反した場合、債務者は留置権の消滅請求が出来るに留まります。違反すれば、当然に消滅するわけではないので、本肢は不正解となります。
エ 留置権の本質は、文字通り、弁済を受けるまで留置することにあり、304条の準用を認める明文がありません。よって、物上代位権は認められていないため、本肢は正解となります。
オ 判例(大審院昭9.10.23)では 留置権は動産の先取特権と異なり、留置物が債務者の所有でなくても、成立するとされています。本肢では第三者であるCの留置物を債務者Bに対する被担保債権(必要費の返還請求権)によって、留置権が成立するとあるので、正解となります。
解法のポイント
対象となる物が債務者所有限定なのは動産先取特権で、留置権は第三者所有であっても成立します。私見ですが、先取特権の場合は公示する方法がなく、取引安全との関係から、債務者所有に限定されるのに対し、留置権も公示方法はないものの、留置権を行使している状況により、自明であることと、果実による事実上の優先弁済権しかなく、留置に特化した権利である以上、第三者の物であっても、行使出来ると考える方が取引安全を考慮しても、留置権者の保護の観点から、全体のバランスが取れると解釈されるからだと思われます。
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