司法書士の過去問
令和5年度
午前の部 問16

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問題

令和5年度 司法書士試験 午前の部 問16 (訂正依頼・報告はこちら)

履行遅滞に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せはどれか。

ア  Aが死亡したら履行するとの履行期を定めた債務の債務者は、Aが死亡した後に履行の請求を受けていなくとも、Aの死亡を知った時から遅滞の責任を負う。
イ  指図証券に記載された期限の定めのある債務の債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
ウ  詐害行為取消権に基づく受領物返還債務の債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
エ  返還時期の定めのない貸金の返還債務の債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
オ  不法行為に基づく損害賠償債務の債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
  • アウ
  • アエ
  • イエ
  • イオ
  • ウオ

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この過去問の解説 (2件)

01

民法(履行遅滞)に関する問題です。ややマイナーな分野からの出題なので、その分、難易度が上がります。

選択肢1. アウ

(ア)「Aが死亡した履行する」との履行期を定めた債務は、不確定期限付債務です。民法412条第2項は、債務の履行について不確定期限があるときは、その期限が到来した後に履行の請求を受けたとき又はその期限が到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う、と規定しています。したがって、本肢は正しいです。

(イ)指図証券の債務者は、その履行について期限の定めがあるときであっても、その期限が到来した後に所持人がその証券を提示してその履行を請求した時から遅滞の責任を負います(民法520条の9)。従って、本肢は誤りです。

(ウ)詐害行為取消権に基づく受領物返還債務は、期限の定めのない債務です(最高裁平成30年12月14日判決)。民法412条第3項は「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」と規定しているため、本肢は正しいです。

(エ)消費貸借契約において当事者が期限の定めをしなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることを要し(民法591条第1項)、貸主(債権者)が相当の期間を定めて返還の催告をしたときは、当該相当の期間が経過した時から、貸主が相当の期間を定めずに返還の催告をしたときは、当該催告から相当の期間を経過した時から、それぞれ、債務者は遅滞の責任を負います(大審院昭和5年6月4日判決、大審院昭和5年1月29日判決)。よって、本肢は誤りです。

(オ)不法行為による損害賠償請求権は、期限の定めのない債務となります。ただし、不法行為による損害賠償請求権は、被害者保護の観点から、不法行為時(損害の発生と同時)に遅滞に陥るとみなされます(最高裁昭和37年9月4日判決)。

まとめ

選択肢(イ)は、過去問でも非常にレアな論点なので、正誤を判断するのがかなり困難です。ただ、本問は組み合わせ問題ですので、この枝が分からなくても、その他の枝の正誤を間違えなければ、正答を導けます。

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02

債権から、履行遅滞の論点です。いつから履行遅滞になるのか、出来れば消滅時効の起算点と共に、各ケースごとに整理しておくことが重要です。

選択肢1. アウ

ア ”Aが死亡したら履行する”と、履行期を定めた債務とは、不確定期限付債務と考えられますから、412条2項で、債務の履行について不確定期限があるときは、その期限が到来した後に履行の請求を受けたとき又はその期限が到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負うとあり、本肢の、”Aが死亡した後に履行の請求は受けていなくても、Aの死亡を知った時に遅滞の責任を負う”は、正解となります。
 

イ 指図証券とは、手形など、裏書で譲渡することのできる有価証券のことを言います。520条の9により、指図証券の債務者は、その履行について期限の定めがあるときであっても、その期限が到来した後に所持人がその証券を提示してその履行を請求した時から遅滞の責任を負うとあり、本肢の期限が到来した時から遅滞の責任を負うとは言えず、不正解となります。
 

ウ まず、本肢の債務が、どのような債務かが問題となりますが、判例(最判平30.12.14)によれば、詐害行為取消権に基づく受領物返還債務は、期限の定めのない債務とされます。よって、412条3項により、「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」とあるため、本肢は正解になります。
 

エ 591条1項により、消費貸借契約において当事者が期限の定めをしなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができるとあり、判例(大審院昭5.6.4)によれば、貸主が相当の期間を定めて返還の催告をしたときは、当該相当の期間が経過した時から、貸主が相当の期間を定めずに返還の催告をしたときは、当該催告から相当の期間を経過した時から、それぞれ、債務者は遅滞の責任を負うとしています。これは消費貸借の性質上、使ってしまったため、同等の物を用意するのに、一定の準備期間(相当の期間)が必要だという配慮によるものと考えれます。よって、本肢は不正解となります。
 

オ 判例(最判昭37.9.4)によると、不法行為による損害賠償請求権は不法行為時から遅滞に陥るとみなされるため、本肢は不正解となります。不法行為による損害賠償請求権は消滅時効の起算点の考え方も含めて、被害者の保護の観点での見解となります。

 

解法のポイント

まず、問題に出てくる債務がどのタイプの債務になるのか?をこれを見極めることで、法定された期限の要件がわかります。典型的なものばかりなので、消滅時効の起算点と一緒に出題される場合もあるため、一緒に整理して憶えておくと、応用が効いてよいと思います。なお、イはマイナー論点なので、今後も出題される可能性は高くないと思われます。

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