司法書士の過去問
令和5年度
午前の部 問26
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問題
令和5年度 司法書士試験 午前の部 問26 (訂正依頼・報告はこちら)
刑法における親族間の犯罪に関する特例に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものは、どれか。
- Aは、同居の長男BがBの先輩であるCと共謀の上起こした強盗事件に関して、Bから頼まれて、Cの逮捕を免れさせるためにのみ、B及びCの両名が犯行の計画について話し合った内容が録音されたICレコーダーを破壊して自宅の裏庭に埋めて隠匿した。この場合、Aは、証拠隠滅罪の刑が免除される。
- Aは、先輩であるBと共謀して、Bと不仲であったBの同居の実母Cの金庫内から、C所有の現金を盗んだ。この場合、Aは、窃盗罪の刑が免除される。
- Aは、ギャンブルで借金を抱えており、同居の内縁の妻Bが所有する宝石を盗んで売却した。この場合、Aは、窃盗罪の刑が免除される。
- Aは、情を知って、同居の長男Bの依頼を受け、Bの友人であるCが窃取し、Bが Cから有償で譲り受けた普通乗用自動車を運搬した。この場合、Aには、盗品等運搬罪が成立し、その刑は免除されない。
- Aは、家庭裁判所から同居の実父Bの成年後見人に選任されたものであるが、自己の経営する会社の運転資金に充てるために、Aが成年後見人として管理しているB名義の銀行口座から預金を全額引き出して、これを着服した。この場合、Aは、業務上横領罪の刑が免除される。
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この過去問の解説 (2件)
01
刑法(親族等の犯罪に関する特例)の問題です。事例問題かつ、正誤問題で、問われている内容が同じレベルであるとすれば、組み合わせ問題よりも、難しくなります。
刑法105条は「前2条の罪(犯人蔵匿等罪、証拠等隠滅等罪)については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯した場合は、その刑を免除することができる」と規定しています。設問では、Aが親族Bのために犯した証拠隠滅罪は免除されるが、Bの共犯者Cは、Aの親族ではないため、AがCのために犯した証拠隠滅罪は免除されません(大審院昭和7年12月10日判決参照)。従って、本肢は誤りです。
刑法244条1項は「配偶者、直系血族又は同居の親族との間で、第235条の罪(窃盗罪)、第235条の2の罪(不動産侵奪罪)又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その罪を免除する」と規定しています。Aと被害者のCは、親族関係にないので、本肢は誤りです。
刑法244条第1項(窃盗罪における親族間の犯罪に関する特例)は、免除を受けるものを明確に定める必要があることから、内縁の配偶者には適用されません(最高裁平成18年8月30日判決参照)。従って、本肢は誤りです。
刑法257条第1項は「配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で、前条の罪(盗品等譲受け罪)を犯しあた者は、その刑を免除する」と規定しています。本条は、本犯(盗品その他財産に関する罪)と、盗品等に関する罪の犯人との間で、一定の親族関係がある場合に、適用されます。本犯Cと、盗品等に関する罪を犯したAの間には、一定の親族関係がないため、Aの刑は免除されないので、本肢は正しいです。
刑法255条によって、刑法244条の規定(親族間の犯罪の免除に関する特例)は、同252条の罪(横領罪)に準用されています。ただし、家庭裁判所から選任された成年後見人が、成年後見人が業務上独占する成年被後見人の財物を横領した場合には、成年後見人と被後見人の間で親族関係があっても、刑法244条の規定は適用されません。(成年後見人は公的な性格が強いため。最高裁平成24年10月9日判決参照)。従って、本肢は誤りです。
事例問題は、問題の対象となる条文をしっかり習得していても、事例を読み間違えて不正解になることがあるので、注意しなければなりません。普段から、事例を読み解く練習をする必要があります。
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02
親族等の犯罪に関する特例の論点です。どのような要件で免責されるのか、また、占有者と所有権者が異なる場合など、親族関係は誰と誰に必要なのかなど、細かい論点が結構、あります。特に注意したいのは、あくまで、刑が免除される場合があるだけで、犯罪自体は成立はすることです。
証拠隠滅等罪は、親族による犯罪に関する特例として、105条の”前二条の罪(104条が証拠隠滅罪)については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。”と規定していますが、犯人(共犯)のうち、親族でない者が含まれている場合が問題となります。判例(大審院昭和7.12.10)によると、共犯者が親族ではない場合、証拠隠滅罪は免除されないと判示しています。よって、本肢は不正解となります。
244条で、”配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪(窃盗)、第235条の2の罪(不動産の侵奪)又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。”とあり、同条3項により、”前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。”とあります。本肢では、Aと被害者のCは、親族関係にありません。よって、本肢は不正解となります。
同居親族に内縁の配偶者が含まれるかが論点となります。判例(最判平18.8.30)によれば、
”刑法244条1項は,刑の必要的免除を定めるものであって,免除を受ける者の範囲は明確に定める必要があることなどからして,内縁の配偶者に適用又は類推適用されることはないと解するのが相当である。”と、しています。そもそも、親族間の犯罪に関する特例制度の趣旨は親族間の紛争に、法を持ち込まず(国家による介入を控える)という考え方にあります。しかし、免除という効果をいたずらに解釈で広めてしまうことは、刑法の犯罪抑制効果や法の平等な適用の観点から、認めるべきではないため、親族間とは、あくまで、法律上の親族に限定すべきと考えられます(244条1項は限定列挙)。よって、本肢は不正解となります。
誰と誰の関係に親族関係が必要になるのかが論点の問題です。257条1項によると、”配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で、前条の罪を犯した者は、その刑を免除する”とあり、前条の罪とは256条の盗品等譲受け罪になるため、本犯と、盗品等に関する罪の犯人との間で、親族関係がある場合に親族特例が適用されることがわかります。本肢は本犯であるCと、盗品等に関する罪を犯したAの間には、親族関係がないため、Aの刑は免除されないことになり、正解となります。
判例(最判平24.10.9)によれば、 成年後見人は公的な性格が強いため、244条(親族間の犯罪の免除に関する特例)の規定は、親族であったとしても、適用されないとしています。よって、本肢は不正解となります。
解法のポイント
組み合わせではなく、正しい肢が分かれば、正解出来る問題です。比較的、最近の判例のものがあるので、消去法で解くのは難しい設問だったかもしれません。
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