司法書士の過去問
令和5年度
午後の部 問12

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問題

令和5年度 司法書士試験 午後の部 問12 (訂正依頼・報告はこちら)

次のアからオまでの登記のうち、登記をすることができるものの組合せはどれか。

ア  更地である甲土地に新築された表題登記のある乙建物を目的とし、乙建物の新築工事に要した費用を被担保債権として申請する不動産工事の先取特権の保存の登記
イ  Aを所有権の登記名義人とする甲土地について、公正証書によりBを借地権者とする事業用借地権を設定する契約が締結されたが、当該事業用借地権の設定の登記がされないまま、AからCへの所有権の移転の登記がされた場合において、Cが当該契約を承諾したときの、Bを登記権利者、Cを登記義務者とし、AとBとの間で当該借地権を設定した日を登記原因の日付として申請する借地権の設定の登記
ウ  甲土地の一部を目的として地上権を設定する契約が締結されたが、甲土地の隣地との筆界を確認することができないために分筆の登記が未了であるときの、分筆未了を理由とした当該甲土地の一部について申請する地上権の設定の仮登記
エ  Aを所有権の登記名義人とする甲土地について、Aがその配偶者であるBとの間にもうけた胎児Cに対して甲土地を贈与する旨の記載がある贈与証書を登記原因を証する情報として提供して、Cの出生前に申請する、AからCへの所有権の移転の登記
オ  工場財団に属した旨の登記がされている甲土地について、その所有権の登記名義人が、当該工場財団の抵当権者の同意を得て甲土地について賃貸借契約を締結した場合の、甲土地について申請する賃借権の設定の登記
  • アウ
  • アオ
  • イエ
  • イオ
  • ウエ

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この過去問の解説 (2件)

01

不動産登記法(登記の可否)に関する問題です。不動産登記法は、午後の部で16問出題されています。午後の部で最大の問題数を数える分野です。

選択肢4. イオ

(ア)不動産工事の先取特権を保存するためには、工事を始める前に、その費用の予算額を登記しなければなりません(民法338条第1項前段)。従って、建築工事が完了した乙建物について、不動産工事の先取特権の保存登記はできないので、本肢の登記はできません。

(イ)Aを所有権の保存登記とする甲土地について、公正証書によりBを借地権者とする事業用定期借地権が設定する契約がされたが、当該契約の基づく借地権の設置の登記が未了の場合に、AからCに所有権の移転登記がされた場合で、Cが当該契約を承認したときは、Bを登記権利者、Cを登記義務者として、AとBの借地権の設定の契約日を登記原因の日付として、事業用定期借地権の設定登記ができます(先例平成17年7月28日-1689)。これは、事業用定期借地権には契約期間があるため、Cが契約を承認した日を登記原因日付とすることが適切でないためです。従って、本肢の登記はできます。

(ウ)承役地についてする地役権の登記を除き、1個の不動産の一部を登記の目的とすることはできません(不動産登記令20条第4号参照)。従って、本肢の登記はできません。

(エ)胎児は原則として権利能力を有しませんが、例外的に、相続については、胎児はすでに生まれたものとみなされます(民法886条1項参照)。しかし、贈与については、胎児はすでに生まれたものとはみなされませんので、本肢の登記はできません。

(オ)工場財団に属するものについては、これを譲渡し、又は所有権以外の権利、差押え、仮差押え、もしくは仮処分の目的とすることはできません。ただし、工場財団を目的とする抵当権者全員の同意を得たときは、工場財団に属した旨の登記のある不動産を賃貸することができます(工場抵当法13条2項参照)。そして、工場財団に属する不動産について、工場抵当法13条但書の規定の基づいて賃借権が設定されたときは、当該不動産を目的とする賃借権の設定登記をすることができます(先例昭和41年12月20日-851)。よって、本肢の登記はできます。

まとめ

(イ)(オ)の論点は、少し難しかったかもしれませんが、この2つは、過去に出題された論点です。

それ以外の枝は、登記できるかどうかを判断することは容易です。

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02

不動産登記法の登記の可否の論点です。登記可能かどうかは、民法の実体上の段階と、登記手続きとして、登記原因の名称や登記原因日付などが正しいかどうかに分かれます。

選択肢4. イオ

ア 民法338条1項により、”不動産工事の先取特権を保存するためには、工事を始める前に、その費用の予算額を登記しなければならない”とあるため、不動産工事の先取特権の保存登記はできません。本肢では、新築されたとあるので、既に工事が完了した後に、不動産工事の先取特権の保存登記はできませんから、本肢の登記はすることが出来ません。
 

イ 事業用定期借地権の登記をするには、公正証書で契約書を作成し、原則として、作成日(契約日)を登記原因日付として、登記する必要があります。しかし、本肢のように、登記未了の間に、土地が譲渡された場合、ケースによっては、もう、残存期間が少ない場合、例えば残り9年では借地借家法の要件(10年以上30年未満)に該当しなくなり、そもそも新たに、公正証書で契約することが出来なくなってしまいます。また、土地の譲受人(本肢のC)の承諾の日を登記原因日付とすれば、申請情報と登記原因証明情報(公正証書)の日付の不一致が起こってしまいます。そのため、先例(平成17年7月28日-1689)により、本肢のようなケースであれば、譲渡前に、作成された公正証書の契約締結日(公正証書作成日)を登記原因日付として、登記が可能としています。よって、本肢の登記は可能です。
 

ウ 不動産登記令20条第4号で、”法第二十五条第十三号の政令で定める登記すべきものでないときは、次のとおりとする。

四 申請が一個の不動産の一部についての登記(承役地についてする地役権の登記を除く。)を目的とするとき。”

とあり、地役権以外は不動産の一部についての登記は出来ません。登記は仮登記も含むと考えらます(特に1号は単に書類不備なだけの実体上、物権ですから、当然、当てはまると考えられます)。本肢では、分筆の登記が未了という理由ですから、不動産の一部に対する地上権の仮登記と考えられます。よって、登記は出来ません。
 

エ 胎児は原則として権利能力を有しません。例外的に、実体法(民法886条1項)上、相続については、胎児はすでに生まれたものとみなされるだけに過ぎません。贈与については、民法の段階で、胎児には権利能力はありませんから、実体上、効果が発生していないことになります。登記は、対抗要件であって、実体法上、成立していない法律行為について、登記は出来ません。よって、本肢の登記はできません。
 

オ 工場抵当法13条2項により、”工場財団ニ属スルモノハ之ヲ譲渡シ又ハ所有権以外ノ権利、差押、仮差押若ハ仮処分ノ目的ト為スコトヲ得ス但シ抵当権者ノ同意ヲ得テ賃貸ヲ為スハ此ノ限ニ在ラス”とあり、但し書きで、工場財団を目的とする抵当権者の同意を得たときは、賃貸をすることができるとあります。また、その旨の登記も可能です(先例昭和41年12月20日-851)。よって、本肢の登記は可能です。

まとめ

解法のポイント

アは民法の問題の段階で、登記不可となります。イは地上権の場合と比較される論点です。事業用定期借地権の場合は公正証書で契約書を作成しなければならない事が理由になっています。

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