司法書士 過去問
令和6年度
問6 (午前の部 問6)

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問題

司法書士試験 令和6年度 問6(午前の部 問6) (訂正依頼・報告はこちら)

時効に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
※商法の適用は考慮しないものとして、解答してください。

ア  不動産の贈与を受け、所有権に基づいて自己の物として不動産を占有する者は、当該不動産について、取得時効を理由として所有権を有することを主張することができない。
イ  期限の定めのない債権の消滅時効は、債務者が履行の請求を受けた時から進行する。
ウ  後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅により当該後順位抵当権者に対する配当額が増加する場合には、当該先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。
エ  時効期間を計算するに当たっては、その期間が午前零時から始まるときを除き、期間の初日は算入しない。
オ  主たる債務者が主たる債務について時効の利益を放棄した場合においても、保証人は、主たる債務の消滅時効を援用することができる。
  • アイ
  • アエ
  • イウ
  • ウオ
  • エオ

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この過去問の解説 (2件)

01

この問題では、時効に関する記述のうち、判例の趣旨に照らして正しいものを選びます。

選択肢5. エオ

ア.不動産の贈与を受け、所有権に基づいて自己の物として不動産を占有する者は、取得時効を理由に所有権を主張できない」とあります。
取得時効とは、一定期間(不動産の場合は10年または20年)継続して占有すると、所有権を取得できる制度です。不動産を贈与された場合、その占有は**「所有の意思」に基づくものと推定される**ため、取得時効の要件を満たせば主張できます。
したがって、誤りです。

 

イ.期限の定めのない債権の消滅時効は、債務者が履行の請求を受けた時から進行する」とあります。
しかし、消滅時効は 権利を行使できる時(=債権が発生した時)から進行します(民法第166条)。

請求を受けた時から始まるわけではないので、誤りです。

 

ウ.後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅により、当該後順位抵当権者に対する配当額が増加する場合には、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できる」とあります。

しかし、時効の援用は、直接の当事者や法律上の利害関係を持つ者しかできません(民法第145条)。
判例(最判昭和37年7月20日)では、後順位抵当権者は先順位抵当権の被担保債権について、単に配当額が増えるという理由では消滅時効を援用できないとされています。
したがって、誤りです。

 

エ.時効期間の初日は、午前零時から始まる場合を除いて算入しない」とあります。
時効期間の計算には初日不算入の原則があるため、基本的には翌日からカウントします(民法第140条)。ただし、期間の開始が午前0時の場合はその日から計算します。
これは法律の一般的な計算方法と一致するため、正しいです。

 

オ.主たる債務者が時効の利益を放棄しても、保証人は時効の援用ができる」とあります。
保証人は、主たる債務者が時効を放棄しても独立して時効を援用できます(最判昭和42年8月18日)。
したがって、正しいです。

まとめ

以下のポイントを押さえておきましょう。

取得時効は、所有の意思をもって占有すれば主張できる(民法第162条)。

消滅時効は、権利を行使できる時から進行する(民法第166条)。

後順位抵当権者は、単に配当額が増えるだけでは先順位債権の消滅時効を援用できない(最判昭和37年7月20日)。

時効期間の計算は初日不算入が原則だが、午前0時からの期間はその日から計算する(民法第140条)。

保証人は、主たる債務者が時効の利益を放棄しても、独立して時効を援用できる(最判昭和42年8月18日)。

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02

時効の基本に関しては、民法第162条~第169条に規定されています。

頻出論点なので、条文を基本にしつつ、よく問われる先例・判例もおさえましょう。

選択肢5. エオ

不動産の贈与を受け、所有権に基づいて自己の物として不動産を占有する者は、当該不動産について、取得時効を理由として所有権を有することを主張することができない。

 

取得時効の要件は、以下のとおりです(民法162条1項)。

1:所有の意思をもって

2:平穏かつ公然と

3:他人の物を占有する

本肢では、「3:他人の物」であるかどうかが問題となりますが、争いの態様によっては自己物に時効取得を認めることが相当であることもあるため、判例は、自己物の時効取得を認めています(最判昭42.7.21)。

よって、取得時効を主張できるため、本肢は誤りです。

 

 

期限の定めのない債権の消滅時効は、債務者が履行の請求を受けた時から進行する。

 

民法第412条第3項では、「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」と規定されています。

しかし消滅時効の起算点は、民法第166条第1項において、

第1号:債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間

第2号:権利を行使することができる時から10年間

と規定されており、これを期限の定めのない債権に当てはめると、どちらの時点も債権の発生時となります。

よって、消滅時点の起算点は債権の発生時なので、本肢は誤りです。

 

 

後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅により当該後順位抵当権者に対する配当額が増加する場合には、当該先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。

 

後順位抵当権者は、先順位抵当権が消えたとしても、反射的利益を受けるにすぎないため、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効の援用をすることができません(最判平11.10.21)。

よって、本肢は誤りです。

 

 

時効期間を計算するに当たっては、その期間が午前零時から始まるときを除き、期間の初日は算入しない。

 

期間の計算については、民法第138条~第143条に規定されています。

そして民法第140条には、「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」と規定されていますので、本肢は正しいです。

 

 

主たる債務者が主たる債務について時効の利益を放棄した場合においても、保証人は、主たる債務の消滅時効を援用することができる。

 

時効の利益の放棄は、時効完成後にすることができます(民法146条)。

そして先例(大判大5.12.25)では、「時効利益の放棄は相対的効力を有するにすぎないため、主たる債務者が時効の利益を放棄した場合であっても、保証人は時効の援用をすることができる」とされています。

よって、本肢は正しいです。

まとめ

解説中の2つの先例(最判平11.10.21、大判大5.12.25)はどちらも頻出ですので、しっかりと覚えておきましょう。

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