公認心理師の過去問
第4回(2021年)
午後 問117

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問題

公認心理師試験 第4回(2021年) 午後 問117 (訂正依頼・報告はこちら)

複雑性悲嘆に対する J. W. Worden の悲嘆セラピーの原則や手続として、誤っているものを1つ選べ。
  • 故人の記憶を蘇らせる。
  • 悲しむのをやめたらどうなるかを一緒に考える。
  • 喪失を決定的な事実と認識することがないように援助する。
  • 故人に対するアンビバレントな感情を探索することを援助する。
  • 大切な人がいない状況での新たな生活を設計することを援助する。

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この過去問の解説 (2件)

01

J. W. Worden の悲嘆セラピーで説かれている4つの課題について、その理解度が問われる問題です。

それでは、4つの課題を復習してみましょう。

第1の課題 喪失の現実を受け入れる

第2の課題  悲嘆の苦痛にむきあう

第3の課題  亡くなった人のいない環境に適応する

第4の課題  亡くなった人との情緒的に再配置し、自分の新しい生活に力を注ぐ

 それぞれに注釈を加えてみることにしましょう。

まず、第一の課題では、葬儀などの伝統儀式に向き合うことが、身近な人の死の受容へと導く手助けとなると解いています。

第二の課題では、悲嘆の苦痛を回避すると、逆に悲哀を長引かせてしまうことを指摘します。

実際、複雑性悲嘆は、うつや自殺念慮などの心の面や、高血圧、心疾患などの身体面に影響することが知られています。

そして、第三の課題では、悲嘆からの真の解放とは、個人の世界観の問い直しが迫られる中で、喪失の意味を探り、それを意義までに昇華させていく過程であることを説きます。

その上で、第四の課題で、例えばそっとそばで見守ってくれている、心の中でいつも一緒に生きていくなどのように、心の中に、亡くなった人を新たに適切に位置づけ、亡くなった人を苦痛なく思い出せるようになった時、悲哀は完了したとみなせるとしています。

 Stroebeは、悲嘆セラピーでは、「悲しみに向き合う過程(喪失志向)」と「新しい生活に取り組む過程(回復志向)」の間を揺らぎながら、どちらかに偏り過ぎることなく、バランスよく交互を行き来できることが大切であると説いています。

 以上のことをふまえ、選択肢を見ていきましょう。

選択肢①は、悲しみに向き合う過程として必要な課題ですから〇ですね。

ただし、これがPTSDの事例であれば、慎重さが求められると思いますが、皆さんいかがでしょうか。

選択肢②は、まさに悲しみに向き合う過程と新しい生活に取り組む過程との間を行き来しようとする援助態度ですね。〇です。

選択肢③は、悲嘆の苦痛回避を肯定しようとする援助になりますので、×ですね。

選択肢④は、アンビバレント(両価的)な気持ち、強すぎる悲嘆に揺らぎをもたらす働きかけとしてウォーデンの悲嘆セラピーに合致していますから〇です。

選択肢➄は、新しい生活に取り組む過程を支援することです。当然、〇です。

 以上の事から、悲嘆セラピーの原則や手続として、誤っているものは③です。

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02

複雑性悲嘆(Complicated grief)は、通常の悲嘆反応よりも深刻で持続的な悲しみや苦痛、絶望感を特徴とする状態です。

一般的な悲嘆反応とは誰しもが経験する大切なものを無くしたときに起きる反応であり、が時間とともに軽減され、新しい現実に適応することができるようになります。

その一方で、複雑性悲嘆はその自然な反応から抑うつ気分や希死念慮と言った精神的負荷が複雑化・深刻化し、期間も数か月から数年にわたって持続することがあります。

その上で、J. W. Wordenによる悲嘆セラピーには、以下の4つの原則(課題)があります。

① 一次的な喪失した現実を受け止める課題

悲嘆者の感情や思考を否定することなく、経験として受け入れることが重要です

② 喪失による悲嘆した感情(痛み)を受け止める課題

悲しみや失望などの悲嘆に対する感情は紛れもない事実であり、それを受け止め表現することが必要です

③ 新しい現実に対する調整を促す課題

喪失してしまったことによって変わった、新しい状況や現実に適応します。自身の感情である内的課題や、自分以外の他者や社会が喪失した先の生活に進んでいる外的課題を認識することが必要です

④ 親密な関係を再編成する原則

新たな現実を向き合いつつも、喪失してしまった対象との繋がりを見つけ出していくことが必要となります。そこで初めて自分の人生を前向きに進めることができます。

選択肢1. 故人の記憶を蘇らせる。

正しいです。

これは通常の悲嘆でも起きることですが、複雑性悲嘆では第一の課題とされます。

選択肢2. 悲しむのをやめたらどうなるかを一緒に考える。

正しいです。

現実を受け止めた後、襲ってくる悲しみという感情を色々な方向性から向き合い、受け止める第二の課題です。

選択肢3. 喪失を決定的な事実と認識することがないように援助する。

誤りです。喪失したということは、決定的な事実です。

当人はこの事実を認めたくないがために様々な防衛機制を行います。

またこの事実を回避することでより一層悲嘆が長引いて苦痛を感じてしまいます。

選択肢4. 故人に対するアンビバレントな感情を探索することを援助する。

正しいです。

アンビバレント(両価的)な気持ちはしばしば、生じてきます。

納得しないといけない気持ち、納得できない気持ち、それぞれが同時に存在し得ることですが、悲嘆を経験した当人は、その苦しさから感情が生起することを避けがちです。

援助者は、それを勇気づけ自然な感情として受け止める手伝いが必要です。

選択肢5. 大切な人がいない状況での新たな生活を設計することを援助する。

正しいです。第4の課題に該当します。

全くいないのではなく、繋がりを感じつつ前を向いていく生き方を尊重します。

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