大学入学共通テスト(地理歴史) 過去問
令和5年度(2023年度)本試験
問17 (世界史B(第3問) 問5)
問題文
あるクラスで、科挙に関する授業が行われている。
高木:中国の科挙について勉強しましたが、子どもの頃から儒学の経典を学んで、何回も受験する人が多いことに驚きました。学校はあったのでしょうか。
先生:中国では、官立学校で儒学を教え、学生は官吏の候補として養成されました。科挙が定着した後、官立学校は全体に振るいませんでしたが、宋代には私立学校の書院が各地にでき、新しい学問である( ウ )も書院の活動のなかで生まれました。17世紀の顧炎武は、官立学校の学生身分を持つ者が増え過ぎて社会問題になっていると論じています。
高木:学生が増えたのが社会問題になったのはなぜでしょうか。
先生:王朝の交替を目の当たりにした顧炎武は、多くの学生が政治上の争いに加担したことを問題として挙げていますが、それには、彼が同時代のこととして見聞した、書院を拠点とした争いが念頭にありました。
高木:それは、( エ )ことではないでしょうか。
先生:そうです。彼はまた、学校教育の停滞も指摘していて、科挙合格のために、当時の官学であった( ウ )を表面的に学ぶことを問題視しました。そこで、学生のあり方や、科挙自体も大幅に改革すべきだと論じています。
吉田:日本では科挙について議論はなかったのでしょうか。
先生:江戸時代の儒学者の中には、科挙は文才を重視し過ぎて実際の役に立っていないとして、むしろa 中国で科挙の開始より古い時代に行われた人材登用制度を参考にすべきだという意見がありました。日本の社会には中国で理想とされる周代と共通する要素があると考え、周代の制度を参考にして、文才ではなく人柄を重視しようとしたのです。
吉田:それはもっともな意見ですが、科挙を採用した国もありましたね。そうした国の人はどう考えていたのでしょうか。
先生:例えば江戸時代の日本を訪れた朝鮮の知識人の一人が、日本には科挙がないので官職が全て世襲で決まり、埋もれた人材がいると書き残しています。日本の儒学者とは反対の意見です。
吉田:それも納得できます。人材の登用はいろいろな問題があるのですね。
下線部aについて述べた文あ・いと、前の文章から読み取れる朝鮮や日本で見られた人材登用制度に関する考えについて述べた文X・Yとの組合せとして正しいものを、後の選択肢のうちから一つ選べ。
下線部aについて述べた文
あ 地方長官の推薦による官吏任用が行われ、結果として豪族が政界に進出するようになった。
い 人材が9等級に分けて推薦され、結果として貴族の高官独占が抑制された。
朝鮮や日本で見られた人材登用制度に関する考え
X 朝鮮の知識人が、科挙を採用せず広く人材を求めない日本を批判した。
Y 日本の儒学者が、周の封建制を否定的に考え、科挙の導入を提唱した。
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問題
大学入学共通テスト(地理歴史)試験 令和5年度(2023年度)本試験 問17(世界史B(第3問) 問5) (訂正依頼・報告はこちら)
あるクラスで、科挙に関する授業が行われている。
高木:中国の科挙について勉強しましたが、子どもの頃から儒学の経典を学んで、何回も受験する人が多いことに驚きました。学校はあったのでしょうか。
先生:中国では、官立学校で儒学を教え、学生は官吏の候補として養成されました。科挙が定着した後、官立学校は全体に振るいませんでしたが、宋代には私立学校の書院が各地にでき、新しい学問である( ウ )も書院の活動のなかで生まれました。17世紀の顧炎武は、官立学校の学生身分を持つ者が増え過ぎて社会問題になっていると論じています。
高木:学生が増えたのが社会問題になったのはなぜでしょうか。
先生:王朝の交替を目の当たりにした顧炎武は、多くの学生が政治上の争いに加担したことを問題として挙げていますが、それには、彼が同時代のこととして見聞した、書院を拠点とした争いが念頭にありました。
高木:それは、( エ )ことではないでしょうか。
先生:そうです。彼はまた、学校教育の停滞も指摘していて、科挙合格のために、当時の官学であった( ウ )を表面的に学ぶことを問題視しました。そこで、学生のあり方や、科挙自体も大幅に改革すべきだと論じています。
吉田:日本では科挙について議論はなかったのでしょうか。
先生:江戸時代の儒学者の中には、科挙は文才を重視し過ぎて実際の役に立っていないとして、むしろa 中国で科挙の開始より古い時代に行われた人材登用制度を参考にすべきだという意見がありました。日本の社会には中国で理想とされる周代と共通する要素があると考え、周代の制度を参考にして、文才ではなく人柄を重視しようとしたのです。
吉田:それはもっともな意見ですが、科挙を採用した国もありましたね。そうした国の人はどう考えていたのでしょうか。
先生:例えば江戸時代の日本を訪れた朝鮮の知識人の一人が、日本には科挙がないので官職が全て世襲で決まり、埋もれた人材がいると書き残しています。日本の儒学者とは反対の意見です。
吉田:それも納得できます。人材の登用はいろいろな問題があるのですね。
下線部aについて述べた文あ・いと、前の文章から読み取れる朝鮮や日本で見られた人材登用制度に関する考えについて述べた文X・Yとの組合せとして正しいものを、後の選択肢のうちから一つ選べ。
下線部aについて述べた文
あ 地方長官の推薦による官吏任用が行われ、結果として豪族が政界に進出するようになった。
い 人材が9等級に分けて推薦され、結果として貴族の高官独占が抑制された。
朝鮮や日本で見られた人材登用制度に関する考え
X 朝鮮の知識人が、科挙を採用せず広く人材を求めない日本を批判した。
Y 日本の儒学者が、周の封建制を否定的に考え、科挙の導入を提唱した。
- あ ― X
- あ ― Y
- い ― X
- い ― Y
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この過去問の解説 (1件)
01
最も適当なのは、「あーX」の組み合わせです。
「あ」は漢代の郷挙里選を指し、「X」は資料中で紹介された朝鮮使節の見解に当たります。
「あ:地方長官の推薦による官吏任用が行われ、結果として豪族が政界に進出するようになった」
漢代の郷挙里選では州・郡の長官が徳行や才能に優れた人物を中央に推薦しました。
やがて豪族が地元の有力者として推薦されやすくなり、中央政府でも重要な地位を占めるようになります。
日本の儒学者が評価した「人物本位」の制度にあたります。
「い:人材が9等級に分けて推薦され、結果として貴族の高官独占が抑制された」
三国魏で始まる九品中正法は、地元の名士(中正官)が家柄と学識で人材を九等に格付けしました。
実際には貴族が高位を独占し、独占が抑えられたわけではありません。
内容が史実と食い違います。
「X:朝鮮の知識人が、科挙を採用せず広く人材を求めない日本を批判した」
文章に登場した朝鮮の使節は、日本に科挙がなく官職が世襲である点を問題視し、「埋もれた人材がいる」と記しています。
科挙を正統的な登用制度とみなす朝鮮側の立場を示します。
「Y:日本の儒学者が、周の封建制を否定的に考え、科挙の導入を提唱した」
本文では、日本の儒学者は周代制度を理想とし、文才より人柄を重んじる登用法を唱えました。
科挙導入を主張したのではないため、記述と合いません。
正しい組み合わせです。
誤りです。
誤りです。
誤りです。
・顧炎武らが念頭に置いた古い制度は、郷挙里選(地方長官推薦)であり、豪族進出の温床にもなりました。
・一方、朝鮮では科挙を国是とし、日本に科挙がないことを批判する声がありました。
この二つを合わせると、人物本位の推薦制と試験制をめぐる東アジア各国の評価の違いが浮かび上がります。
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