大学入学共通テスト(地理歴史) 過去問
令和5年度(2023年度)本試験
問22 (世界史B(第4問) 問2)
問題文
あるクラスで、次の貨幣1・2を基に、授業が行われている。
先生:この2枚の歴史的な貨幣は、東地中海沿岸地域において造られたものです。貨幣1と貨幣2はとても似ていますが、図柄の細部が異なっています。皆さんが調べてきたことを報告してください。
広田:貨幣1は7世紀前半に、発行国の首都であるコンスタンティノープルで造られた金貨です。ソリドゥスと呼ばれる形式の貨幣で、品質が高いことで知られていました。表の面には、発行当時の皇帝とその共同統治者が描かれ、裏面には、中央に十字架、周縁に皇帝の礼賛文が書かれています。
鈴木:貨幣1と同様の形式の貨幣は、地中海世界において国や地域を超えて信用され、流通していました。西アジア地域では、以前から貨幣の使用が活発でしたので、ムアーウィヤが開いた王朝にも征服地で使用する貨幣の発行が求められたようです。
佐々木:貨幣2は、その王朝が貨幣1を模倣して、7世紀後半にシリア地域で発行した金貨です。貨幣2の表の面には人物像が残っていますが、裏面にはアラビア語の銘文が刻まれ、預言者ムハンマドの名前も見られます。このことから、この王朝の支配者がイスラーム教を信仰していることを主張していると分かります。また、図柄にも改変が加えられているように見えます。
鈴木:貨幣2の裏面で、十字架が1本の棒の図柄に変えられているところなどを見ると、貨幣2の模倣の仕方が面白いですね。
先生:貨幣2を発行した王朝では、行政において、シリアとエジプトではギリシア語が、イランとイラクではペルシア語が、主に用いられていました。しかし、貨幣2の発行者は、行政で用いる言語をアラビア語に変更させるなど、統治制度の改革を行っています。7世紀末にはさらに、アラビア文字のみが刻まれた独自の貨幣に改めましたが、これも行政で用いる言語の変更と同様の趣旨があると思います。
授業の後、生徒たちは授業の内容を基にメモを作成した。前の文章を参考にしつつ、生徒たちがまとめた次のメモの正誤について述べた文として最も適当なものを、後の選択肢のうちから一つ選べ。
佐々木さんのメモ
貨幣2を発行した王朝は、各地で使われていた言語を行政において用いることを認めていたが、貨幣2の発行者はそれをアラビア語に変更するなど、統治制度の改革を進めた。アラビア文字のみが刻まれた独自貨幣の発行も、そのような改革の一例であったと言える。
鈴木さんのメモ
貨幣2を発行した王朝は、貨幣1を模倣しながらも、十字架の図柄を改変しコーラン(クルアーン)の言語で刻まれた銘文を採用して、王朝の支配者がイスラーム教を信仰していることも明確に打ち出した。
広田さんのメモ
ソリドゥス金貨は、ヴァンダル王国を滅ぼした皇帝によって発行が始められた。それが地中海世界において国や地域を超えて流通しており、その信用性を利用しようとしたことが、貨幣2が貨幣1を模倣して発行された理由の一つだった。

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問題
大学入学共通テスト(地理歴史)試験 令和5年度(2023年度)本試験 問22(世界史B(第4問) 問2) (訂正依頼・報告はこちら)
あるクラスで、次の貨幣1・2を基に、授業が行われている。
先生:この2枚の歴史的な貨幣は、東地中海沿岸地域において造られたものです。貨幣1と貨幣2はとても似ていますが、図柄の細部が異なっています。皆さんが調べてきたことを報告してください。
広田:貨幣1は7世紀前半に、発行国の首都であるコンスタンティノープルで造られた金貨です。ソリドゥスと呼ばれる形式の貨幣で、品質が高いことで知られていました。表の面には、発行当時の皇帝とその共同統治者が描かれ、裏面には、中央に十字架、周縁に皇帝の礼賛文が書かれています。
鈴木:貨幣1と同様の形式の貨幣は、地中海世界において国や地域を超えて信用され、流通していました。西アジア地域では、以前から貨幣の使用が活発でしたので、ムアーウィヤが開いた王朝にも征服地で使用する貨幣の発行が求められたようです。
佐々木:貨幣2は、その王朝が貨幣1を模倣して、7世紀後半にシリア地域で発行した金貨です。貨幣2の表の面には人物像が残っていますが、裏面にはアラビア語の銘文が刻まれ、預言者ムハンマドの名前も見られます。このことから、この王朝の支配者がイスラーム教を信仰していることを主張していると分かります。また、図柄にも改変が加えられているように見えます。
鈴木:貨幣2の裏面で、十字架が1本の棒の図柄に変えられているところなどを見ると、貨幣2の模倣の仕方が面白いですね。
先生:貨幣2を発行した王朝では、行政において、シリアとエジプトではギリシア語が、イランとイラクではペルシア語が、主に用いられていました。しかし、貨幣2の発行者は、行政で用いる言語をアラビア語に変更させるなど、統治制度の改革を行っています。7世紀末にはさらに、アラビア文字のみが刻まれた独自の貨幣に改めましたが、これも行政で用いる言語の変更と同様の趣旨があると思います。
授業の後、生徒たちは授業の内容を基にメモを作成した。前の文章を参考にしつつ、生徒たちがまとめた次のメモの正誤について述べた文として最も適当なものを、後の選択肢のうちから一つ選べ。
佐々木さんのメモ
貨幣2を発行した王朝は、各地で使われていた言語を行政において用いることを認めていたが、貨幣2の発行者はそれをアラビア語に変更するなど、統治制度の改革を進めた。アラビア文字のみが刻まれた独自貨幣の発行も、そのような改革の一例であったと言える。
鈴木さんのメモ
貨幣2を発行した王朝は、貨幣1を模倣しながらも、十字架の図柄を改変しコーラン(クルアーン)の言語で刻まれた銘文を採用して、王朝の支配者がイスラーム教を信仰していることも明確に打ち出した。
広田さんのメモ
ソリドゥス金貨は、ヴァンダル王国を滅ぼした皇帝によって発行が始められた。それが地中海世界において国や地域を超えて流通しており、その信用性を利用しようとしたことが、貨幣2が貨幣1を模倣して発行された理由の一つだった。

- 佐々木さんのみ正しい。
- 佐々木さんと鈴木さんの二人のみが正しい。
- 鈴木さんと広田さんの二人のみが正しい。
- 三人とも正しい。
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この過去問の解説 (2件)
01
最も適当な選択肢は、
「佐々木さんと鈴木さんの二人のみが正しい。」
です。
ここでは、三人の意見の正誤を判断します。
佐々木さん:
貨幣2を発行したウマイヤ朝において、シリア・エジプトではギリシア語が、イラン・イラクではペルシア語が、行政語として認められていましたが、貨幣2の発行者である、ウマイヤ朝第5代カリフ、アブド・アルマリクは、それをアラビア語に変更し、またアラビア文字のみが刻まれた独自貨幣・ディーナール金貨も発行するなど、統治制度の改革を進めました。したがって、正しいです。
鈴木さん:
貨幣2を発行したウマイヤ朝は、貨幣1のソリドゥス金貨を模倣しつつ、十字架の図柄を改変し、コーラン(クルアーン)の言語たるアラビア語で刻まれた銘文を採用して、王朝の支配者がムスリムであることを示しました。したがって、正しいです。
広田さん:
ソリドゥス金貨は、4世紀前半のローマ皇帝、コンスタンティヌス1世によって発行が始められました。ヴァンダル王国を滅ぼしたビザンツ皇帝、ユスティニアヌス1世のことではありません。したがって、誤りです。
以上のことから、佐々木さんと鈴木さんの二人が正しいです。
誤りです。
正解です。
誤りです。
誤りです。
4世紀前半の帝政ローマ時代にコンスタンティヌス1世によって鋳造されたソリドゥス金貨は、7世紀のビザンツ帝国においても鋳造され続け、さらにはシリアを手中に収めたウマイヤ朝も、当初はこの形式の金貨を模倣しました。
しかし、ウマイヤ朝第5代カリフ、アブド・アルマリクは、7世紀末にはアラビア語のみ(クルアーンの章句とカリフの名)が刻まれたディーナール金貨を、ダマスクスで独自に発行して王朝全土に流通させ、イスラーム王朝としてのアイデンティティーを明確に示しました。
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02
正しい選択肢は、
「佐々木さんと鈴木さんの二人のみが正しい」 です。
佐々木さんは、アラビア語化と貨幣改革というアブドゥルマリク(ウマイヤ朝)期の行政改革を正しく押さえています。
鈴木さんも、キリスト教的図像を削除しアラビア語銘文で信仰を示した模倣金貨の特徴を的確に述べています。
一方、広田さんはソリドゥス金貨の起源を誤っているため不正確です。
【各メモの検討】
佐々木さんのメモ
ウマイヤ朝初期は地域ごとにギリシア語・ペルシア語など既存の行政言語を維持していました。
カリフ アブドゥルマリク(位685〜705年) が行政公用語をアラビア語に統一し、同時にアラビア文字のみの貨幣(ディナール・ディルハム)を発行しました。
→ 叙述は史実と一致し、正しいです。
鈴木さんのメモ
7世紀後半、ウマイヤ朝はビザンツ金貨(ソリドゥス)を模倣しつつ、裏面の十字架を柱状に変え、アラビア語で「アッラーの僕ムハンマド」「神は唯一」などの銘文を加えました。
これにより支配者がイスラーム教徒であることを示す意図がはっきりします。
→ 内容は史実と合致し、正しいです。
広田さんのメモ
ソリドゥス金貨はコンスタンティヌス1世(4世紀初頭)が創設した貨幣体系で、ヴァンダル王国を滅ぼしたユスティニアヌス1世(6世紀)が始めたわけではありません。
したがって、起源を「ヴァンダル王国を滅ぼした皇帝」とする記述は誤りです。
誤りです。
正しいです。
誤りです。
誤りです。
ビザンツ帝国の高純度金貨ソリドゥスは、信頼性の高さから地中海全域で流通し、ウマイヤ朝も当初はこれを模倣しました。
しかし、アブドゥルマリクの改革でアラビア語銘文と装飾の簡素化が進み、独自アイデンティティを確立します。
今回の問題は、こうした貨幣改革と行政言語統一という二つの施策を正しく把握しているかどうかが判断基準になりました。
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