大学入学共通テスト(公民) 過去問
令和6年度(2024年度)本試験
問50 (倫理(第3問) 問3)

このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。

問題

大学入学共通テスト(公民)試験 令和6年度(2024年度)本試験 問50(倫理(第3問) 問3) (訂正依頼・報告はこちら)

以下を読み、後の問いに答えよ。なお、会話と問いのD、E、Fは各々全て同じ人物である。

次の会話は、ある日の授業の後に高校生D、E、Fが交わしたものである。

D:今日の倫理の授業はいつもと随分違っていたね。a ルネサンス期の絵画を見て、その中で何が起きているか考えるって、美術の時間みたいだった。
E:でも倫理っぽいとも思ったよ。考えたことだけじゃなくて、なぜそう考えたかもみんなと話し合ったから、頭を一杯使ったし、緊張したなあ。
F:それにしても、同じ絵なのに、注目するところもどう感じるかも、人によって違うのは面白かったな。
E:そういえば、教科書の中で、b 宗教改革の思想を扱ったところに、ルターの肖像画があるじゃない?厳格そうな雰囲気がして私は苦手なんだけど、誠実さが伝わってきて清々しいという友達もいて驚いたな。でも、倫理の問題と違って、芸術は結局、人それぞれの好みで楽しむものなのに、話し合うことに意味があるのかな?それに、感動ってそもそも言葉で表しにくいものじゃない?説明を求めるのは無理があるよ。
F:確かにそういう面もあるだろうけど、他の人が何にc を感じるのかを知ることで視野が広がるということもあると思うよ。
D:視野を広げるのは大事だと思うけど、話し合うのがいい方法なのかな。芸術の専門家に正しい見方を教えてもらう方が、偏りがないと思う。d 時代を超えて受け継がれた名作ってあるよね?正しい見方が分かれば、そういう古典の良さも分かるはずだし、それが成長することじゃないかな。
E:この作品がいいと教わったから私もそれがいいと思う、というのはなんだか自分の気持ちに噓(うそ)をついているみたいだ。それに芸術作品について、これが正しい見方だと決めつけてしまうと、逆に視野が狭くならないかな。
F:専門家に学ぶのは大事だけど、専門家自身、決まった正しい見方を知っているというより、日々知識を深めながら、自分とは異なる考え方も吟味して、よりよい見方を目指しているんじゃないかな。

下線部cに関連して、Fと先生Tは次の会話を交わした。カントの思想と後の資料についての説明として最も適当なものを、後のうちから一つ選べ。

F:カントによれば、人間は道徳法則の命令に無条件に従うべきなのですね。美しさについても無条件の法則があると考えているのでしょうか?
T:いい質問ですね。カントは、道徳の判断も美の判断も、普遍的な立場から行われるべきだと述べていますが、美の場合は、普遍的な法則を根拠にするのとは異なる判断の仕方を求めています。彼は美を判断する能力のあり方を「共通感覚」と呼び、この資料のように説明しています。

資料 『判断力批判』より
私たちが共通感覚を働かせるためには、自分の判断を、他者の実際の判断と照合するというよりも、むしろ、ただ他者が行う可能性のある判断と照合し、私たち自身の判断にたまたま付きまとっている制約をただ取り除くことによって、他のあらゆる人の立場に身を置かなければならない。

F:なるほど。カントの要求を満たすのは簡単ではなさそうですね…。
  • 認識能力の範囲と限界を問う批判哲学を唱えたカントは、資料によれば、他人なら美しさをどう判断するか、その可能性を考慮せよと求めた。
  • ルソーによって「独断のまどろみ」から目覚めたと語ったカントは、資料によれば、美について自己の限定された視点を乗り越えるよう求めた。
  • 感性と悟性の協働により認識が成立するとしたカントは、資料によれば、美について自己が行う判断を、他者が行った判断と照合すべきだとした。
  • 「物自体は認識に従う」というコペルニクス的転回を唱えたカントは、資料によれば、人は自分の個性に即した独自の美の基準を持つべきだとした。

次の問題へ

正解!素晴らしいです

残念...

この過去問の解説 (1件)

01

この問題では、カントの美の判断に関する思想を資料と照らし合わせて理解することが問われています。特に「共通感覚」や「他者の立場に身を置く」というカントの特徴的な観点に注目しながら、正しい説明を選ぶ必要があります。
では、問題を見てみましょう。

選択肢1. 認識能力の範囲と限界を問う批判哲学を唱えたカントは、資料によれば、他人なら美しさをどう判断するか、その可能性を考慮せよと求めた。

この選択肢は正しいです。カントは、自身の批判哲学の中で、人間の認識の限界を問いながら、感性と理性の働きに注目しました。美については、主観的でありながら普遍的な性質をもつ判断が可能だとし、その根拠を「共通感覚」に求めました。資料にある「他者が行う可能性のある判断と照合し」「他のあらゆる人の立場に身を置かなければならない」という表現は、この「共通感覚」の働きの説明に一致しており、選択肢の内容もそれに合致しています。

選択肢2. ルソーによって「独断のまどろみ」から目覚めたと語ったカントは、資料によれば、美について自己の限定された視点を乗り越えるよう求めた。

この選択肢は誤りです。たしかにカントはルソーの思想に影響を受けたと語っており、ルソーが彼の思想形成に影響を与えたことは事実です。しかし、資料の内容は「自己の限定された視点を乗り越える」ことに言及しているのではなく、「他のあらゆる人の立場に身を置く」ことで判断の偏りをなくすという観点に重点が置かれています。選択肢では「自己の限定された視点を乗り越える」と説明しており、一見似た内容に見えますが、資料の本旨である「共通感覚による他者との共有の志向」を的確に捉えているとはいえません。

選択肢3. 感性と悟性の協働により認識が成立するとしたカントは、資料によれば、美について自己が行う判断を、他者が行った判断と照合すべきだとした。

この選択肢は誤りです。カントは、感性と悟性の協働によって認識が成立するという認識論を展開しましたが、美的判断に関しては、実際の他者の判断と照合することは必要ないと考えていました。資料にも「他者の実際の判断と照合するというよりも」とあるように、美の判断は他者の実際の判断と比べるのではなく、他者ならどう判断するかを想像することに意味があるとされており、選択肢の記述は資料と矛盾しています。

選択肢4. 「物自体は認識に従う」というコペルニクス的転回を唱えたカントは、資料によれば、人は自分の個性に即した独自の美の基準を持つべきだとした。

この選択肢は誤りです。カントが唱えた「コペルニクス的転回」とは、認識が対象に従うのではなく、対象が認識に従うという立場の転換を指します。しかし、この選択肢に書かれている「人は自分の個性に即した独自の美の基準を持つべきだ」という主張は、カントの考え方とは異なります。カントは、美の判断において個人的な好みにとどまることを批判し、「共通感覚」によって他者と共有可能な普遍性を目指すべきだと述べています。したがって、この選択肢は資料ともカントの思想とも一致しません。

まとめ

この問題では、カントが美的判断において主張した「共通感覚」の内容と、実際の他者との照合ではなく想像による普遍性の志向という姿勢を理解することが重要でした。したがって、単なる好みの表明ではなく、美しさを他者と共有可能なものとして捉える視点を中心に学習しておくことが大切です。

参考になった数0